昨日(2月25日)午後に、千代田区九段下の「ファーストリテイリング東京本社」で、本年1月に実施したカジュアル衣料品店の消費者調査の結果をプレゼンした。柳井社長他、ユニクロの海外事業関連担当執行役員3名(一名は、上海から電話会議)で参加した。事柄の性質上、議論の内容は要約して紹介する。
上海で一緒に店頭観察調査を行ったドクター課程の大学院生2人(本間君と頼君)とわたしが、柳井社長他、執行役員の前で調査結果を要約して報告した。ウエブのデータは事前に秘書室に送付してあったので、現地中国事業担当者(名前は伏せる)は、前もって調査結果のクロス表などを読み込んでいたようだった。約35分のプレゼンに対して、25分の質疑応答時間だった。
1 調査目的 ~
7 原産国効果とブランドイメージのまとめ (省略)
8 結論
(1)上海では、2005年に比べてUNIQLOの認知率・購入経験率は大幅に上昇した。また、値ごろ感は維持しつつブランドへの好意度が上昇した。これを支えているのが「品質の良さ」のイメージの上昇である。
(2)後発のZARA・H&Mは、高額だがファッション性が高いブランドとして上海の消費者に知覚されている。したがってこれら2ブランドは、高額かつファッション性の高い別サブカテゴリーと考えられ、UNIQLOとは直接競合しない。
(3)UNIQLOと直接競合するのは、Meters bonwe・Giordano等の中国・香港系ブランドである。現時点では、UNIQLOは品質・値ごろ感のいずれでもこれらのブランド以上の評価を受けている。
(4)南京では、UNIQLOの認知率・購入経験率は低く、また、認知している消費者も、品質の良さ・値ごろな価格というイメージを形成していない。所得水準が上がれば、上海市場同様、value for money感が受容される可能性がある。
(5)UNIQLO来店者は、品質・値ごろ感のみでなく、ファッション性・店舗の良さでもUNIQLOを支持している。また、アジア地域の外国ファッション・ファンである可能性がある。
9 ディスカッション
以上の発表の後で、柳井社長以下、執行役員たちと、中国「優衣庫」の現状と未来戦略について討論をした。その内容は差し障りがあるので省略するが、討論後のわたしの感想をいくつか以下に述べておきたい。
(1)香港ブランドとの勝負はついた
2002年に上海に出店して以来、ユニクロの競合は、香港ブランドのジョルダーノ他の5ブランドと見られていた。2005年の調査時点では、品質感でやや優位に立ってはいたものの、認知率ではまったく歯が立たず、その他のイメージ項目では負けている部分もあった。しかし、今回の調査で明らかになったのは、ユニクロにとって、ジョルダーノ以外はまったく相手にならず、中国ローカルブランドのMETERSのみが、若者・大衆軸でユニクロと競り合っていた。しかし、品質感では圧倒的にユニクロが優位に立っている。
(2)新規参入の欧米ブランド(ZARAとH&M)との戦い
この2つのブランドとは、「基本的なポジショニング」が異なるという印象である。上海や周辺大都市では、ディベロッパーが一番に入ってほしい対象は、もはや香港ブランドではなく、ZARAとH&Mとユニクロになっている。そうではあるが、イメージポジションと消費者の好き嫌いから判断すると、品質・価格面では、ユニクロが優位に立っている。わたし個人は、一部の富裕層でファン層はいるが、両ブランドはマスにはならないと予想している。商品もサービスも、品質が悪すぎる気がする。中国のミドル市場では、ユニクロがかなり優位と見る。なお、ハニーズは、若い女性市場では、ファッション性が高く評価されている。ZARAやH&Mとポジショニングは近い。価格が安ければ、もっと売れるかもしれない。
(3)ユニクロの独自的なポジション
驚いたことには、ユニクロの店舗利用者(上海)は、日本、香港、韓国という「アジアの国(のブランド)」を好んでいる。ユニクロ愛用者は、品質感があるブランドながら、ファッション性や店舗環境(おそらく、きびきびしたサービス対応)にも価値を見出している。機能性とファッション性を同時に満たすブランドとして、中国ではユニークな地位を獲得しつつある。
ただし、南京の調査からわかるように、中国内陸部など、地方都市へのブランド浸透にはまだ時間がかかりそうである。たとえば、南京のいまは、所得の水準から見ると上海の3年前に位置している。さらに地方都市で所得が上昇して、ユニクロ製品の良さがわかるマスの消費者が育つまでには、店舗数と時間が要すると思われる。しかし、その時は、それほど先のことではないかもしれない。
(4)ブランド認知率と「原産国日本」
上海では、ユニクロはすでに充分な認知が得られている。ネットを利用する若者層では、購買経験率もかなり高い。日本ブランドであることを知りつつ、利用している。製品・価格評価は、日本に対する中国人の敵対感情とはほぼ無関係である。むしろ、日本企業が中国で生産しているカジュアルブランドであることが知られ始めている。日本のファッションブランドが、日本の技術と感覚で、ニューヨークやパリにデザインセンターを置いて、作っている中国人のためのブランドであることを全面に出してよい時期にかかっている。
(5)SPA小売業としてのユニクロ@中国
一緒にプレゼンに加わってもらったカインズの土屋社長は、「開発機能をもったメーカーとしてのユニクロ」をもっと中国でも打ち出していいのでは?とのご意見だった。フリーズもヒートテックも、SPAならではの製品である。セレクト型のMDからは確かに生まれない製品群である。
資生堂も、中国市場では、日本の技術でフランスを連想させるブランド名「オプレ」で、成功している。トヨタ自動車も、中国の工場で働く現地労働者による製品ラインをTVで紹介している。ユニクロも中国産なわけだから、ブランドのその側面を強調してもよいだろう。グローバルに展開するブランドではあるが、ローカルのフレーバーをそこここにちりばめて。
(6)中国からはじまるユニクロの世界制覇
あまりの「一人勝ち」でおもしろくはないが(笑い)、ユニクロは、中国でも一人勝ちの気配が見えている。日本発の衣料品分野でのグローバルブランドへの道のりは、ニューヨークからはじまるわけではなさそうだ。無印良品のように、ロンドンやパリの街から成功のはじまりがあるわけではないだろう。
柳井さんが30歳のときに山口で描いてきた夢は、すなわち「カジュアル衣料品のグローバルブランド」への一本道は、これまでの国際経営の定石とは違っているように思う。欧米の大都市で成功して、その流れが還流してくる。今度はそうではないだろう。
当初からわたしは思っていたのだが、ユニクロは中国でブレークすることで世界的に認知されるようになる。6年間前、上海に進出したユニクロを見て感じたことが、いま現実になりかけている。わたしの予見は、どうやら正しそうだ。