秋田の地元新聞『北羽新報』の連載が、次回の2025年新春号で100回目を迎えます。一度だけ、わたしの都合で飛ばしたことがありましたが、7年間休むことなく掲載を継続することができました。そのうちに、100回分のコラムをまとめて出版しようかと思っています。
「新人消防団員の憂慮」『北羽新報』2024年12月23日号
文・小川孔輔(法政大学名誉教授、作家)
2022年11月から、東京消防庁の新人消防団員として活動を始めました。東京都の準公務員ですので、団員には厳しい行動規律が求められます。たとえば、自転車で放水訓練に出かけたり、火災現場に駆け付けるときは、消防庁のマークが入ったヘルメットを着用します。コンビニで買い物するときなどでも、立ち居振る舞いに注意が必要です。活動服やアポロキャップが目立つので、すぐに消防団員だとわかるからです。
消防団員には、「地域の安全を守る」という役割がありますが、団員としての活動は基本的にボランティアです。あまり知られていないと思いますが、その割に拘束時間は結構長いのです。年度が終了すると、定例の分団会議で、各メンバーの年間出動回数が回覧されます。わたしの場合は、新人でいたので、昨年度の活動日数は24日でした。平均的な拘束時間は1回2~3時間ですが、中堅の団員で消防操法大会などの選手に選ばれると、年間の拘束日数は35日~40日にも及びます。
わたしが住んでいる葛飾区では、ベテランの消防団員は、中小企業の経営者や商店主、個人事業主が多いのが特徴です。皆さん地域で仕事をしている方です。商売上は団員であることはプラスに働くことが多いことも事実です。秋田の親戚や友人も、かなりの割合で消防団に属しています。
地元に帰って団員だった人の話を聞いていると、祖父や親の代から消防団員であることもふつうです。全国的に見ても、消防団は地縁・血縁に支えられている組織です。相互扶助ネットワークで、地域の安全がボランディアによって支えられています。
そんな新人団員のわたしでも心配に思うことがあります。人口減少社会と地域ネットワークの解体で消防団の活動が困難になるのではないかという懸念です。社会の構造変化が、消防団組織に及ぼすマイナスの影響を考えてしまいます。
具体的なデータで示します。全国の消防団員数は、戦後すぐの時期(1945年)が最大で200万人でした。現在は、消防団員は80万人を割り込んでいます(75万人、2023年)。これは、新生児の出生数(73万人)と同じくらいの落ち込みになります。東京都では、すでに団員の充足率が70%を切っています。
団員の仕事は、火災で出動するだけではありません。地震発生時の緊急対応や水害時の救護活動も守備範囲です。また、地域の行事(お祭りやイベント)の警備や、年末の町内の見回りなど、地域の安全を見守る巡回警備にも時間が取られます。
わたしのような高齢の消防団員でも役に立てるのは、災害時の出動以外に、地域の行事やイベントの補助要員として活躍する場があるからです。ところが、少子高齢化は消防団の機能を弱める方向に働いています。団員の仕事と地域の活動が分離する傾向にあるからです。
東日本大震災や年初の能登半島地震では、多くの消防団員が災害救助で犠牲になりました。消防団組織が弱体化すれば、災害から地域社会を守る人間がいなくなります。いまのうちに先手を打っておく必要がありますが、活動を担ってくれる若者の数は減っています。頭の痛いところです。
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