企画を立てたあとは、実際にインタビューに臨むことになる。実は、昨日(6月26日)も福島のいわき市にあるハニーズ本社を訪問することになった。
フィールドワーク(錦糸町店、新宿店を利用)の打ち合わせのためである。大学院生たちと一緒だった。
お昼間際に、江尻社長も会議室にお見えになって、学生達3人に2Fにある商品開発、店舗営業のフロアを案内してくださった。服飾デザインの作成用PCで「パタナー・ソフト」(お絵かき用ソフト)の説明をしてくれた。
デザインのデータは3万件。2~3年分がファイルされている。約30人いるデザインナーは、PCに向かって仕事をしている。すべて女性である。約600店舗ある店長さんもほぼ女性であろう。中堅幹部約500人が女性の会社である。江尻社長はおそろしい環境で指揮をとっていることになる。決してセクハラでもなんでもない。たいへんな仕事である。
4月28日が、いわきの本社への最初の訪問であった。それ以後も、社長室の村上さんとは、折に触れて、電話やメールで連絡を取り合っていた。そして、1か月半後に、間髪を入れずにこうしてフォローの訪問をすることなった。メーカーの営業活動と同様に、顧客から信頼を得るには、始終顔を合わせていることが大切である。
* * *
さて、以下は、最初の訪問の際に行ったインタビューを、同行してくれた阿部記者がまとめてくれたものである。先週HPにアップした第二回の企画案に沿って、その通りに取材がすすんでいったことが推測できるはずである。
下調べをきちんとしてあるので、江尻社長は、他の雑誌(MJ、日経、その他新聞など)で話したことを繰り返さなかった。ほとんどが新しい情報・データである。担当編集者にも喜んでもらえたし、わたしにとってうれしいのは、引き続き、高収益SPAの連載やコラムの依頼をCSA誌から得たことである。皆さんには、ほぼ一ヶ月前倒しで、インタビュー記事をお伝えすることになる。
* * *
<チェーンストアエイジ7月15号、ROA特集対談>
法政大学小川教授の「高収益SPAの秘密」特別対談
<リード>
「収益性の課題」をクリアできた高収益企業は、現状では例外なく「垂直統合」(製版統合)を実現している企業である。「垂直統合と高収益性」の因果法則が当てはまる理由は以下の5つ。①品質感の作り込みができる ②組織として「企画提案力」を醸成できる ③「価格訴求力」をシステムとして実現できる ④「買いやすい売場」が設計できる ⑤「サービス」と「販売プロモーション」の効率が高い。
今回は①~④に絞って、驚異的な成長性と高収益を両立するハニーズの秘密に迫った。
撮影=下坂敦俊
聞き手:法政大学ビジネススケール教授 小川孔輔
株式会社ハニーズ代表取締役 江尻義久
粗利益率57%・海外生産比率7割の現状がベスト
後は出店で利益額を積み上げていく
――ハニーズはレディースの流行服でありながら、低価格で高収益を実現しています。そうしたなかで粗利益率の高さが際だちます。
江尻:値頃感のある商品を販売している会社で粗利益率50%超というのは、日本でうち一社です。うちの3~4倍の価格帯で売っている企業でも52~53%の企業が相当業績のよいところです。当社は、2000年ぐらいから中国で本格的に生産を開始し、海外発注比率が上がるに伴い、粗利益率も上がっています。2003年5月期には粗利益率51.5%を達成、その後、53.6%、55.4%ときて、直近では57.3%を予定しております。
――その要因はどこにありますか
江尻: 1つ目は、商社やメーカーを一切通さないでダイレクトに中国の工場に発注している点で、中間マージンが一切入っていない。次に、徹底して引きつけて企画しているので、企画のはずれがない。価格も良心的ですから、プロパー消化率(最初に値付けした金額で売れる比率)が非常に高い。安く作る、高回転、企画を引きつけて素早く作るのではずれがない、という3点が好業績を牽引しています。
①品質感の作り込み
――中国に生産を移した際、レディースのファッション商品ですし、品質を維持するのは難しくはなかったのですか?
