日経広告研究所セミナー(パネルディスカッション) 2005年12月

   パネリスト
     KDDI 執行役員マーケティング本部長 奈良谷 弘氏
     日本テレビ放送網 PR局宣伝部長   岩崎 達也氏
     法政大学 経営学部教授         小川 孔輔氏
     国立国語研究所 領域長         横山 詔一氏
     多摩大学 経営情報学部助教授     豊田 裕貴氏
    コーディネーター
     フリーアナウンサー              八塩 圭子氏
日経広告研究主席研究員         大石 一 
 
八塩 基調講演の感想と貴社の広告戦略についてお聞きしたい。


奈良谷 KDDIにマーケティング本部ができたのは2005年4月で、宣伝部をはじめマーケティング関連業務を新本部に集め、ブランドマネジメント室を新しく立ち上げた。ここでKDDI全社の商品ブランド、コーポレートブランドを含めてブランドマネジメントをやろうとしているところだ。

 コミュニケーションでは変えないもの、変えるものの見極めが大事
 スタッフにいつも言っているのは、ブランドや宣伝というコミュニケーションを考えるうえで大切な言葉は幾つかあるが、まず変えてはいけないもの、変えなくてはいけないものの見極めをしっかりやろうということだ。特に変えてはいけないもの、それについては中身、要素を吟味しながら、一貫性と継続性を持って取り組んでいこうと、念仏のように言っている。ただその中身について具体的にきちんと共有できているかというと、必ずしもそうでもない。そういう意味でも、本日の自由連想分析から学ぶ点は非常に多いと思っている。特に言語学とのコラボレーションで、いままでの分析を一歩進めたところは非常に興味深い。
 調査結果に関しては我々の従来の調査と若干違うかなという部分が2、3点あったので、のちほど具体的な事柄でいろいろ伺いたいと思っている。個人的にはネット調査におけるサンプルの代表性がいつも頭にあるのだが、ひょっとしたら私が感じた違和感はそうしたことに関連しているのかと感じている。

 日本テレビのブランドイメージと「巨人」の結び付きを改めて痛感
 岩崎 日本テレビのブランドイメージはやはり「巨人」に直結しているのだなと、改めて痛感した。ブランドイメージは何でできるのだろう、ということを常々考えているが、テレビ局の場合はコンテンツが一番大きい。巨人戦の放送は年間70試合あり、やはり連想語の上位の「ズームイン」は毎朝やっている。このほか「二十四時間テレビ」、元日本テレビアナウンサーの「徳光さん」も上がっている。当然ながら番組のほか、イベントあるいは日本テレビでやっている映画なども含めて局のイメージを形成しているのだと思う。
 こうしたことを踏まえ局イメージを上げようと思ってやったのが1994年の「それって日テレ」というキャンペーンだ。「あれもこれも日本テレビ」というキーワードをつくり、そこからトーン&マナー「それもこれも日テレ」という、若い人の言葉、CMに乗りやすい言葉でCMにした。「ズームイン朝」は日本テレビのイメージ評価で前面に出ているが、「知ってるつもり」は日本テレビの看板番組ながら、TBSと思われている割合が20%ぐらいあった。つまり知的情報系のものはTBSというイメージが強かったためで、一方スポーツは日本テレビのイメージに向かい、バラエティーはフジテレビ、情報はテレビ朝日という具合に、かつては各局が持っている引力、エネルギーがうまく分散されていたと思う。
 日本テレビは10年間「視聴率四冠王」を取ったが、そのころは巨人も番組も強かった時期だ。ここ2年ほど巨人のイメージがちょっと弱いが、それは大リーグブームもあって日本の野球自身が停滞している部分もある。いずれにしても日本テレビのブランドイメージを上げていくうえで巨人は大きな要素だと痛感する。
 基調講演を聞いてもう一つ思ったのはイメージの差別化で、ことテレビ局の場合良いイメージと悪いイメージは反対側にあるものではないという点だ。「伝統」はちょっと時間がたつと古臭いということにもなりかねないし、「強い」は朝青龍ではないが、嫌われる半面もある。その辺のベクトルの向け方を広告でうまく表現していくことで、イメージを上げていけるのではないかと考えている。
 八塩 奈良谷さんは自社で行った調査と違うところがあり、それはネット調査に対する違和感ではないか、とおっしゃったが、そうした調査ではどんな結果が出て、どのような点が違ったのか。
 奈良谷 今日初めてデータを見たので断片的な情報でしかないが、携帯電話の調査の中でキャリア別のトータルスコアの上位だけ見ると、1回目と2回目はそれほど変わらないが、3回目が大きく下がっている。しかし3回目にそれほど落ちる要素はないと思っている。逆に各社ごとの差別化ポイントがだんだん少なくなってきている。例えばTukaのように1つのことしか言っていないところのスコアが上がったり、最初はユニークだったサービスが、各キャリアが同じようなことをやり出し、あるいは主張し出して、それが消費者の記憶に残る部分が薄くなってきているのかなという気がする。
 豊田 正直なところ、私も3回目は「あれっ」と思った。そこで確認したのが平均連想数で、もし平均連想数が少なかったら、たまたまそのとき答えたモニターが自由回答を嫌いな人が多かった可能性があったのだが、平均連想数はやや減ったとはいえそれほど変わっていなかったことを考えれば、モニターの影響はあまりなかったのではないか。3回とも同じ調査会社の同じモニターを使っていて、モニター構成が大きく変わったとも聞いていないので、他の要因が働いたのかもしれない。
これは全くの推測だが、1つはもちろんモニターの影響で、もう1つは当たり前のワードが1年半の間に当たり前になりすぎて、いまさら答えなくてもいいのかなと思われた可能性が考えられる。例えば「携帯電話」という言葉は、いまさら連想しなくてもいいや、ということだ。ただTukaの「シンプル」も減っているので、ネット調査の影響という意味では、2回目と3回目の間にもしかしたら何らかの影響があったのかもしれない。この点はさらに検証したい。
 八塩 機能イメージに関するワードは3回目ではばらけたととらえていいのだろうか。
 豊田 そうだと思う。
 奈良谷 一般論として、ネット調査の際、最近は補正する係数も開発されているようだが、普通の面接調査などと比べて、その辺はどうなのだろう。

