少し前になるが、『日経ビジネス』(11月16日号)に、ヤオコーの川野幸夫会長がコラムを書いていた。テーマは、企業の社会貢献(寄付行為)についてだった。コラムの見出しには、「会社も社会の一員。事業を通じて、社会の役に立つことが不可欠だ」とあった。
このような美しい言葉は、言うだけは簡単である。しかし、川野会長は有言実行のひとだ。わたしが知っているだけでも、①医療従事者への寄付(小児科医師への奨学金制度)、②本社のある川越市に美術館を創設(地域貢献と文化活動)、③出身高校(浦和高校)に海外留学制度を創設(これは、地方の進学校に波及)などを実現している。
初期のころは、ご自身が所有する株式を売却して、①と②を実現されていた。本当に人徳者で、欲のない方だといつも感心している。サントリーの創業家などを例外として、成功した経営者はふつうは目立つこと(ニュースバリューのあること)にお金を使うものだ。川野さんの寄付行為の軸はそれとは違っている。
たとえば、業務提携先のライフコーポレーションが、コロナ禍で収益が向上した際に従業員に特別賞与を支払った。この記事は、大々的にメディアで取り上げてもらっていた。同じころ、ヤオコーも従業員に数億円の見舞金を支払っていた。コロナで対面の仕事が大変だったからなのだが、ヤオコーはこのことをメディアを通じては広報しなかった。
「当たり前のことを、そんなに大々的に宣伝するものではないですよ」と川野さんご本人から伺ったものだ。南浦和の店舗の開店セレモニーの時だった。
「賢人の警鐘」のコラムについていえば、数カ月に一回巡ってくる川野さんの回だけは読んでいる。申し訳ないが、その他のコラムニストの文章は読まない。どこか話が自慢話になっていて、嘘くさくて読む気になれないからだ。ンスパイヤ―されるものがない。
その点、川野さんの書きっぷりは、ご自身の成果を自慢するでもなく、いつも淡々とつとつとしている。語り口が謙虚だから、逆に話に説得力がある。そして、ヤオコーを作ってきた川野さんのよいところは、従業員と地域を大切にすることだ。会社の事業がグローバルになると、出身地のことを忘れてしまいがちになる。
最近になって、本社を地方都市から東京(本社)に移転した企業は少なくない。地方が衰退する時代。企業の地域貢献は、ますます重要になってきている。埼玉出身のヤオコーの歩いてきた道が、ある意味でローカルに地盤を持つ流通業などのお手本になってほしいと思う。川野さんには、つぎにそのことを書いてほしいと思う。