ゼミ生に”せがまれて”、広告マネジメンの専門書を、春休みのテキストに採用することにした。女子学生たちが、広告関連の本を読みたがったからだ。本日から春合宿に入るが、彼女らは自らの要求について、いまごろ大いに後悔しているだろう。
本書は、2000年に刊行された(原著は1997年)、ロシターとパーシーの同名書の「改訂版」である。著者たちは、前著とは別の本として認知してほしいと思っている。
原著のタイトルは、”Marketing Communications”である。このタイトルは、著作のなかでは、翻訳書でも、一貫して「マーコム」と略称で呼ばれている。著者の相方は、パーシーからベルマンに代わったが、「マーケティング・コミュニケーション」(ブランドを中心においた広告の実務的な解説書)に関する基本概念など、10年前のアイデアはさらに拡張・発展がなされている。
実務家の経験的なアイデアと研究者のリサーチ結果を橋渡しようと意図して、本書は書かれている。実業界の知恵と研究者の理論を統合することが狙いであった。野心的な試みは、大いに賞賛できる。成果も、充分に成功しているのはまちがいない。
初版よりも改訂版のほうが、広義の広告については体系的に書かれている。改訂版については、評者も翻訳書でしか読んでいない。原書で読めば、もっとその点が明確になったかもしれない。申し訳ないが、わたし自身はまだ原著を手にしていない。
第一部が「マーコムとブランド・ポジショニング」、第二部が「キャンペーン目的」、第三部が「クリエイティブ戦略」、第4部が「メディア戦略」である。第5部「プロモーション戦略」、第6部「キャンペーン管理」という構成は、標準的な広告論の展開になっている。最後に、かなり長い「用語集」が付録としてつけられている。翻訳書としては、500ページ弱の大著である。
前著との大きな変更点は、初版は、「ブランド論」の本としてポジショニングされていたが、改訂版は、マーケティング・コミュニケーション一般論にしてあることである。サブタイトルに「IMC(Integrated Marketing Communications)」が入っている、著者たちの意図がこれによくあらわれている。
たくさんあるブランド論の一冊という位置づけに対しては、著者たちも、初版の刊行からほぼ10年が経過して、しだいに居心地がよくなくなってきたのだろう。著者として、「差別化」をかなり意識して考えたようだ。10年の間で、広告を取り巻くメディア環境にもドラスティックな変化があった。メディアのとり扱いは、もしかすると、まだ中途半端なのかもしれない。
これから、学生たちと3日間、茨城県の合宿所で本書を輪読することになる。学生たちにとって、ややかわいそうだと思うことがある。監訳者の岸志津江先生(東京経済大学経営学部教授)には、たいへんに申し訳ないが、翻訳が「わかる日本語」になっていないのである。
学生たちからは、この点に関して、苦情が出ている。学生たちの頭が悪いのではない。翻訳を担当したひとたちの日本語が悪いのである。下手をすると、原著で読ませたほうが概念の説明がわかりやすかったかもしれない。章ごとに、多少の出来不出来はあるものの、基本的に読者をマーケティングを学ぶ学生や実務家として想定しているのであれば、もっと平易な文体にしてほしかった。
今晩から、学生に対しては、「原語(英語)の表現では、きっとこんな風になっているはずだよ」、と説明しなければならない。本書の内容と枠組みが素晴らしかっただけに、この点がとても残念である。