競争的資金の獲得と科学研究に対するインセンティブ制度(法政大学の事例)

 法政大学は長らく「研究力の低迷」に苦しんでいる。今年になって、研究能力向上に向けて、長期低迷から抜け出す第一歩を踏み出すことができた。


科学研究費補助金の獲得件数とトータルの金額が、対前年比で法政大学は25%増やすことができた。地味なニュースではあるが、法政大学の現理事会・執行部(とくに、平林総長と武田担当理事)の努力の成果である。これまで10年越しで検討されてきた「研究費配分の平等頒布方式」の変更にようやく着手できたからである。
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 日本全体が科学研究分野で世界に遅れを取っていることは、世間にもよく知られて事実である。事態を憂えた政府や文部科学省は、日本の科学研究力向上のために、科学研究費の支給をインセンティブ補助制度に変えようとしている。すなわち、科学研究費の配分に対して、成果主義を導入することである。
 3年前からはじまった「研究拠点大学の選抜」(科学研究のCOE)や、昨年度に実施された「国立大の独立行政法人化」などがそのあらわれである。成果主義を導入した結果、研究費の配分においては、すでに格差拡大がはじまっている。研究成果が上げられないと、継続的に良い研究ができなくなる状況が生まれている。
 もちろん、その弊害もないわけではない。しかし、長期的に見た場合、いずれは日本の科学研究の水準が向上すると皆が信じている。わたしもきびしい競争の結果が良い成果を生み出すと考えているひとりである。「ぬくい環境」からは、何の成果も生まれない。
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 法政大学でも、昨年度実施の「インセンティブ制度」が、初年度から機能し始めている。今年度の「科研費補助金申請」(文部科学省からの研究費補助)にあたって、法政大学では、拠点申請した研究者(グループ)に、同時に学内研究資金(文系で一件20~30万円)を手厚く支給しようとする試みである。
 その結果が先週になってまとまっている。昨年度まで、法政大学は、インセンティブ無しで学内からの科研費を申請させていた。野放し放任の結果、昨年度まで、法政大学は関東の大手私大中、申請件数・資金獲得額ともに最低レベルにあった。ところが、今年度からの制度変更により、科研費の支給件数と獲得金額において、ともに実績値が25%ほど伸びている。
 法政大学の2005年度(昨年度)、科学研究費補助金獲得は88件、トータルの給付金額は201,010,000円であった。学内制度の変更後の2006年度(今年度)、獲得件数は104件、科研費補助金額は250,100,000円になった。申請件数が増えたこと、これまで申請をさぼっていた「眠っていた」優秀な研究者が、申請に誘因を感じて応募した事が理由であると推測できる。
 いずれにしても、誰の目にも、パフォーマンスの改善効果は明らかである。必死に研究していても、まったく研究成果を出さないでいても、昨年度までは個人研究費の支給が同額であった。今年度からは、申請せざるは支給せずになったわけである。格差は拡大するが、劣位な研究(者)の淘汰も進むことになる。
 一昨年度からはじまった「授業評価」(FD)の推進に対しても、学内からはきびしい反対意見が出されていた。教授会での議論を聞いていると、既得権益を侵害されそうだから、その恐怖心からの反対のように聞こえた。総じてではあるが、どうひいき目に見ても、研究教育活動をさぼっている教員(授業・研究活動の評価が低そうな教員)が、自分はあたかもそうではないかのように、堂々と反対意見を表明していのには、にが笑いをしてしまった。恥知らずな人間は、案外と古手の研究者に多い。若手の研究者は、世間の風を感じる柔らかさをもっている。
 ところが、実際に学生による授業評価がはじまると、授業や研究活動に対してまじめに取り組もうとする先生が増えた。これまで教育・研究活動で手抜きを許されていた年配の先生でも、必死に授業準備をする姿をみるようになった。
 もっとも遅れをとっていた大学のひとつであった法政大学で、ようやくまともな教育が行われるようになった。つぎには、研究活動面でも、まじめに働く研究者が増えて欲しいと思っている。この先に待っている「フリーエージェント制度」(教授の年俸制度)などの改革が、きちんとした大学教員を増やすことになればと願っている。