25年ほど前に、「3F(スリーエフ)⽣活産業」という概念を提⽰した。JFMAが発足して間もないころのことである。「3F産業」とは、Fashion(アパレル産業)、Food(フードビジネス)、そしてFloral(フラワービジネス)の3つの産業の総称のことである。
3F産業は、IT産業やAIブームを支えている半導体産業などとは対極にある。その特徴は、重さで測れる/かさばる商品を扱っていることである。情報産業では、伝送経路でデータ(情報)をデリバリーできるが、3F産業では、「物流」(重たい/かさばる商品を時間と⾦をかけて運ぶ)と「店舗」(販売のために広い空間を占有する)が成功の鍵になる。結果として、一旦競争優位を築くことに成功すれば、フォロワーがトップに追いつくのがかなり難しくなる。また、先発企業を後発が追い抜くためには、相当な時間と資⾦が必要になる。
さて、先日のJFMA定例セミナー2026で、わたしは第2セッションのパネラーを務めさせていただいた。セッションの冒頭で、「花業界の2つのトレンドと3つの課題」というテーマで、短いプレゼンをすることになった。プレゼンの最初に、「トレンド#1」として、アパレル企業(Fashion)が花業界(Floral)に参入している事例を紹介させていただいた。これは、四半世紀前にわたしが予言していたことである。
ファッション産業でダントツ企業になったユニクロは、都市部の大型店舗でコロナの初期(2020年)に、花売り場を店舗展開し始めた。5年後の現在、国内30店舗でユニクロは切り花を扱っている。また、バロック・ジャパンも同時期に、2つの店舗フォーマット(TUIN Greenery とSHEL’TTER GREEN)で、観葉植物を取り扱い始めている。ユニクロほどビジネスが着実に前進しているわけはないが、グリーンビジネス(売り場)で植物を扱っている人たちの働くモチベーションは高いと聞いている。
興味深いことに、両方のアパレル企業は、農業食品部門(Food)にも参入しているが、ユニクロは野菜で、バロックはデリカ(総菜)で躓いている。また、ユニクロとバロックの失敗とは対照的な事例が、⻘⼭フラワーマーケット(井上英明社⻑)である。
1990年代後半に⻘フラは、東急百貨店に出店した。その後に大ブレークすることになる「ライフスタイルブーケ」で、井上社⻑が販売場所を決めるときに参考にしたのは、デパ地下にある総菜売り場(ロック・フィールドのRF1)だった。コンセプトは、ワインとチーズに花だったのである。その後、自ら「Aoyama Flower Market TEE HOUSE」をオープンし、Food産業にも参入した。
さて、デフレとディスカウントの30年は終わった。この先は、⽣活を豊かにする商品を提供する⽣活産業の時代になる。しかし、一方で激しいインフレの時代が到来している。インフレ環境下で⽣活産業を防衛するためには、従来の商売のやり方は通用しないだろう。プレミアムプライシングに失敗すれば、一瞬で市場からの退出に追い込まれる。高価格に対して付加価値をどのようにつけられるかが課題になる。
周囲を⾒まわしてみるとよいだろう。いま高収益なビジネスは、技術を占有している一部の企業群(GAFA+新興AI企業)である。しかし、⻑期の競争⼒と持続的な成⻑を考えると、彼らの優位性は
必ずしも盤石ではない。歴史が教えるように、彼らは環境の変化には案外と脆いところがある。ビジネスモデルやブランドが簡単にコピーされてしまうからだ。
ところが、3F産業では、店舗や商品を⽣身の人間がデザインして動かしている。ビジネスシステムの背後には、現場で働く人間がいる。人間を育てるシステムが機能しなければ、商品もブランドも盤石ではない。時間とコストがかかる分、ハイテクな産業より収益性は劣るが、3F産業のプレイヤーたちの⻑期的な競争優位性は持続可能なのである。


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