 自由連想ではインタラクティブかつ入力安定のネット調査の利点に着目
 豊田 ネット調査一般に関してはいいか悪いかは私も判断がつかないが、今回の一連の調査について言えば、3年前は調査員が訪問し対面で聞き取り調査をしたものと、調査用紙を配って留め置き法で調査したものを使っていた。これとネット調査を比較しどちらがいいか考えると、バイアスがかかっても私はネット調査の方がいいのではないかと思う。その理由は調査員が記入する対面調査だと誤字脱字が減るのでいいのだが、回答者はカッコいいことしか言わなくなりがちだ。また手で書かせるタイプだと、書くのが面倒くさいので回答数が減ってしまう。モニター特性などの問題はあるとしても、インタラクティブなシステムを使えるうえ、入力が安定するという意味ではネット調査はいいのではないか。
 横山 国立国語研究所は文化庁の機関で、国語についての世論調査を毎年行っている。例えば「顰蹙(ひんしゅく)」という言葉を漢字で書くかひらがなで書くかとか、方言、外来語についてどう思うかなど国語に関する世論調査を、層化二段階抽出法で毎年行っている。全く同じ質問をネット調査でやったりするが、両者の結果の違いは毎年縮まってきていることがわかっている。
 確かにネット調査のサンプルになる人たちはライフスタイルが先進的、イノベーティブで、女性はキャリアを持った人が多いとなどバイアスがあるが、逆にそのバイアスを逆手に取って、これから一般に広がるであろう意識を先取りした傾向を把握できるという発想があってもいいのではないか。
 八塩 PINS法のいろいろな特徴を紹介してもらったが、まずネガティブなものの理由がわかる、出現の傾向がわかるという特徴があった。その点で、岩崎さんはどのように考えているか。

