来年度の科研費に応募するために、少し前から読んでいた書籍。近年注目されているESG(環境、社会、ガバナンス)投資と企業の収益性の関係について、理論的な枠組みを提供してくれる。2000年以降に、国連が主導してきたSDGs(持続可能な会開発)の時代的な背景がよくわかる。
前半部分(第1章~第4章)は、21世紀に入ったころから、持続的経営(環境・社会要因)を重視する企業が増えたことの解説がつづく。後半部分(第5章~第9章)では、持続的な経営が「持続的であること」の実証を試みている。分析の対象は、アパレル、食品、製薬、小売りの4つの業種である。
ただし、この後半部分はあまり成功していない。売上高(企業規模)がバリューチェーン評価点(SCMの社会環境的な持続性)と緩く相関していることが実証されているだけ。収益の大きな会社が、環境保護や社会貢献に投資する余裕がある。すなわち「社会的な注視仮説」を支持するにとどまっている。データの制約上、致し方がないかもしれない。
第1章「持続可能性経営とは」では、持続可能性経営(Sustainability Management)が「持続的か?」(Sustainable?)を問う。CSR(企業の社会的責任)の概念が、マイケル・ポーターが提唱したCSV(共通価値創造:Creating Shared Value)に到達するまでの概念整理がうまくできている。
前半の残り部分(第2章~第4章)では、ESG投資が機能できているロジックを、機関投資家の利害から説明している。個人的に勉強になったのは、2013年ごろから、日本でもメディアがさかんに取り上げている「企業のカバナンス責任」や「日本版スチュワードシップ・コード」がなぜ金融庁主導で登場してきたのかがわかったことだろう。株主の利益と言いながら、実は金融界で最大勢力となった年金基金の存在(利害)によるものである。
よく考えてみると、そこからはふたつのことが浮かび上がってくる。ひとつめは、企業活動(投資)がグローバル化したことで、機関投資家の意向に逆らえないようになったこと。二番目としては、海外からの投資には、ある程度長期的なコミットメントと透明性の高い企業情報が必要とされること。つまるところ、売り上げや利益は結果である。予測のためにもっとも簡素な成果指標が、サプライチェーンや環境・社会に対する持続可能な取り組みをしているのかどうか。
うまいところに目を付けたものだ。たしかに、それが機能していることがわかる。「自然資本」(水と温室効果ガス)という概念に着目したところが新しい。
本書は、経営の持続可能性の諸概念の整理と、ESG投資に対する入門書としては優れた解説書といえる。物足りないとすると、前半部分では独自の理論枠の提示がないことと、後半部分では実証分析の中途半端に終わっていることだろうか。