【討論資料】野田将克氏「中小企業の再生仮説」(小川からの質問と野田社長から回答)

 以下の資料は、3日前に野田将克社長(「花恋人」社長)に送った私からの質問に対して、野田さんから得た回答です。クレジットは野田さんにあります。AIを駆使して完成させた野田さんの論考を、小川が監修して添削してあります。野田さんの許諾を得て、小川の本ブログに発表します。
 (*これって、なんかデジャブ? このプロセスに既視感があります!)
 
 そもそもの発端は、執筆中の『社長はつらいよ』(光文社新書)の第7章で、「優秀な社長が生まれる条件」を議論していたときです。
 5番目の仮説として、事業承継された中小企業が再生できるためには、いくつかの条件があることを、第2章の2つの事例(葛飾区の「長沢ベルト工場」と武雄市の「佐嘉平川屋」)をまとめてみて、なんとなくの当たり(仮説)をつけたことから始まりました。
 野田さんも、「1.5代目」の事業家です。父親が創業した花屋を、カネボウの事業再生の仕事を終えてから実家に戻って再生に成功しています。ただし、後継者となった息子が誰でも父親の事業を伸ばすことができるわけではありません。そこには、必ずや承継者について条件があるはずだと考えました。
 そこで、野田さんの実体験(①実家に戻る前と②戻ってからの取り組み)を教えてもらうことにしました。わたしから質問を投げかけて、野田さんからLINEを通して得た回答です。ただし、野田さんは、AIとやり取りをして回答してくるものと考えたので、わたしからも前提条件(プロンプト)を提示しました。
 その条件とは、事業承継に成功する社長さんは、「”他人の窯の飯”を食べた経験を有すること」(野田さんの場合は、カネボウで製品開発で成功して、事業再生プロセスにも加わる=遠くに旅をする」でした。さて、結果はいかに?

  
 野田将克氏「中小企業の再生仮説、小川からの質問と野田社長から回答」
 第7章「解説 社長はこうして作られる(仮)」のための資料
 小川孔輔『社長はつらいよ』(光文社新書、2026年12月刊行予定)

 著者紹介:野田将克氏(株式会社花恋人社長、中小企業診断士)
 同志社大学工学部を卒業後、「カネボウ((株))」に入社。食品研究所にて新製品開発の部門チーフとして、食玩の「ねるねるねるね」のコンセプトを進化させたブランド「知育菓子ポッピンクッキンシリーズ」を大ヒットさせる。一方で、会社が経営的に破綻してしまい、事業会社が「事業再生機構」の下で再生プロセスに入る。このとき、野田氏はカネボウで事業再生案件を実際的に経験する。
 事業再生にめどがついた段階で中小企業診断士の資格を取得。その後、実家に戻り、父親が経営していた花販売事業(花恋人)を継承する。その後赤字店舗を閉じて3年後には黒字転換。2017年に関東地方に進出。「生花販売」に加えて、2020年頃から本格的に「フラワー雑貨」を取り扱うようになる。現在、関西・関東地方を中心に46店舗。売上高18億円(2026年3月期)。
 監修:小川孔輔(法政大学名誉教授、JFMA会長)
 
 はじめに
 野田将克社長に対して投げた課題(小川仮説)は、次のようなものである。
「優秀な経営者によって導かれる中小企業は実行できるが、大企業には遂行できないことがある。それは、赤字に陥った事業を短期間でスピーディーに再生させることである」
*野田氏が実際に自社で経験した「事業再生プロセス」は、「ホワイトスペースの発見」と「シュリンク&グロー戦略」の2つで表現されている。

 結論を先取りすると、それができるためには、以下の4つの条件が前提になる(野田社長の回答(*小川が野田氏の推論を整理したもの)。
① 小さいけれど変化を受け入れる「柔軟な組織」であること、
外の世界(他社)で経験を積んできた若い後継者が改革を担うこと、
「攻撃力」(新市場の開拓)「守備力」(不採算部門の縮小)の両面に強いこと、
④ 再成長のための「ホワイトスペースの発見」とそれに続く「成長戦略」、ならびに、不採算事業からの撤退で成長の原資を確保する「縮小戦略」を連続的に実行できること。
⑤ 本稿では、最後に、①~④が実行できるための環境要因(小川の問いかけ)を議論して、中小企業の会社再生のための条件を整理する。

 ここまで(はじめに)は、二人(野田氏と小川)の議論を踏まえた「小川の見解」と「議論の整理」である。以下は、野田社長が「小川仮説」について導いた結論である(小川が若干の補足をしている)。
  