 ネガティブイメージの把握は改善のチャンス、きっかえととらえる
 岩崎 ネガティブがわかるということはチャンスだ。基本的にはきっかけがわかる。つまり攻め方がわからないのは最悪で、日本テレビの場合はどこを上げればいいか確実にわかっている。悪いところを上げ、いいところをさらに伸ばせばいい。巨人に関して言えば原(監督)さんのイメージもかなり大きいと思うので、ジャイアンツとともに諸々のキャンペーンをやっていこうと思っている。
1回目の結果で「想起するものが多い」というのは、ある種パワーだ。その中身を見たら3つに分かれていて、PINSではネガティブが多かった。これは逆によかったというか、お医者さんに診てもらって「あなたが悪いのは肝臓だ」と言われたようなもので、そこを次にどうしていくかということだと思う。
 八塩 しかし、テレビの場合は、例えばネガティブでもポジティブでも、イメージが強い方が見られるという特徴がある。
 岩崎 それは日本テレビの得意とするところで、「電波少年」などまさにそうだ。テレビは他の業種と違い、他局にやられてしまったというのが一番まずい。「やった感」が非常に重要だ。だから、オツにすまして「自分たちはカッコいいだろう」ということをやってもNHKになってしまうので、民放の良さ、味、つまり「楽しくなければテレビじゃない」と言っているフジテレビのDNAと、日本テレビのように電波少年、ゲバゲバなど割と突出して面白いことをドーンとやる持ち味というか、ちょっとやんちゃな部分が出たのが逆に良かったかな、という気がする。
 八塩 これまでのお二方のご意見を聞いて、どう思うか。

 携帯電話、ドリンク剤などカテゴリーごとに調査結果には差
 小川 私はもともと統計分野で育った人間なので、調査のサンプルはなるべく偏らない方がいい、と授業でも教えているが、よく考えてみると、いまの時代はむしろターゲティングすることが非常に重要なので、そうした特性を生かすことも面白い。例えば携帯電話で将来的に重要なマーケットは、始終ネットに触っている人たちなのかもしれないので、むしろ若干の偏りはポジティブに考えるのが当然かなと思った。
 今回は携帯電話とテレビ局の調査だが、どのカテゴリーの商品を扱っているかによって差は結構出る。その意味で携帯電話の世界は技術進歩が激しいし、パリティーとディファレンスという点で言うと、ディファレンス語がすぐパリティー語に変わってしまうし、また新しいディファレンス、違った機能、タレントも始終代えるというように、技術進歩や競争の影響をかなり反映しているので、調査結果がわりとぶれやすいのではないかと思う。
逆のケースは大正製薬のドリンク剤「リポビタンD」の世界だったのではないかと思う。2時点、3時点の比較をしてもあまりイメージは変わらない。むしろどのように利用するかというと、ネガティブ語が出てきたとき、どうやってそれを打ち消すかということにこの方法を活用する。
 八塩 この手法はいろいろな分野に応用できると思う。例えば男女、年齢別といった集計・分析もできると思う。
 豊田 今回、講演では割愛したが、同時に選択肢のアンケートを取っている。性、年齢はパネル特性だが、このほか当該ブランドのユーザー、選好度合い、購入意向も取れる。例えば携帯電話ならA社から次はB社に変えるという人がどういう連想をしているかとか、逆にライバル社から自分たちの方にくるお客さんが何を求めてくるのかという情報を取れるので、こうした選択肢を交えてやることはいいと思う。
 八塩 この手法は製品、サービスなどどんな分野でも応用可能か。
 豊田 微妙な質問だが、調査方法としてはもちろんできる。しかし、不得意な分野もある。それは、そのカテゴリーの中の主要ブランドが移ってしまうケースで、例えばお茶飲料の場合は、去年と比較しようとしてもそのブランドがなくなってしまっていたり、新製品が相次ぎ投入されたりするので、1時点における比較はできても、時系列比較には不向きな分野と言える。ただ、その辺はうまく調整することでいかようにもなるとは思うが、汎用性は高いと思っている。
 小川 たいていのものに対応はできると思うが、もう1つやや不向きだと思われるのは、シェアがかなり拮抗したブランドがたくさんある分野だ。正直に言うと、そこがこの調査方法の限界部分かなと思う。
 八塩 KDDIはCMで同じイメージを継続して持ってもらうために、同じタレントを使ったり、機能を訴求しているようだが、何を最も重視して広告戦略を行っているのか。

