「Beer and Tech」(ブランド名は、HitoHana)の創業者、森田憲久さんに、JFMAのトップインタビューシリーズで取材を申し込んでいた。森田さんは、埼玉県川越市の森田洋蘭園の次男さん。2017年に、お父様に連れられて、わたしの鴻巣市での講演会を聞き来てくれた。それ以来の知り合いである。
昨日のインタビューは、京橋駅近くのシェアオフィス(福岡銀行の運営)で行われた。実際の集荷・配送のオペレーションは、埼玉にあるようだ。使われなくなった温室をリビルトして利用しているようだった(本当は、二時間をかけてデポまでいくつもりでいた)。生産者の息子さんらしく、集荷業務から配送まで一貫したシステムを稼働させているところが特徴である。
この辺は、創業直後の「プラネットテーブル」(菊池伸元社長)や「オイシックス・ラ・大地」(高島社長)などの農産物供給システムを彷彿とさせる。農産物サプライ事業のSPA業態の一つの形態でもある。どちらもEC事業を基盤にしているので、垂直統合型のビジネスモデルで競争優位を築こうとするのは当然のことだろう。
詳しくは、事務局の野口弥生さんが、2021年1月号からの連載記事にまとめてくれることになっている。
さて、昨日(12月4日、午前10時半~)のインタビュ-に先だって、森田さんには、つぎの項目をメモで送ってあった。わたしがインタビューで聞きたい内容である。
1 生い立ち(+ご両親、兄弟からの影響)
2 植物への興味とビジネス志向がどのような育まれたのか?
3 現在の事業の発想はどこから来たのか?
4 影響を受けた人、従業員や仲間のこと
5 コロナの中で心がけていること
6 事業の未来、夢や希望
結果、2時間を超えるロングインタビューになった。とりわけ、お父様(リーダーシップの源泉、誰とも自由に話せる人)からの影響と学生時代(明治大学商学部)に経験した企業インターンシップ(ドリームゲート)について、長い時間を割くことになった。やはり、若い頃に誰と出会い、どのような家庭環境で過ごすのかは、起業家にとって決定的なことである。
森田さんの血と肉になっている経験は、卒業後に10年間務めた、インターネット広告会社での営業経験のようだ。モバイルに事業を転換する際に、森田さんと意見が対立したベンチャー経営者(社長)とのやりとりがおもしろかった。漫画サイトの広告出稿モデル構築の経験が、いまの森田さんのビジネス構築に生きている。
これ以上書いて長くなると、弥生さんの仕事を侵食してしまう。一つだけ印象に残った森田さんの言葉を紹介する。「6 事業の未来、夢や希望」を尋ねた際に、彼が見せてくれた日記(記事?)である。抜粋して紹介したい。
花屋さんや花農家に代表されるように、個々が小さくて分散型で労働生産性が低いのがこの産業の課題である。人々はその産業で働いている。森田さんは、スケーリングが困難な花産業にイノベーションを起こしたい。その方法論として、農産物供給チェーンで実現したい。目指すのは、この産業で働く人たちが、自分の仕事の効率と創造性によって高い賃金と待遇が得られる組織を作りたいと語っていた。
わたしがいま研究対象としている「FCチェーンの課題」を、農産物のバリューチェーンにもたらす仕事である。わたしはそのように理解した。その一部を紹介してみたい。
森田さんの挑戦は始まったばかりのようだ。しかし、いまの日本でこそ取り組むべき課題だと思う。
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「なぜ、僕たちは今、フラワーデリバリーサービスに夢中になっているのか?」
森田 憲久 Founder, CEO on 2020/11/30
僕らは2015年の10月飲食店の予約サービスからピボットし、フラワーデリバリーサービス『HitoHana(ひとはな)』をスタートしました。新型コロナウイルスの影響もあり、BOUQSやColvin等、世界中でフラワーデリバリーサービス※が盛り上がりをみせる中、正直国内での僕らに対する社会の認識は、いまさら花のECをなんでやっているんですか?という感じだと思います。
※フラワーデリバリーサービスとは、花をECで販売して配送する業態を指します。
僕らがなぜ、HitoHana(ひとはな)を取り組んでいるのか書いておきます。
端的に言うと、労働生産性が低く、時代に取り残された産業を僕らの時代にあったカタチに変えられると思ったからです。
お花屋さんは昔の肉屋さんや魚屋さんのように小さなお店が沢山残っています。
採用面接をしていると、お花が好きで長年小さな店舗で勤務し、薄給でも朝早く、夜遅くまで働いてきたが、AIや自動運転などの新しいテクノロジーに関するニュースが耳に入ってくる中で、このまま花屋さんの中でずっと働きつづけることに疑問を感じ、面接を受けにきましたという方によくお会いします。
面接にくる方の認識は正しいと思います。なぜならば、規模化しない業態でテクノロジーの力を味方につけるのは難しいからです。お花屋さんは分散型業態と言われるところに位置し、参入しやすいが競争優位性の構築が難しい業態です。小さなお店ではエンジニアをかかえ、IT投資をできるほどの利益をあげている会社は多くはありません。
逆に他社との明確な提供価値の差があったにも関わらず、ローカルに埋もれていたお店はECをスタートさせ、ITの力で、収益を伸ばしています。テクノロジーは消費の分散より、集中を生み出す側面のほうが強いのです。テクノロジーは小さな会社や個人をエンパワーメントすることで、機会は平等に与えてくれますが、富は平等に分け与えません。
では、どうのようにしたらいいの?
(中略)
僕らが、フラワーデリバリーサービス『HitoHana(ひとはな)』というビジネスに夢中になるのは、テクノロジーとビジネスモデルを工夫することで、花屋さんを事業規模が大きくなるほどお客様に支持される、これからのカタチに変えられると思っているからです。
ECはそもそも事業規模が大きな会社をつくりやすい業態であり、花のECの平均成長率は10%程度で成長しています。更にコロナウィルスの影響もあり、花き業界は急速にオンライン化しはじめています。花きのマーケットの歴史の中ではじめて、大きな小売が誕生する可能性があるのが、いまなのです。
HitoHana(ひとはな)のフラワーカテゴリは、昨対比700%成長をみせ、更にお花のサブスクサービスもリリースし、オンライン化の先頭に立つサービスへと花開こうとしています。
ただ、このチャンスをものにしようと、国内の花屋さんだけでなく、米国のスタートアップが30億円以上調達して、日本のマーケットへの参入を表明しています。競争は激しくなってきていますが、HitoHana(ひとはな)を花のECマーケットの40%シェアを持つような大きなサービスに育て、花き産業から僕らの時代にあったカタチに変えるつもりです。
(中略)
これから働く人が減っていくスピード以上に、成長しない企業数を減らして、事業成長を続け大規模化していく会社に、集約していくというのが、労働生産性を改善していくための基本的な方向性です。
だから、僕らは花屋のように大規模化できない、生産性の低いと言われる産業に、大きな事業をつくれるのかという挑戦には大きな意味があると思っています。花屋さん同様希望が見えないって、産業はたくさんあります。
どこまでやれるかわからない、でも、ぜんぶ変えるつもりです。
ビジネスとテクノロジーの力があれば、どんな産業であっても希望が持てることを、証明したい。
(後略)