1. 小さな会社は「新陳代謝を早めやすい」
1.1 中小企業の組織特性
 中小企業にはつぎのような組織特性があります。
小さな会社は、「組織の新陳代謝がスピーディーに進めやすい」とわたしは考えています。大企業と比較して、中小企業には次のような特徴があります。
・賃金水準が低い
・福利厚生が限定的である
・終身雇用の意識が弱い
・組織に対する帰属意識や期待が低い
 そのため、中小企業では、社員を会社につなぎとめる「経済的な拘束力」が大企業ほど強くはありません。一見すると、これは「弱み」に見えますが、わたしはこれが中小企業にとって「事業再生」における最大の武器だと考えています。会社に合う人材は残り、合わない人材は自然と離職していく。この流れを意図的に設計することで、組織全体を短期間で変えることができるからです。

1-2 人材の自然な選別を生む仕組み ― 経営理念と評価制度
 それでは、どうすれば人員の新陳代謝が自然に進むのか?
 鍵となるのは、会社の方向性を明確に示すことです。例えば、「店舗オペレーションだけを評価する会社」(運営効率重視)から「売上を伸ばし、モールとの交渉を行い、新しい挑戦をする会社」(顧客対応重視)へと評価の軸を変えるとします。すると、従来型の人材は「この会社は自分に合わない」と感じて離れますが、逆に、挑戦したい人材が集まってきます。これは、経営者が従業員を解雇しなくとも、経営理念と評価制度を変えることによって生じる自然な人材の選別(自然淘汰)が起こるからです。
 当社でも、かつては「花をきれいに作れる人」(作業効率基準)が評価されていました。しかし現在は、商品開発、海外調達、モール営業、IP企画、SNS発信、データ分析まで、「顧客対応と市場開拓で卓越した能力と結果が残せること」を社員に求めています。新しい仕事を面白いと感じる社員は成長し、従来の仕事だけをしたい社員は会社との方向性が合わなくなる。このようにして自然な人材の新陳代謝が生まれていきます。

1-3 留意点 ― 組織の硬直化への対応
 ただし、組織が大きくなるにつれて徐々に硬直化が始まります。この仕組みを機能させ続けるためには、規模の拡大に応じて硬直化の要因を一つずつクリアしていく必要があると考えています。これについては、後に述べることにします。
  
2.「ホワイトスペース」の発見 ― なぜ中小企業に可能なのか
2-1 大企業における「イノベーションのジレンマ」(変化の回避行動)
 わたしは前職で、食品メーカーの研究所に所属し、新商品の研究開発を行っていました。その経験から、大企業と中小企業では「イノベーションが生まれる仕組み」が根本的に異なることを実感しています。これは、クリステンセン教授が主張した「イノベーションのジレンマ」と関係しています。
 メーカーでは、一つの商品を市場に投入するまでに通常は1〜2年を要します。市場調査、競合分析、差別化戦略、知的財産(特許・意匠・商標)の検討、試作品の作成、テストマーケティングなど、多くの工程を経て、さらには、研究、営業、製造、品質保証、法務、知財、経営会議といった数多くの部署の関与と承認を受ける必要があります。
 この承認プロセスは品質を高める一方で、尖った革新的なアイデアほど、「リスクが高い」「市場が狭い」と判断される傾向があります。オリジナルのアイデアは、組織の承認プロセスを通過するうちに改訂され、少しずつ修正されていきます。結果として、誰からも反対されない代わりに、誰も驚かない「平均的で凡庸な商品」へと変わってしまうことが少なくありません。革新的な商品を世に送り出すには、「担当者の強い信念」、「社内を巻き込む力」、「過去の実績にとらわれない企業文化」などが不可欠になります。
 
2-2 経営における長期的な視野、「リレー方式」と「ラグビー方式」
 一方、中小企業ではこうした制約が大企業ほど大きくありません。経営者自身が現場に近いところで意思決定を行うことができます。わたしはこの違いを、組織運営におけるスピードと変化に対する対応のちがいと考えています。
 大企業では、一つひとつの作業工程を順番に進める「点」(個別部門)の橋渡しで物事を進めていきます(「リレー方式」)。最終的な品質は高まりますが、長い時間がかかります。途中での方向転換も難しくなります。
 これに対して、中小企業では、商品開発、売場づくり、ブランド戦略、採用、価格、SNS、店舗展開などを同時並行で進められます(「ラグビー方式」)。商品単体ではなく、ビジネス全体を組織として一度に設計・実行できるため、「面」(全体組織)として市場にアプローチできるのです。
 さらには、ひとりの経営者が長期にわたり経営を続けることが前提になるので、5年、10年という時間軸まで、組織の設計に組み込むことができます。商品だけでなく、ブランド、人材育成、店舗網、知的財産、顧客との関係性を積み重ねることで、それぞれの競争優位を長期的な視点から計画しながら育てることができます。
  
2-3 「ホワイトスペース」とは何か
 この考え方が、「ホワイトスペースの発見」につながります。
ホワイトスペースとは、単に競合の少ない市場を探すことではありません。単なる市場対応のための商品戦略ではなく、ブランド、販売チャネル、人材育成、知的財産管理、店舗立地に加えて、トータルな戦略計画(時間軸)までを含めて設計することです。
 分権化が進んだ大企業にとっては、全く新しい市場を創り出すことは構造的に困難です。ひとりの経営者が長期に渡って経営にコミットすることができる中小企業だからこそ、ホワイトスぺ―スにアクセスすることができるのです。
  
