(その117)「ツマグロヒョウモンの餌を探しに」『北羽新報』(2026年6月29日)

 ツマグロヒョウモンがわが家の玄関ポーチに飛来してきたのは、4年前の2022年6月中旬でした。ツマグロヒョウモン(以下、ツマグロと略記)は、タテハチョウ科の蝶々で、メスの前翅先端部が黒色で斜めの白い帯を持つのが特徴です。オスの翅がオレンジ色の豹柄であることから、「ヒョウモン」の名前がついたようです。
 本来は、九州や四国など温かい場所で生息している昆虫ですが、温暖化の影響で生息域が北に広がっています。2019年に、北限が秋田県に到達しました。法政大学の山口隆子教授によると、ツマグロが急速に北上できたのには、もうひとつ別の理由もあったようです。それは、1995年頃に突然やってきた「ガーデニングブーム」の影響なのだそうです。
 ツマグロの幼虫は、パンジーやビオラを餌に成長します。農水省の統計によると、1990年から2000年までの10年間で、パンジー類の生産量は40倍に増えています。このころから公園や道路脇の植え込みに、花壇苗が大量に植えられるようになりました。ツマグロは、公園や庭に植えられたパンジーなどを餌に増え続けてきたわけです。
 
 ところで、わが家の玄関ポーチは、道路脇から60センチほどせりあがっています。家の前の路地は、小学生の通学路になっています。4年前にツマグロがやってきたとき、メスがパンジーのプランターに卵を産み落としたのでしょう。黒い幼虫がパンジーをむしゃむしゃ食べている様子を、子供たちが立ち止まって観察するようになりました、
 そのうち幼虫は蛹の形に変態して、プランターの端っこにぶら下がります。10日ほどで蛹は羽化して、ツマグロの成虫がひらひらと優雅に舞い始めます。ところが、ツマグロはプランターから離れようとしません。想像ですが、自分が生まれた場所を確認しておくためだったのではないかと思います。いずれ自分も卵を産み落とすことになります。安全な場所を確保しておかなければなりません。それが、“ゆりかご”のプランターだったのでしょう。
 夏休みが始まるまで、子供たちは卵から成虫になるまでのサイクルを2回ほど観察することになります。生命の循環を目の当たりにするわけです。そして30℃を超す猛暑の夏が訪れます。そのころにはパンジーは枯れてしまって、戻ってきても幼虫が食べる餌がありません。ツマグロは偏食の昆虫で、パンジーのようなスミレ科の植物しか食べないのです。
 
 その年、わたしは意を決して、スミレ科の植物を探しに行きました。夏でも枯れない四季咲きのパンジーを探しに、ホームセンターやガーデンセンターまで自転車を走らせました。かみさんに言わせると、「自然の摂理に逆らってまで、虫たちを甘やかしても、しょうがないわよ。餌がなくなったら、みんな死ぬんだから」。それはそうでしょうが、、、。
 その年の2回目のサイクルでは、蛹の形が小ぶりでした。半分ほどの幼虫は、餌不足のために玄関のタイルの上で討ち死にしています。炎天下で死体は干からびていました。それでも、スミレ科の植物が調達できれば、生き残っている幼虫の窮状は救えそうでした。

 今年のことになります。3日前にプランターから幼虫が這い出てきて、いまは蛹になっています。1週間もすれば、ツマグロが飛び立ちます。しかし、一か月もすれば、今年も酷暑の夏がやって来ます。この先の生育環境の悪化に備えて、ツマグロの餌を確保する必要があります。
 14日の日の午後、金町駅前の公園で花壇苗の無料配布イベントが開催されます。数日前に葛飾区のサイトを通じて予約しておきました。軍手と移植ベラを持って、ツマグロたちの餌の確保のため、花のイベントで役割を終えた花壇苗の掘り取りの作業に参加してきます。

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