本日、日本経済新聞の一面をふたつの買収劇が飾った。三菱商事によるローソンの子会社化(TOB)と、独バイエルによる米モンサント社の6.8兆円の買収提案である。農薬・種子部門の大型買収なので、後者のほうが私たちの生活に与える影響は大きいだろう。
日本のコンビニ業界は、セブン₋イレブン、ファミリーマート、ローソンの三強時代を迎える。しかも、三菱商事がローソンを子会社化すると、これで二強は商社系ということになる。セブン₋イレブンと三井物産との関係が微妙にはあるが、将来的には、CVS業界で商社(=勝者)が三強になる道が残されていないわけではない。
一方の農薬・種子産業の国際買収劇は、グローバルな食品産業への影響が強烈である。バイエルがモンサントを買収した場合は、部門売り上げが266億ドルの世界最大の農薬・種子コングロマリットが誕生する。二位は、昨年発表された米デュポン(ダウ・ケミカル)の買収で、これが年商162億ドル。中国化工集団のシンジェンタ(スイス)の買収は、部門売り上げ(シンジェンタのみ)が134億ドルである。
遺伝子組み換え作物(GMO)の規制は、米国を中心に進んでいるようだ。欧州は、10年ほど前からNonGMOが当たり前になっている。歯止めはかかっているが、この産業は穀物生産と関連と深い。政治的には要注意である。闇も深い。
これで、世界の農薬と種子は、三つの巨大企業に支配されることになる。わたしたちの食の根源にある種子が、超がつく寡占状態になるのだ。
世界各国の独禁法は、どのように農薬・種子産業の大型買収に対応するのだろう。これでいいのだろうか?規制があればそれもわかるが、グローバルに十分な規制がなされる可能性は保証されてはいない。
命の根源をめぐる買収劇に、経済界はまったくもって静かな対応をしている。政治の世界ともなると、沈黙以外のなにものでもない。その昔、わたしの周りである事件が起こった。20年ほど前のことなので、すでに時効になっている。農薬・種子会社の危うさを象徴する事件である。この事実を明らさまにしてしまおう。
正確な時期は忘れてしまったが、ガーデニングブームが頂点を極めていたころのことである。1995年前後だっただろう。国内のある種苗会社の製品開発の実態を知らせてほしいという国際メールが、大学のPCに届けられた。要するに、金銭でスパイをやってほしいというあからさまなリクエストだった。
依頼主は、日経新聞に登場している5社中の一社で、当人はその開発部門マネージャーである。のちに、このマネージャーはその会社の中で、出世の階段を昇り詰めることなる。わたしが翌日の国際電話で即日、協力を拒否したので、ひとこと”You are a chicken!”(お前は弱虫だ!)と言って、電話を切った。
この事件をわたしは一生忘れないだろう。要するに、この産業で偉くなるひとは、とてもお行儀が悪いのである。皆さんは、どのように感じられるだろうか?