 記憶に残ってもらう広告戦略は一貫性と継続性が大事
 奈良谷 基本的に企業イメージ広告はほとんどやらず、商品広告やサービスを訴求する広告が多い。その際何を伝えたいのかということを確認する。そしてそれが達成できているかどうかを第一に考える。
 もう1つは一貫性と継続性で、我慢しながら100回でも200回でも同じ事を伝えないとなかなか皆さんの記憶に残ってはもらえないと思っていた。本日のお話では、それは必ずしもフリークエンシーだけではないということなので、ここはもちろん考えながらやっていかなければいけないと思うが、まずは同じ言葉ではないとしても、同じイメージのメッセージは繰り返し使っていこうと考えている。
 もう1つは、いまはauブランドで展開している携帯電話が事業のかなりの部分を占めているので、当然広告宣伝もそちらのボリュームが多いのだが、それもいままではどちらかというと、若者中心のブランドと思われているので、今後もっとすそ野を広げていきたい。イメージ戦略的にも軸足をしっかり押さえながら、波及効果も狙っていきたいと思っている。
 もう1つ課題があるとすれば、KDDIというコーポレートをどのように覚えてもらうかだ。固定電話中心のいままでのKDDIの訴求ではなかなか選択してもらいにくい。固定電話の商品は差別化できる要素が少ないので、これをどう消費者のイメージの中に残していけるのか。今日のPINS法の中で3回とも1位、2位にKDDIというワードが出てきているが、これも「au by KDDI」をテレビでも活字媒体でも必ず載せることを継続してきたことが浸透しているのかなと思う。これもしばらくやりつつ、KDDIとして独自のイメージをどう持ってもらうかが2つ目の課題だと思う。
 小川 私どもの結果から見ると、連想の源泉として一番目に選ばれるのがほとんどテレビの広告効果だ。しかし実際の資源配分から言うと、必ずしもそうなっていないと思う。実際の広告の効果と投資のバランスは、携帯電話というカテゴリーではどうなっているのか興味がある。ショップの比率はあまり高くないが、我々も買うときはショップのカウンターに行って女子店員の対応がどうかなどが、特にリピートする場合は大きな理由になっているような気がする。
 奈良谷 そこもちょっと意外なところで、ブランドの認知経路とか好き、嫌いになった理由を見ると、確かに先ほどのグラフと似たような形になるのだが、我々の調査結果ではあれほど極端には出てこない。ショップでの対応がよかったというのはあまりプラスイメージとして働かないのだが、悪かった場合はネガティブに働くケースが非常に多い。お客さまにとってはそこの対応が悪いということは100かゼロしかあり得ないわけで、その方が効いてくるケースが多い。しかし、あれほど極端に出てくるということは、これもまたフリーワードで書かせる一つの特徴かなと思った。

 連想ワードがどこから来たかの経路を探ればより効果的
 豊田 質問の設置場所として、自由回答が終わった後にそれらのイメージは、という形で聞いているので、たぶん自分が思い浮かべたものを頭にリテンションしながら書くとCMだったということなのかもしれない。アミノ酸飲料でやった調査では、それぞれのキーワードをもう一回提示して、PINS以外に、そのワードはどこから得たのか取ったが、それでは複数経路から得ていることがわかる。例えば「やせそう」などはCMや友だちの経験など複数経路から取っているものが結構あるので、そこまで細かく見ていくともっと面白い情報があるのではないかと思う。
 八塩 日本テレビがコーポレートブランドのCMを継続的にやろうと思ったのはなぜか。
 岩崎 テレビは基本的に守られている業態で、競争の激しくない状況の中で長い間やってきた。その中で差別化を何でやるのかという興味を持った。私は博報堂にいて、12年前に日テレに移ったのだが、ずっと企業の広告をやっていた。当然のようにCMの最後には「au by KDDI」と言うだろうし、当時なら「For beautiful Human Life KANEBOW」と言ったり、必ず自分たちが何であるという刻印を押していくわけだが、それをテレビ局の番宣でやっているところはどこもなかった。ザッピングの時代になって、結局自分がどこを見ているかというのはイメージでしかなく、調査をしてみると看板番組を確実に90%以上の割合で、それがTBSだ、日本テレビだと答えられている人もいない状況が、マーケティング調査をやったらわかった。やはりそうなのか。みな気分で見ているのだ。自分はフジテレビを見ている気になっている、日本テレビを見ている気になっているという部分が非常に大きい。そこをイコールにしていかないと、もしくは他局のものでも日本テレビと言っていかないと、その局のイメージは上がらないだろう、というところから始めた。
それが最終的に「それって日テレ」という言葉とつなげて、15秒のCMを12秒の番宣と3秒の局イメージのCMに分けた。それは発明品だったわけで、いまは各社そういう形でやっているが、結局自分たちが伝えたいことが100%伝わっていない。送り手は自分で電波を持っているということから、その辺に無とんちゃくだった。そこを自分たちでまず認識させるということで、12年前にあのキャンペーンを立ち上げたわけだ。
 八塩 一般にキャッチコピーを使ってPRされているが、言葉での訴求が視聴者に大きなイメージを植えつけるだろうか。

