大震災からの教訓とアマゾンの在庫切れ

 新学期が始まっている。大学院の「マーケティング論」のテキスト『マネジメントテキスト マーケティング入門』(日本経済出版社、2009年)も、アマゾンでは「通常5~9日以内に発送します」に変わってしまった。中古品はあるようだが、新品はもう倉庫にはないらしい。


困ったことになった。周囲の複数人の出版関係者から聞いたところでは、アマゾンの市川物流倉庫が、液状化で壊滅的な打撃を受けているとのこと。危険で倉庫に入れない上に、近くに住んでいる従業員も被災したため、復旧のための作業要員も不足しているらしい。
 そんな中で、同じオンラインショップの楽天では、拙著『しまむらとヤオコー』も『マーケティング入門』も在庫切れにはなっていない。微妙な差ではあるが、在庫切れの影響は、おそらくこの先のアマゾンのビジネスに大きな打撃を与えると思われる。
 わたしなども、研究室からの書籍の発注先に、これからは「楽天ブックストア」を入れることになる。今回の品切れでもなければ、起こりえなかったことである。物流インフラのパイプラインがどれほど大切かを、身をもって体験することになった。

 今回の大震災では、自動車産業に大きな被害が出ている。工場の場合は、自動車会社本体でも、3次~4次下請けの工場時がどこに立地しているのかを、正確には把握できていない。部品が調達できないために、被災していない最終アセンブリーラインが、動かなくなっている。
 この影響は、国内の工場にとどまらない。遠くは、米国や欧州の非日系自動車工場にも及んでいる。グローバルに部品を調達しているからではあるが、より根本的な問題は、パイプラインを流れている部品や原材料の「トレーサビリティ」が完全に掌握できていなかったからである。
 部品を直に供給している協力工場からさらに先の下請け工場となると、構成部品や塗料や資材のソーシングが当面はまったくわからないらしい。世界に誇れる精巧な自動車生産システム(JITシステム)は、部品在庫の供給ネットワークではなく、供給時間と数量で組み立てられていたことが露呈したのである。
 これからは、不測の事態に備えて、ロジスティック・システムを再考せざるをえないだろう。緊急時に必要な情報は別にあることや、バックアップ体制を迅速に動かす別系統の補完システムが必要である。そのことは、原子力発電所の緊急事態への対処の仕方と同じである。
 
 すべては、震災からの教訓である。福島原発の惨状も自動車工場の不具合も、アマゾンの物流センターが稼動していない現状も、根本的な問題は同じである。基本的なところの欠陥は、緊急時のバックアップシステムがきちんと構築できていなかったことにある。
 それだけではない。緊急対応システムを動かすための、人的なコミュニケーションが確立していなかったからである。事前の「実行計画」はたしかにあったのだが、手引書に書かれた以外の「実施システム」が機能停止状態だったのである。

 大津波から災難を逃れたグループ(学校や地域コミュニティ)の話を総合すると、避難訓練の際の指示マニュアルに沿って、忠実に避難経路が選ばれている。しかも、高台への避難はかなり迅速だったという。
 どちらかといえば、世間一般の解釈は、堤防の高さの不足や建物の強度に問題があったと指摘している。しかし、生死を分けた分水嶺は、そうしたハードの要因にあったわけではなさそうだ。
 今回のような自然の大災害は、天災である。ある意味では、われわれ人間には防ぎようがない。むしろ災害が起こったときに、人やものを動かすためのソフトな対策のほうが重要なのではなかろうか。そのために、わたしたちは、もっと知恵を絞る必要があるように思う。