つきあいの長い経営者は少なくないが、当初の事業構想と基本概念がほとんど変わらないというトップは実はそんなに多くない。本日(6月14日)、「経営研究会(郵政公社)」)(土屋守章座長)で、アスクルの岩田彰一郎社長に5年ぶりでお会いした。
5年前に法政大学夜間大学院で、執行役員(お名前忘れてすいません!)のかたに話してもらった後、文京区音羽の本社ビルで(狭いオフィスだった!)、事務所の隅っこに机を構えていた岩田社長に直接インタビューする機会を得た。一部は、拙著『マーケティング情報革命』有斐閣、に反映されている。そのことを覚えてくださっていたようだ。
当時(1998年)、売上高は百億円には届いていなかったはずである。オフィスデポやオフィスマックなど、外資系企業を蹴散らして業界ダントツ企業になる直前であった。コクヨなどの他企業の追随もあり、売上高の割には利益が大きくならない時期であったが、2001年に株式公開を果たし、現在、東証一部で売上高が一千億円を突破している。
そうではあっても、「お客様のために進化する企業」であるという姿勢は変わっていない。当時から「オフィスのためのワンストップショッピング」を実現するために、オフィスサプライ用品(当初は文房具中心)を、翌日(あす)来るように配達するという基本概念は不動のモノである。
当時と比べると、経営上の数字は信じられないほどの変貌を遂げた。売上構成で、文具が占める割合はいまやわずか25%である。OA/PCサプライ用品が47%を占めている。飲料や加工食品が多い。主たる顧客であるオフィスは、中小事業所から大企業向けの電子購買代理業務にシフトしている。また、取扱商品も、付加価値の薄い文具用品から、提案型の加工食品(ネスレとの提携商品、エクセラ詰め替えパック)やオフィスに置いてもおかしくないデザイン性が高い素敵な「ティッシュ・ボックス」などである。
おもしろかったのは、当初、「取引の壁」(例えば、親会社「プラス」以外の商品を取り扱うこと、卸からの反発)に阻まれたとき、応援してくれたのは「マーケティング・カンパニー」(顧客満足を最大限考える企業:ネスレ、花王など)だったということである。タブー(商慣行)に挑戦する気概を持った企業は、何も規模や業界の立場ではないということである。「進取の気性を持って事に当たるのは、いつでもイノベーターたちである」とのことであった。
アスクルの次なる収益モデルは、サービス提案、プロユース向けの「ショップ」であろう。そのときに、物流・情報流のプラットフォームが活かせるかが鍵になるだろう。このへんのところは、最後に岩田さんと立ち話をしたが、彼自身まだ確信は得ていないようである。これからの10年間はむずかしいが、岩田さんがトップならば何とかするだろう。
先月(プラネット玉生社長)、今月(アスクル岩田社長)と、ライオン出身の経営者に続けてお会いした。二人とも「プラットフォーム・ビジネス」を展開している。