推薦図書: 安井孝(2010)『地産地消と学校給食(有機農業選書)』コモンズ(★★★★)

 先月、法政大学地域研究センターから、「第8回地域政策研究賞(イノベーティブ・ポリシー賞)」の選考委員を仰せつかった。最終選考に残った書籍(実践)のひとつを論評するしごとである。応募作品は、『地産地消と学校給食 ― 有機農業と食育のまちづくり―』であった。

 審査対象者は、 安井孝氏である。今治市役所の総合政策部企画課政策研究室に所属している方である。今治といえば、オーガニックコットンの「池内タオル」(池内社長)。さっそく、電話で池内さんに問い合わせみた。対象者ご本人のことは、知らなかったが(池内さんは、今治市在住はない!)、学校給食への取り組みはご存知だった。

 本書は、神戸大農学部を卒業した安井氏が、まだその言葉もなかった時代に、「地産地消」や「有機自然農業」に取り組んでいったプロセスと、その成果を記録したものである。とくに、学校給食への導入の成功事例として興味深い。
 3月15日に、わたしたちは、昨年来実施している「OMR(オーガニックマーケティングリサーチ)」の報告会が開催される。「スローフードと有機農業」との関連で、本書は、参考になる実践でもある。

 以下は、わたしの審査員としてのコメントである。もちろん、同書は、来年1月に、法政大学地域研究センターで、地域イノベーション大賞の「最優秀賞」を受賞することになった。
 おめでとうございます。

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 論評 (作品の評価、審査結果等のご感想・ご意見)

 本論文(書籍)をS(最優秀賞)に推薦します。その理由は、以下の3点です。

(1) 著者自身の自薦文にもあるように、約30年前(1981年)に、「地産地消」を始めた今治の農業運動の「息の長さ」に感銘を受ける。地域における有機・自然農業の発展と食育などの教育実践の普及推進運動として、素晴らしい成果を上げられている。
(2) 地域の実情をいまの形に変えていくまでのプロセスの記述が、きわめて簡潔である。しかも、その記述方法が充分に詳細にわたっている。書籍としてのシンプルさと包括性を評価したい。構成もわかりやすい。
(3) 地方自治体職員(農業部門の普及行政担当者)の立場からの実践を高く評価したい。そもそも、有機農業の普及は、この30年間でそれほどドラスティックに広がっているわけではない。その困難を、地域の中で実践したことは秀逸である。

 やや心配があるとすれば、安井氏が主張している実践が、本当の意味で、経済的に成り立っているかどうかについてである。補助金だけで成立する農業実践にはやや疑問があると、評者自身つねづね考えている。閉鎖系経済の成功だけでは、本当の意味で地域を潤すことができるかどうかは疑問である。グローバルな競争時代の農業政策として、安井氏たちの今治の実践が、「強い農業モデル」になりうるのかどうかは、愛媛の現場を見てみないと、確定的なことはいえないように思う。
最後に、今治市に住む評者の友人(地元のタオル業者、海外にも進出)と、有機農業で中心的な役割を果たしている企業家(東京在住)は、安井氏と今治の有機農業の実践を知らなかったのは、残念であった。ただし、最後のコメントで、内容の評価が落ちることはない。特別賞(S)に推挙します。