大学院のころから株の取引をやっている。経済学部の学生だったので、勉強のためにと思ってはじめた株式投資であった。友人の東大院生仲間10人ほどから、数十万円ずつかき集めた。ファンドは数百万円になった。
亡くなった横浜国立大学の青山護くん(会計学の修士課程)とわたし(マーケティングの修士課程)が、ファンドマネジャーだった。失敗の責任は、すべてわたしが負った(青山君よ、天国で安らかに・・・)。
当時は最低取引単位が千株だった。500円の株だと、一銘柄の投資最低金額が50万円になる。1000円だと100万円。5銘柄を買えれば御の字だった。リスク分散するには、とうてい資金が足りなかった。
その結果、院生とはいえ、素人同然の学生が信用取引に手を染めることになった。回転をきかせて、利ざやを稼ぎたかったからである。いまの「にわか個人投資家」と同じである。結果がいいはずはない。ご想像のように、一年を通して締めてみると、パフォーマンス(成績)は惨憺たるものだった。
2年ほど続けて、元金を30%ほど減らして<小川・青山ファンド>は解散した。一時期は、有り金がすっからかんになりそうになった。挽回できたのは、当時PC98を発売してヒットさせたNECのおかげである。日本電気様々である。それとマツダ(空売り)とホンダ(二輪車メーカが立派な四輪車メーカに成長)には、いまでも感謝している。わたしが首をくくらないですんだのは、ふたつの自動車銘柄のおかげである。思えば、危ない橋を渡ってきたものである。いまでもそうか・・・
さて、30%ほど損を出したのだが、売り買いを差し引くと、実は取引ベースではプラスであった。わたしたちは、いまでいう「デイトレーダー」のはしりである。一週間単位で売り買いをしていたので、売買の往復で5~6%が証券会社に持って行かれた。結局、手数料で証券会社をもうけさせただけであった(手数料を差し引くと、十パーセント程度はプラスであった。それなりに立派な結果ではあった)。
この構造は、実はいまでも変わっていないと思う。わたしたちは、「週~月単位」で売買していたが、いまは「日単位」の取引になっている。いくら手数料が安くなったからといって、頻繁に取引を行えばそれなりにお金はかかる。証券会社はちゃんともうかるようになっている。
証明したわけではないが、一回あたりの取引手数料(100万円までは「千円程度」の定額:0.1~0.2%)が下がると、それに比例する以上に取引の頻度が増える。これは、松井証券の松井道夫社長にも直に聞いたことがある(デイトレーダーの場合は、月に数十回資金を回転させる。これが収益源だと・・・)。結局、証券会社が手数料ビジネスで儲かる仕掛けは、30年前とすこしも変わっていないのである。一回の取引で見てはいけない。年間を通して、トータルのスコア(金額)を見るべきである。
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世の中は、素人株式投資ブームである。30年のキャリアを持つ素人投資家で、多くの失敗経験を持つ大学教授の話に耳を傾けてほしい。素人は、ネットで株に投資すべきではない。
<教訓1>
株は長期保有すれば、平均的には必ず儲かる
(これは、何人かの研究者によってすでに証明されている)。
<教訓2>
情報を握っているものが必ず勝利する。例外はない。
(いままでわたしは、新規公開株や新規事業の成功を
事前に知っていたので、何度も儲けるチャンスはあった。
しかし、インサイダー取引には手を染めなかった。
株屋さんはそうして情報をいち早く握っている。)
<教訓3>
背後で株価を操作する資金を持ったプロにはかなわない。
(1億円以下の資金では、短期売買は成果なし)
結論:
1 短期売買で素人が儲かるほど、この世界は甘くない。
2 素人投資家は、日常感覚からじっくり投資すればよい。
したがって、
3 手数料は高いが、わたしはいまでも電話注文を続けている。
つまり、手数料がかかるので頻繁に取引はできない。
売買はじっくり考えてするように(素人の鉄則)、
自分を戒めるためにも、ネット口座は持たないのである。