先月アップしたTJに関する見解について、米国在住の大谷英治君(法政ビジネススクール元ゼミ)から、店舗観察日誌とコメントが寄せられた。すばらしいレポートなので、本人の了承なしに(またしても事後承諾でごめん!)掲載させていただくことにした。
大谷君が現地で店舗を実際に訪問した観察記録によれば、トレーダー・ジョーズを「食のセレクトショップ」とわたしが呼んだことはあながち間違ってはいなかったらしい。写真入りの「大谷報告」は、以下のサイトをごらんいただきたい。
サイトのURL
http://www.ohtani.net/minorrepair/blog/
レポートのURL
http://www.ohtani.net/minorrepair/blog/archives/000186.html
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June 07, 2004 (大谷レポート)
食のセレクトショップ、トレジョー
この週末は、近所のショッピングモールにある、「Trader Joe’s」に出没。
目的は小川孔輔教授のコラム「注目の新小売業態: トレーダー・ジョーズ=「食のセレクトショップ」」を受けての店舗観察、店舗の撮影だ。僕は流通関係の授業をとったことがなかったので、店舗観察は始めての経験である。ドキドキだ。
■お店の外の様子
まず、外から見たお店の様子。地味なモールの片隅にある、地味なスーパー。お店のロゴは、赤。
入り口の横には、生花売り場がある。
入り口から中を見た様子。
■お店の中の様子
入り口を入ると、直ぐ横に、試食コーナーがある。ここではいつも何か食べれるので、うちの娘はここで何かもらえることをすっかり覚えてしまっている。ちなみにコーヒーも勝手に入れて飲める。
さて、目的の1つである店舗の撮影を店長に申し出ると、聞いてくれてありがとうね、とすまなそうに言われ、首を横に振られた。NGである。というわけで目的の1つがこの時点で果たせなくなってしまいました。すみません。後はなるべく情景描写に徹します。
お店の雰囲気は、まさに手作りのセレクトショップ、というコンセプトがぴったりで、商品のカテゴリごとに黒板があり、コーナー名は手書きで書かれている。パンのコーナーに行くと、このお店のパンは全て厳選されたもので。。。。云々という解説が黒板に書かれている。店内の装飾は、木造の雰囲気を生かし、ちょっとノスタルジックなウエスタン調。モノクロの気球の写真や人物の集合写真が飾られていたり。ふと売り場の上を見ると、おもちゃの汽車天井のハリの手前で走っている。子供には評判が良い様子。娘はいつも指差してあーあー言っている。
■商品について
棚の商品を見てみると、小川先生の「食品売場の80%がOEM供給された自社PB商品で占められている。」という指摘どおり、OEM商品だらけ。野菜や乳製品売り場から、卵、薬品・ビタミン剤の棚まで「Trader Joe’s」ブランドが並ぶ。
逆に「Trader Joe’s」ブランドが少ない棚は、ボディケア(石鹸やコンディショナー、ハンドケアクリーム等)、ワイン売り場、チョコレートバー売り場等。ワインはOEMはほとんどないが、スパークリングワインに唯一「Trader Joe’s」ブランドのものがあった。OEM以外の商品はコラムにあったとおり、他社製のセレクト商品だと思われる。家内によれば、OEM以外のボディケアはオーガニックショップで見かけたことのあるブランドとのこと。ワインはとにかく安い。カリフォルニアワインで僕が唯一知っている有名な赤ワイン、メローも1ドル代で買える。
商品を眺めていて気づいた点としては以下の通り。
●OEMブランドに数パターンあること。
「Trader Joe’s」以外に、
-「Trader Darwin’s」:薬品・ビタミン剤に多い
-「Trader Giotto’s」:オリーブオイルなどにつけられていた
-「Trader Mac Joe’s」:魚介類につけられていた
-「Trader Zen」:ボディケアに多い-「Joe’s Kids」:子供向けドリンクにつけられている
-「TJ’s」:バーベキューソースにつけられていた
流通経路の違いを表しているのだろうか。店内を眺めてもそれらブランドの違いは書かれていない。Frequently Asked Questionsをまとめたブローチャーにも説明はなかった。
●ロゴの使われ方にルールと一貫性が無い。
「Trader Joe’s(もしくはTrader ○○)」という表示は、OEM商品には必ず付いているのだが、ブランドのロゴとしてのルールが無いようだ。具体的には、お店の看板は赤のロゴ:なのに、商品やパッケージの色によって、黒が使われたり、白、黄色だったり。字体も数バージョンあり、大きさもまちまち。一番多い色は黒だが、パッケージの色に合わせて色がつけられている場合は、デザインとは調和しているが、ロゴが見えにくくなる場合があり、ブランドの基本的な機能である識別能力を低下させている。パッと見で、OEM商品なのか、他社製のセレクト商品なのかが一発で識別出来ない。
■客層について
そもそも、店内にはP&GやKraftといった有名ブランドは見かけない。つまり、食料品を有名ブランド名で選択するような客層はそもそも想定していないということだろう。
ざっと見てみると、シリコンバレーという土地柄か、インド系の人達が多い。中国系や日本人系もちらほら。白人であれば、日曜日は教会に出入りしていそうな人達が買い物をしている。隣の市にあるWhole Foodsという高級オーガニックストアと比較すると、白人の比率が明らかに低い。Palo AltoのWhole Foodsに行った時は、シリコンバレーなのに顧客層は白人ばかりで、ビックリしたことがある。
駐車場に並んでいる自動車を眺めてみると、Whole Foodsの駐車場にとまっていそうな高級車はあまり無く、ちょっと古いセダンタイプの車が多い気がする。
小川先生のコラムでは、「TJのコア顧客は、学校の先生などで、「賃金水準がそれほどでもない高学歴のひとたち」(Well-educated and Under- paid)である。」という指摘があった。ここシリコンバレーでは、チャンスを掴みに渡米してきた人達で高学歴のインド系の人々は、ティピカルなターゲットなのだろうと実感。はティピカルなTJの客層なのだろう。
■感想というか提言
食のセレクトショップ、というコンセプトがぴったりの中規模スーパーであり、TJのこだわりが棚から、お店全体から伝わってくる。僕ら外国人にとっては、P&GやKraftの商品がスーパーの棚に無くても、全く意識しないが、小さい頃からKraftのチーズスパゲティーを食べて育った根っからのアメリカ人は少し違和感を感じるのかもしれない。しかし、慣れてしまえばこの雰囲気は心地よく、ヘルシーさ、エコロジー感にマッチした空気である。
課題としては、ブランド戦略の確立、徹底だろう。上述したとおり、ロゴの使われ方やOEMブランドの体系化にルールや一貫性が見られないのは、全社的なブランド管理やコミュニケーション戦略が未成熟なレベルにある証拠だ。品質を売りにする小売店であれば、ブランド管理も徹底していてしかるべきだ。ブランド戦略見直し後の具体的な戦術としては、以下の通り。
– 各種OEMブランド体系の見直し/一本化
– ロゴ使用に関する全社的なルールの採用
– パッケージデザインへのルール導入(デザイン部門の一本化、ルール徹底)
– コミュニケーション戦略の見直し(値札や棚割り等を含む)
品質の良さを差別化要素にしているTJにとって、ブランドをより洗練させる戦略は、高品質の証明をする際にシナジーを発揮してくれるはずだ。