鎌田由美子『エキュート物語』(★★★★)、月泉博『ユニクロVSしまむら』(★★★★)

元日明けに、流通に関連して3冊の本を読んだ。日本語の一冊は、鎌田由美子(2007)『エキュート物語』(かんき出版)、もう一冊は、月泉博(2006)『ユニクロVSしまむら』(日本経済新聞社)である。


後者は、昨年度、ゼミの課題図書に指定してあったので、厳密に言えば読み直しである。
 英語の本は、Keith Lincoln and Lars Thomassen, (2007) ’How to Succeed at Retail: Winning Case Studies and Strategies for Retailers and Brands,’Kogan Pageである。外れだったので特段にコメントしない。
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 鎌田さんの本は、年末に購入してあったが、時間が無くて読めていなかった。2005年にエキュート大宮の舞台裏を見せてもらっていたので、興味深く読むことができた。わたしどもが、2005年6月から翌年1月にかけて、店舗調査に関与する前の準備段階の話が主であった。開業前後の人間模様はうまく描けているのだが、肝心のエキナカ商売の特徴が明確に記述できていないと感じた。そこが残念だった。たぶんエキュートに入店している店舗側の事情があるのだろう。良いことばかりではない。退店したテナントもあった。そこは明確に書けなかったのだろう。
 エキナカの駅ナカたるゆえん(商業立地としての新しさと難しさ)を、機会があれば紹介して欲しかった。鎌田社長は気がついているはずである。エキナカ商売には、そう簡単には克服できない固有の問題も多い。例えば、店の看板の統一性。本書では良いほうに記述してあったが、店舗の立場と消費者の視認性(見つけやすさ)からするとルールの変更を考えたほうがよいとわたしは感じている。
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 月泉氏の本は、現在構想している「しまむらとヤオコー」(小川町物語)の話を書くうえで、とても参考になった。一年ほど前まで、ユニクロのことは詳しく知っていたが、著者とはちがって「しまむらウォッチャー」ではなかった。青木恭子が集めてくれていたので、月泉氏が書いた雑誌原稿などは前もって読んでいた。一冊の本としてあらためて読んでみると、両社の事業構造の比較について理解がより深まった気がする。現在を実にうまくまとめてある。
 この本を読んでいて、気がついたことがいくつかあった。ひとつは、しまむらを語る上で、創業者の島村オーナーの存在をもっと正当に評価してもらいたいということである。企業のあり様を規定するのは、所詮は資本の論理である。島村オーナーが、藤原、後藤のラインに仕事を任せたことが、しまむらを現在の形に導いたのである。わたしの経験によれば、大企業のオーナー経営者は、一般には嫉妬心の塊のようなものである。部下が正しい場合でも、白を黒と言い張り、自分の我欲を押し通そうとするものである。権力に対する恐怖心から来るのだが、あまりに有能な部下は放逐しようとする。身内びいきもある。そのことで、経営が破綻していく様を何例も見てきた。島村オーナーが、有能なサラリーマン経営者(藤原会長)を自由にさせた功績は並みの人間ではない。
 小売業の成り立ちには、企業が育った風土によって決まるものである。したがって、歴史的な事実も忘れてはならない。藤原会長は、「富士山に登るのに、登る道がちがうだけ」と言っているが、それはちょっと違うような気がする。両社の成長は、郊外の田舎立地(フリースタンディング立地)を起点としている。商店街の中にあったどこにでもあるような衣料品の専門店が、郊外を選んだところまでは同じだった。
 両社ともに、当時としては特別にめずらしい出発ではなかった。1980年代に、両社は小売規制(大店法の強化)と立地変動(郊外のフリースタンディング立地)の波に乗ったのである。基本モデルはその後に離れていくが、月泉氏が指摘しているように、共通なのは、GMS(総合スーパー)から顧客を奪って成長したことである。そして、地方都市の中心商店街からもお客を奪っていくのである。そのことにはあまり触れられていないが、大店法という制度に守られていると安心していた2つの業態(GMSと商店街の中の専門店)を代替して、地方に住む平均的な日本人(主婦と若者)に日常衣料品を効率よく提供する仕組みを構築したのである。
 そして、計ったように未来をデザインしていくしまむらと、ジェットコースターのようにアップダウンを繰り返すユニクロとは、ほとんど似て非なるビジネスモデルを作ることになった。わたしはユニクロの個人的なファンであるが、店舗開発などは当初から首尾一貫してはいなかった。日本には珍しい「狩猟民族型」の小売業である。悪く言えば、すべてが場当たり的である。そして、わたし自身もそうだが、柳井会長は達成欲に突き動かされたギャンブラーである。
 しまむらは、それとは逆の「農耕民族型」の経営パターンを歩んできた。他業態からもベンチマークされているのは、未来を計画する小売業だからである。消費者の変化を見据えて(天候の変化を予測するように)、消費者とともに未来を読み取る能力を持っていたことが、しまむらの現在を築いてきた要因である。庄屋さんで篤農家が島村で、元気の良い若衆の頭が藤原と後藤だったのだろう。