 送り手の意図が受け手にきちんと届いているかの確認が大事
 横山 そうだと思う。新聞もそうだが、テレビ業界はあまり競争が激しくなかった。「社会の公器」という大義名分で守られてきたところがあるが、インターネットの普及で、個人もマスメディアと同じような情報をかなり発信できる時代になってきた。そのとき重要なのが、送り手と受け手とのコミュニケーションだと思う。コミュニケーションを始める場合、最初はあいさつができるかどうかだと思うが、あいさつは何かというと、自己紹介から始まる。そう考えると、キャンペーンで言葉を使って自分を紹介し、自分の局から送り出している番組がちゃんと受け手に届いているかどうかを確認したい。つまり、受け手に対して送り手が丁寧に、深い関心を寄せている、という態度を示すことがこれからの時代には非常に重要なのではないか。だから「キャッチコピーを使って・・・」と言っているのだが、それには受け手に対する送り手の誠意、受け手をどのように待遇、もてなそうとしているのか、という発想が必要なのかなと思う。
 岩崎 最近感じているのは、共通言語をつくることは非常に難しいということだ。これだけギャル文字や絵文字が世の中で広まっているなかで、自分たちが発する言葉が、意図したイメージで伝わっていないのではないか、という不安が常に付きまとっている。従って広告宣伝をする場合でも非常にシンプルに、速いスピードで伝えることが大事になってくると思う。ただ先ほど機能的用語はすぐ失われるといわれたが、以前のようにイメージ的な言葉が伝わらない時代になっているような感じがしている。
 横山 現代のようにメディアが発達してくることで、それがちゃんと伝わっているかどうかを確認したい、手応えが欲しいという要求が生まれてきていると思う。自分が発した言葉が、相手に同じイメージで共有されているかどうかを知りたい、という欲求がある一方、意外と世代間で伝わっていないのではないか、若者の言葉は訳がわからないということはあるが、逆に若者の方も、例えば渋谷の女子高生が「方言がかわいい」とか「広島弁を使ってみたい」といったちょっとしたブームも起きている。ということは、みんなが想像しているほどズレてもいない。しかし100%、または120%伝わって欲しいという過剰な要求に応えられるほどは伝わっていないという両面があるような気がする。そこらがこれからビジネスチャンスになっていくのではないか
(会場とのQ&A)
 質問 1つ理解できなかったのは、ブランドの強さを測るのに連想した言葉の数を言っているが、現場でやっている人間としては、最初にどんなブランドを思い浮かべるかという問いに対するトップ・オブ・マインドで出てくるブランドは強い、という話はする。情報の一貫性という面でも連想語はばらついてもらっては困る。ばらつくと、それだけそのブランドは弱い。これを現場ではブランドの強さを測る指標にしている。
 豊田 ブランドの強さではなく、ブランド連想の強さだ。今回扱っているのは、例えばネスレという単語の強さを測っているわけで、いっぱい連想数を持っていることでブランド力そのものを測っているという形にはしていない。ご指摘の通り、ブランドの強さを測るのは、連想の集中度とか、何番目にそのブランドが上がってきたかというスケールの方が正しいと思う。
 小川 連想の強さという点では、いまの答えでいいと思うが、私どもは長い間マーケットシェアや売上高とブランドの連想数が相関があるか、と言う研究をしてきている。結果は、実は2つの相関性は高い。ブランド力――これはシェアでも利益率でもいい――と高いものは、そのブランドから出てくる平均的な数だ。もう1つブランド力と相関性が高いのは、いまの答えと逆で、むしろ多様な連想が出てきた方が、そのブランドのパフォーマンスは高い、という結果が出てきている。十数例なので、完璧な結論は出ないのだが、そういう当たりは持っている。