江尻:かつては素材を国内で作っていましたから素材には非常に詳しい。日本の素材は大変優れていますが、中国でも技術が発展し、糸をよ撚って同じ素材が作れるようになりました。自社でパタンナーもいますから、「これが着やすい」とか「襟ぐりがどうだ」という長年の資料があって、流行に補足したりしています。
今でもうちは、物流センターの2Fに、自前で縫製工場を持っています。我々は、縫製の品質や生産管理、素材、副資材も含めて、勉強することができた。製造原価も全部わかっていますし、そのへんが、通常の小売店とはまるっきり違うのではないでしょうか。
――繊維関係の集積がこの町の周辺にあったのが出発点になっていますね。
江尻:そうです。縫製工場は田舎にありますから、ものづくりによって武器にできないかと考えました。自分で思うような企画をして、感度が良く、高品質な商品を安く販売できないかと。地方にいたから地方の女性がお小遣いで買えるような手頃な洋服が欲しいということがわかっていたんですね。地方にいるハンデを逆に武器にしたわけです。
②企画提案力を組織として醸成する
――先ほど、企画はギリギリまで引きつけるとおっしゃっていました。具体的にはどのような流れで進んでいるのでしょうか。
江尻: 1週間単位で回っています。月曜日に全店のデータを取り、それをもとに毎週火曜水曜に109やラフォーレに行くなどの市場調査をしているのですが、毎週行くと東京のファッションの変化がつぶさにわかる。市場に出始めで、新鮮だと思えるものを4つのブランドに分けて、木曜日の企画会議で大体70~80型を決め、金曜日に中国に発注しています。競馬で言えば、4コーナーまで引きつけて、間違いないものだけを企画をしています。そして、シーズンインしてから30~40日で商品があがってくる、この繰り返し。ファッションの先を読めるのは、1カ月から1カ月半で、3カ月先は誰も読めない。
――なるほど、4コーナーの計というわけですか。
江尻:ええ、しかも素材にリスクを持たないんです。うちの強みは、素材にこだわらずに、いい企画があればどんどん作ることができる。我々は糸から撚って、布を織って、染色して、裁断して、縫製して。それで30日から35日ですから。生地のリスクを持っていれば2週間でできますけど、それは本当の意味のSPAではないですね。
③価格訴求力をシステムとして実現する
――その流行の商品を非常に安い価格で販売できる仕組みができている
江尻:正直言いまして、これ以上安い値段で買うことのないような値段で買っています。だから1,600円で57%の粗利がでる。商社とメーカーを通すと、同じ商品でも、うちが1,900円だとすると、3900円どころか5,900円ぐらいになっちゃう。
――初回ロットは、昔5,000ぐらいだったと記憶していますが、今は、
江尻:8,000ぐらいです。うちはビジネスが簡単なんです。月300型を企画して、ロットが、最初は3,000ぐらいだったんです。3,000が5,000になり、6,000になり、8,000になった。ロットが増えていくだけです。
――5000から8000にロットが増えると、原価はダウンするんですか。
江尻:いえ、もう限界です。ロットをまとめたから安くなるわけではありません。他社さんのように工場の閑散期にまとめて作ると、逆にリスクがある。大量発注して作り置きだと、売れなくなったときどうしようもないのです。国内ではいつも毎週発注していましたから、この毎週発注を中国に対してもできないかという発想だったんです。だから同じ値段で売って、今ユニクロさんは46%ぐらいの粗利ですが、うちは57%。同じ値段でうちのほうが粗利は高いんです。
――在庫マネジメントについてですが、単品管理をやられているのですか。
江尻:ええ、全部単品管理。中国で生産したうちの60%はダイレクトに店に入りますが、残りの4割は物流センターに在庫として置いておきます。店の在庫がなくなれば、その4割を使って、店に自動補充される。物流センターの在庫がなくなったら、今度は売れない店と売れている店を探して転換移動を始めます。
――そこで在庫調整をする。
江尻:また在庫調整。北から南、南から北とか、売れる店と売れない店というので。一度物流センターに戻して、そこで自動的に、行き先へと向かう。転換移動に回る分は、全体の15%です。
④買いやすい売場の設計
――実は、法政大学の女子の学生にハニーズを知っているかと聞いてみたんです。ところが、あまり知らない。ただ、いろいろ話を聞くと買った経験があるんですね。
江尻:店名で買うのがブランドですけど、店名で買わないから店名を覚えてないんです。
――この業態で、知名度が高いというのは逆に不安要素になる?
江尻:ですから他社はリスク回避として、多業態でやられるんでしょうけど、うちは1店舗が多業態なんです。スポーツカジュアルのJハニー、フェミニンなシネマクラブ、109系のコルザ、きれいめのグラシアとタイプの違う4ブランドを持っていますから。だから1つが落ち込んでも、別でカバーできる。
――他社は、ブランドを立ててそれに商品がくっついてきますが、ハニーズは商品と仕組みで売っている。
江尻:そう、我々は本当にマーケットインでお客に合わせているだけですから。流行ものだから、来年着れる保証はない。だったら安いものでという気持ちは、女性はすごく強いんですね。でも流行でないものは着たくない。女心は非常に微妙で、人と同じものではない流行のものが着たい。
ですから、1店に最初に入るのは黒のMサイズなら大体1枚。色とサイズ別で大体12枚セットぐらいです。あとは在庫として持っているというやり方ですね。2週間ぐらいに1度、商品がガラッと変わるので、気に入ったときに買わないとなくなってしまう。常に売場を新しくしているわけですね。
●
――最後に、粗利益率についてはさらに上げる方針なのか、それとも維持して額を追うのか。
江尻:粗利アップはもう考えていないです。57%がベストで、これを維持したいと考えています。海外生産(自主企画)比率を7割まで高めることで粗利が上がってきたわけですが、これを欲張って100%にするとメーカー情報が入ってこなくなりますし、自主では限界がありますから。経営的には、今期売上高経常利益率が16%台に乗ると思うんですね。これを維持して、後は出店して売上を伸ばすことで額をアップさせたい。国内に1200店ぐらいだせると思いますから、まだまだ成長余地があります。