わたしの聞き取り作法(2)」(事例:(株)ハニーズ)

聞き取りの作法の続きになる。今回は、企画の立て方についてある。
 どのような企業を対象にするにせよ、わたしは下調べをきちんとしておくことにしている。


準備は数週間前から始めている。なぜかというと、自分が取材やインタビューを頼まれたときに、準備不足の雑誌編集者や新聞記者が多いと感じてきたからである。これまでの経験では、最悪のインタビュアーは民放TVの女性記者たちである。一番優れているのは、NHKの放送記者(とくに男性)である。彼らの真摯な働きぶりに対して、わたしは気の毒に感じているので、NHKの受信料はきちんと支払っている。
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 ヒアリングするときには、リサーチアシスタントの青木恭子に頼んで、過去の新聞・雑誌記事を検索してもらう。青木に一週間頼んでおくと、彼女はだいたいノート一冊分くらいの完璧な資料をあつめてくれる。前日の夜と、取材に行くまでの電車・飛行機の中で、実績やデータを見ておく。今回のハニーズの場合は、船橋、新宿、渋谷(109P2)、立川などで、店舗を観察しておいた。客層や商品構成、売場の状況を把握しておき、店員さんにそれとなく商品の入荷状況や顧客サービスについて尋ねてみた。
 もちろん、今回のようなハニーズの場合は、自分が顧客ではないので、ターゲットとなる顧客(女子学生)を一緒に連れて行く。店舗系のブランドの場合、商品を試着してもらったり、実際に購入する必要があるからである。ワコールやトリンプなど、男子が入りづらい店舗はなおのこと、恥ずかしくてもこれをやらないといけない。洗濯機で洗ったあとの色落ちや、ほつれのぐあいなどもチェックする。
 その上で、インタビューの流れを作っていく。大学の先生でも、多くの場合は、下調べをあまりしていないように見える。それは、自分の理論で経営者と充分にわたりあえる、あるいは、現実の経営が料理できるという過信が原因である。何気なくインタビューに臨んでいるように見せて、実は丹念にこちらが準備してきていることは、すぐに相手にも伝わるものである。
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 今回のインタビューでは、連載を考えていたので、枠組みができあがっていた。そのメモ書き(チェーンストアエイジの阿部記者向けのメール)を掲載しておく。そのままをペーストする。企画提案書である。インタビューは、実際にこの枠組みで進行させている。

 テーマ企画
「SPA企業の高収益力の源泉:SPA小売業の強みを解剖する」

阿部さん

 以下が企画書になります。

1 高収益SPAのひみつ
 広義の製造小売業(SPA)が高いROAを創出できている理由を解剖する。
 たまたま、4月1日号の貴誌が、量販の衣料品改革を取り上げていました。そこでは、改革の評価を、4つの視点から取り上げています。(1)ブランドコンセプト(の実現度、達成度)、(2)売場評価、(3)販売方法、(4)商品評価、でした。しかしながら、真に改革に成功できるかどうかは、「基本的な仕組み」を変えられるかどうかにつきます。とすると、ブランドづくり(企画開発1&4)のために、商品調達を含めて、どのように全体の仕組みを変えられたのか?また、どのように変えようとしているのかを根本から問うべきと考えます。
 以上の4点は、むしろ改革の結果に対する評価スコアだと言えます。SPAの本質を仕組みから分析することが必要です。それでは、この問題にどのようにアプローチすべきなのか?

 「収益性の課題」をクリアできた高収益企業は、現状では、例外なく「垂直統合」(製版統合)を実現している企業です。量販の衣料品分野にかかわらず、一般の小売りチェーンにも、垂直統合の程度と高収益性の因果法則は当てはまりそうです。その理由は、以下の通りです。SPA(専門業態)の強みは、裏を返せば「総合型企業」の弱みです。なぜなら、商品・サービスの「非特化型企業」にとどまる限りは(非SPA企業・非SPA部門)、
 (1)「品質感」の作り込みができない、
 (2)「企画提案力」を組織として醸成できない、
 (3)「価格訴求力」をシステム的に実現できない、
 (4)「買いやすい売場」が設計できない、
 (5)「サービス」と「販売プロモーション」の効率が低下する。
という5重苦に悩まされ続けます。

 こうした視点から、衣・食・住・その他サービス企業で、SPA(製造小売)型の企業が、どのようなイノベーションを実現してきたのか(イノベーションの歴史に焦点をあてる)を企業の発展史から分析してみるとおもしろいと思います。
 もちろん、垂直統合型企業になりうる条件を丹念に精査してみる必要があります。
 (1)企業体質がリスクテイク型であること
 (2)トップが決断の早い創業経営者であること、
 (3)地方出身企業がSPAになることが多い(初期対象市場が豊穣ではないから)
  なぜなら、成長過程の早期に、付加価値を創造機会が小売部門だけには失われて、
  市場は都市部、調達は海外に分化せざるをえない状況の追い込まれるから。

 以下の事例を、順に取り上げていくのはいかがでしょう?

<衣料品分野>
 (1)西松屋チェーン 店舗設計、物流システム、商品調達
 (2)ハニーズ 国際調達とMD、ブランド展開
 (3)ユニクロ 水平多ブランド展開(従来からの強み+)
<食品分野>
 (1)幸楽苑 工場直接管理、店舗設計、メニューの絞り込み
 (2)ワタミ (有機野菜部門)の垂直統合、イメージ戦略(エコ)
 (3)ロックフィールド 商品調達、ブランド企画、物流システム(JIT)
<住居関連>
 (1)ナチュラルキッチン 商品調達、店舗MD、価格づけ
 (2)シンプルスタイル、大連発展 商品調達、立地革新
 (3)ニトリ 商品調達、立地開発、物流システム