友人の坂嵜潮さんが、ご自身のフェイスブックの意見文を転送してきた。コメリが発売している花苗に、ネオニコチノイド系の殺虫剤が使用されていることについての疑問である。わが仲間では、徳江さんが一昨年から問題視している農薬である。
坂嵜さんが懸念しているのは、大手ホームセンターのコメリが情報を開示をしていないリスクについてである。複雑なのは、坂嵜さん本人は、必ずしも反ネオニコチノイドの立場ではないことである。この花苗について彼が疑問を持った理由が、最近メディアを賑わせている「企業リスク」(安全性に関する情報開示)についての姿勢を問うているからである。
よく知られていることだが、欧州では「bee friendly」が、農薬に対する危険性を象徴する言葉として、環境問題を語るキーワードになっている。坂嵜さんによると、ネオニコチノイド系の殺虫剤が規制対象になっていない米国で、ミツバチの大量死が深刻な問題になっている。
そうしたなかで、直近で中国企業が買収したばかりのシンジェンタが、ある花苗を発売している。日本のホームセンターのコメリが、その花苗を独占的に販売することになったが、実はネオニコチノイド系の殺虫剤を使用している。
ただし、生産者やガーデナーだけでなく、一般の消費者にもその情報は開示されていない。どうして事実を隠匿しているのか。そのことが露見したら、企業としての説明責任を問われかねない。坂嵜さんの懸念はもっともだと思う。
ご本人の許可を得て、メールを引用させていただく。わたしは、徳江スクールの人間なので、bee friendly派である。
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小川先生、
コメリ/シンジェンタの「花色彩」という花苗のブランドについて、Fecebookに投稿しました。
内容は以下の通りです。
私の感じ方はおかしいでしょうか?
先週の木曜日にシンジェンタジャパン(株)フラワービジネス部からメールで以下のような返答をいただいた。
質問:コメリで販売されている花色彩に使用されている殺虫成分は、国内で登録された農薬という情報しかありませんが、具体的な成分は何でしょうか?
回答:花色彩などの弊社花苗商品には、農水省登録第22746号チアメトキサム複合肥料を添加しております。
チアメトキサムは、代表的なネオニコチノイド系殺虫剤である。クロチアニジン、イミダクロプリドとともに欧州委員会がミツバチを引き付ける作物への使用も地区は種子処理を含めて2013年12月から予防原則に基づき2年間暫定的に、EU全域で使用が原則禁止となったことを覚えていらっしゃる方も多いだろう。
コメリで販売されている「花色彩」という商品は、シンジェンタジャパンが商標権と販売権を持つ花の品種と残効性の強いこのネオニコチノイド系殺虫剤を含む肥料をだき合わせにした商品である。コメリに独占供給するというストアブランドの形をとっている。
さて、コメリで花苗を購入する消費者の立場で考えてみよう。「花色彩」というラベルでコメリでしか販売されていないということだから、新しいコメリのオリジナルブランド苗だと認識し、殺虫剤と肥料が入っていて虫もつかず、肥料やりの手間も省けて便利、お手軽と感じ購入を決める方もいるだろう。もちろんそれそのものが売る側のターゲットである。
うたい文句は、
花色彩Ⓡとは・・・ 違いは。育てやすさ。きれいな花が長続き!
最適な肥料と農薬は施用済み。後は水を上げるだけ。花付き・花持ち抜群!とにかく良く咲く、コメリオリジナル花苗シリーズです。
・あらかじめ施された殺虫成分により、アブラムシが付きにくくなります。
・あらかじめ施された肥料成分が、水やりだけで約3ヶ月ゆっくり効き続けます。
・手間や時間をかけずに、元気できれいな花をより長く楽しむことができます。
このコンセプトに対して私としては特に異議はない。しかし、この商品について昨年春の発売時にまず考えたことは、この農薬の中身は何なのかということだった。
コメリの「花色彩」のHPには剤の中身についての説明はない。リンクのシンジェンタジャパンのHPでも「国内で登録された農薬を使用して生産されており、安全性は一般の花苗と変わりありません。」としか書かれていない。そのため、直接シンジェンタジャパンに問い合わせをしてみたのである。
ミツバチの大量死を発端とするネオニコチノイド系殺虫剤についての世界の対応は一様ではない。EUが原則禁止に動いている一方、アメリカ、日本は、科学的根拠に乏しいとして規制には踏み切っていない。私も、育種温室内の植物の管理ではネオニコチノイド系殺虫剤を使用している。ネオニコチノイドがないと害虫のコントロールが困難だからだ。だから私はアンチネオニコチノイドの立場ではない。
ではなぜ、このような商品の販売形態に疑問を持ったかというと、企業のリスクをどう考えているのかということである。
イギリスではもちろんだが使用規制のないアメリカでも、「bee friendly」をキーワードとした草の根運動が盛んになってきている。アメリカの果樹産業でミツバチの大量死がひじょうに深刻な問題になっていることも関係するかもしれない。ミツバチが増えるように訪花の多い植物を植えましょう、影響があるとされる殺虫剤(ネオニコチノイド等)は使わないようにしましょう。生産者、一般のガーデナーにかかわらず共感したひと誰にでもできる運動である。
日本でもこの運動に共鳴する人は増えてきているはずである。「花色彩」を購入した人の中に「bee friendly」に積極的な人がいて、しかしネオニコチノイドが使用されていることがはっきりと表示されていない商品をよくわからず購入し栽培した場合、あとから本当は使用されていると知った場合、どう感じるだろうか。
私が、花苗を販売する側の企業の代表で「bee friendly」の世界的な盛り上がりを知っていたなら、不特定多数の消費者にこのようなコンセプトの商品を届けることはありえないと思う。それは、企業としてのリスクに対する予防措置だからである。
シンジェンタが花と野菜の部門を切り離して売却すると表明してからずいぶんと時間がたち売却先の噂はいくつか流れていたが、それが決まる前に本体が中国の企業に買収されてしまった。さて今後どうなるのであろうか?
また、今年はコメリだけに限らずそのグループのホームセンターでも「花色彩」の販売がなされるようである。
坂嵜