「住のセレクトショップの提案」 DM HomeCenter ( 2005 4)

1 サービス産業化するHC小売業
 DIY小売業は、年々サービス産業化する傾向を見せている。DIY協会が実施した『第15回DIY小売業実態調査報告書(2003年)』(日本DIY協会、2005年1月)で見ても、対前年度比で最大の伸びを示したのは、二年連続して「サービス業務」であった(+15.9%)。中分類項目でみると、増改築・リフォーム等が最大の伸びを示していることがわかる(+19.4%)。



 増改築・リフォームに続いて売上の伸びが大きいのは、「用具・素材」の各部門(住宅機器・器具+11.6%、電動工具+8.1%など)である。住宅リフォームと増改築に関連した商材の売上が急増している。DIY小売業各社は、サービス対応のできる従業員を増やし、空前の増改築ニーズに対応しようとしている。ところが、皮肉なことには、チェーン全体としてみると、専門知識を提供できるはずの正社員数は、対前年度比では逆に減少している。そうした矛盾をどのように解決すべきだろうか?
解決方法は、(1)サービス業務(+商品調達力)の強化であり、(2)売場運営・管理方式の抜本的な改革である。また、(3)バイヤーの待遇と業務改善が必要である。上記の(1)~(3)を実現するために、筆者は、衣・食の分野で実践されている「セレクトショップ」の概念を、HCの住生活関連分野に拡張すべきであると考える。いわゆる、「住のセレクトショップ」のコンセプトを提唱したい。その中心に、新しいタイプの「バイヤー像」を配置してみたい。
 
2 業態間優位性の低下への対応策
DIY小売業の経営状態を見てみると、生産性指標(一人当たり売上高/粗利益額、坪当たり売上高/粗利益額)が低下している。その理由は、HC業界における内部競争の激化と全国的な過剰出店の影響であるが、業界の未来を暗くさせている根本的な原因は、HC業界そのものが業態間競争で力を失いつつあるからである。
低迷している顕著な商品カテゴリーを列挙してみる。インテリア、カー・アウトドア関連商品などである。ドラッグストア(マツモトキヨシなど)、カー用品専門チェーン(イエローハットなど)、ホームファーニッシング(ニトリ、無印良品、フランフランなど)との業態間での競争優位を失っているからである。
実態の数値を見てもそのことがわかる。消費者から見たHCの魅力が低下しているのである。既存店については、ここ数年間、客数・客単価ともに目立った変化がみられない。新店は大型化しており、店舗当たりの売り場面積は大幅に増えているにもかかわらず、HCが提供できる生活提案力と消費者ベネフィットは魅力的とは見られていない。事態を反転させる抜本的な努力が必要である。
 DIY店で取り扱われている商品の構成には変化がみられる。DIY協会の調査内容を要約してみる。つぎのようなトレンドを指摘できる。
(1)住宅関連では、サービス業務の分野が拡大している。サービス業務と住関連商品の販売はDIY小売業にとって利益の源泉である。
(2)アフターサービスや店頭販売に際して、商品の使用説明や付加サービスとしての助言(+付帯情報の提示)が必要である。
(3)リフォーム、インテリア、エクステリア(園芸を含む)など、生活環境の改善作業に、多種多様な素材の品揃えが求められている。バイヤーに対しては、これまで以上に専門的な知識が求められている。
(4)HCの店頭で、素材加工のための手軽な技術指導が必要とされる。したがって、販売員にも水準の高い専門知識が求められている。HCには、モノとサービスをパッケージにして商品提供することで、新たに付加価値を生み出せる機会がある。
結論:「DIY小売店は、生活を改善するための素材と加工技術を伝授する場に変わっていく。それ以外の機能は、長期的に見ると、ドラッグストアやカー用品店、ディスカウントストアに移っていく」というのが筆者の主張である。
 
3 新しい店舗運営形態: 住のセレクトショップ
日本のDIY業態は、「郊外出店」「セルフサービス・オペレーション」を特徴としてきた。商品開発と店舗運営については、米国のHCを模範としてきた。もっとも実際には、「園芸」「ペット」「クリーニング」「ドラッグ」などのサービスを必要とする商品サービス部門 は、「インショップ形式」で他社に運営委託することはあったが、主力の住関連分野での売場委託は希であった。
米国発のセルフ形式の売場直営という店舗運営方式は、大きく転換すべき時期にさしかかっている。なぜなら、とくに住関連の分野では、消費者に専門的な知識を提供したり、継続的なメンテナンスサービスを提供する必要性があるからである。HCのバイヤーと店舗スタッフだけでは、こうした生活者の細かな要求に応えることはむずかしくなってきている。行き着く先は、「商品バイヤーのさらなるプロ化」と「店舗運営におけるHCの百貨店化」(インショップ形式)であると考えられる。
筆者が予見する未来型DIY店のイメージは、以下のようなものである。
HC業界の売場部門で、自社があまり得意としない商品分野においては、開発機能の一部を専門業者に委託する。もしそうしたくない場合は、分社化するか商品部の組織を再編し、商品バイヤーの処遇(インセンティブシステム)を大きく変える。対象となる商品分野の売場管理は、特別なノウハウを蓄積できるようにするか、そもそもノウハウを持った外部企業へアウトソーシングすべきである。
収納用品・家具ホームファーニッシング分野で言えば、アイリスオーヤマが展開する「シンプルスタイル」がそうした試みの一つである。食の分野での店舗運営のイメージは、以前に本誌の姉妹誌「チェーンストアエイジ」(2004年?月?日号)で紹介した「トレーダーズ・ジョー」(米国カリフォルニア州)が参考になる。
シナリオは二通りである。他社(メーカー、ベンダー)と提携して部門運営会社を作るか、知識と人材を抱えた専業他社に業務を委託するかである。垂直的な提携以外に、同業者による水平的な連携(例としては、DHK=ダイキ、ホーマック、カーマ連合)も考えられる。いずれかを選択するにせよ、商品開発と売場運営をセットで委託することは、HCのコア業務が限りなく「百貨店」(デパート的な運営)に近づくということである。
未来のHC企業が受け持つべき業務内容は、これまでとはウエイトが変わってくるだろう。業態開発、立地開発、テナント・ミックス機能の3点セットが核になることになる。バイヤーに求められる資質が、そのときは、商品の調達・開発だけでない。小売経営の基礎知識に精通した人材に変わっていく。仕事そのものも、衣料品の「セレクトショップ」の店長的な役割に変わっていくはずである。