3 「シュリンク&グロー戦略」 ― 「縮小」は攻めの戦略
 この考え方は、「シュリンク&グロー」にもつながります。中小企業は、大企業のようにすべての事業を維持する必要はありません。成長性や独自性の低い事業は思い切って縮小(シュリンク)することができます。そこで生まれた資金、人材、時間をホワイトスペースへ集中投資(グロー)できます。
 つまり「縮小」は守りではなく、成長分野へ経営資源を再配分するための攻めの戦略です。破綻処理や再生の局面では、「何を増やすか」ではなく「何をやめるか」という判断が企業の存続を大きく左右します。
 わたしは、中小企業の最大の強みは規模ではないと思っています。むしろ「意思決定の速さ」と、経営資源を自由に組み替えられる「柔軟性」にあると考えています。組織運営で柔軟性を発揮することで、大企業では実現しにくいホワイトスペースを創出できます。フレキシブルな経営ことこそが、中小企業の競争優位の源泉なのです。
  
4 「旅をしてきた後継社長」の攻撃力と守備力
4-1 後継者が「遠くへ旅をすること」の意味
 わたしは、後継者が一度外の世界で「旅」をすることに大きな意味があると考えています。わたし自身、メーカーの研究所で商品開発を経験していました。そこで、大企業の強みと弱み、経営の仕組みを学びました。その後は事業再生や組織改革を経験し、「守る経営」と「攻める経営」の両方を実践してきました。
 結果として、後継者に最も重要なことは、家業をそのまま引き継ぐことではなく、一度は自分自身を異なる環境に置くことです。わたし自身も、そこで得た知識や価値観を実家に持ち帰り、自社を変革する力にすることだと考えるようになりました。
 
4-2 攻撃力 ― 新しい市場を創る力
 メーカー時代には、市場調査、商品開発、ブランド設計、知的財産、マーケティングを学びました。この経験により、ホワイトスペースを見つけ、新しい市場を創り出す視点を身につけました。さらには、中小企業では、大企業では難しいスピードで意思決定ができるため、商品だけでなくブランド、店舗、採用、販路までを同時に変革できます。これは、2で述べた「トータルな経営」の発想につながり、長期的なコミットメントから生まれる攻撃力を高めます。
 
4-3 守備力 ― 捨てる判断ができる力
 一方で、事業再生や組織改革の経験から学んだのは、「伸ばすこと」よりも「捨てること」の難しさです。経営には、利益の出ない事業の縮小、組織の最適化、固定費の見直し、人材の適材適所への配置、資金繰りの確保といった守りの経営が欠かせません。破綻処理や再生局面を経験しているからこそ、いまのわたしが経営者として、迅速に「シュリンク&グロー」という考え方を実践できているのだと思います。
  
4-4 攻守のバランスが企業を強くする
 経営者は、攻めるだけでも、守るだけでも会社を成長させることはできません。市場の変化を読み取り、新しい市場を創る「攻撃力」と、利益を守り経営資源を集中させる「守備力」の両方が必要です。
 外の世界で学び、異業種や大企業、事業再生の現場を経験した後継者は、この両方を身につけることができます。だからこそ、「旅をしてきた後継社長」は、単なる事業承継者ではなく、会社を次の時代へ進化させる変革者になれるのです。
 わたしにとっての「旅」とは、単に他社で働くことではありません。自分とは異なる価値観や経営手法に触れ、自社を客観的に見る力を養うことです。その経験によって、「変えるべきもの」と「守るべきもの」を見極める判断力が身につきます。
  
おわりに ― これを可能にする条件
 最後に、小川教授からの問いについて回答したいと思います。
 そうだとしたら、「なぜこれ(中小企業の後継経営者としての事業再生)が実行できるのか?それには条件があるはずだ」との問いに対するわたしの現時点での答えを整理しておきます。
 
「中小企業で再生が可能になる」のは、次の4つの条件が揃ったときだと考えています。
① 第1に、経営者が理念と評価制度によって会社の方向性を明確に示し、解雇によらない自然な新陳代謝を意図的に設計できること。
② 第2に、後継者が外部での「旅」を通じて、市場を創る攻撃力(市場調査・商品開発・ブランド・知財)と、捨てる判断ができる守備力(事業再生・破綻処理の経験)の両方を身につけていること。
③ 第3に、意思決定の速さと、経営資源を自由に組み替えられる柔軟性が保たれていること。残念ながら、組織の硬直化が進むと、この条件は失われます。
④ 第4に、経営者が長期にわたり経営を続けることを前提に、「時間」という軸まで経営に組み込めること。 
 これらの4つの条件が揃うことで、ホワイトスペースの発見とシュリンク&グローという方法論が機能します。中小企業の再生と持続的な成長が可能になる。これが、ご提示いただいた仮説に対するわたしからの回答です。

 

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