【フラワービジネス】坂嵜潮さんのコメンテーター役で、「植物と文化を考える会」の会合へ@すみだ産業会館

 一か月ほど前に、彦根市在住の坂嵜さんから、LINEにメッセージが届いた。「日本すみれ会」の会合で講演を依頼された。ついては、先生にコメンテーターをやっていただけないかとの連絡だった。ふだんから世話になっていることもあり、もちろん即刻、坂嵜さんからの依頼を引き受けることにした。
 

 本日(11月4日)、「HORTUS 植物と文化を考える会」が錦糸町で開催される。時間は、午後13時半から16時ごろまで。第74回が「花と歩んだ道」というタイトルで、講師は坂嵜潮さん。たぶんなのだが、前半を坂嵜さんが話して、後半はわたしとの対談形式になるのだろうと推測している。
 植物が好きな人たち20人から30人。趣味人の会合らしいが、詳しいことはわからない。先週の日曜日に、坂嵜さんが小学校の同窓会があって、その翌朝に対岸(千葉県市川市)からこちらの岸(東京都葛飾区柴又帝釈天)まで歩いてきた。
 ふたりでのんびりとお茶とお菓子などをいただきながら、寅さん記念館の隣にある「山本亭」(葛飾区が運営する庭園のある大正時代の建物)で簡単な打ち合わせをして別れた。きちんとしたシナリオができたわけではない。例によって、良く知った仲だから、坂嵜さんの講演を受けて適当に質問を投げかけてみたいと思っている。

 対論のテーマ は、珍奇植物(ビザールプランツ)の流行の背景などになるのだろう。
 坂嵜さんがサントリー時代にヒットさせた「サフィニア」は、園芸植物(ペチュニア)と南米の野原から拾ってきた野生種(原種)の交配から生まれている。人間が人の手で仕立てた植物(園芸種)に、野生の血を注入した作品である。
 坂嵜さんが2度目に英国チェルシーフラワーショーで、ゴールメダルを獲得した。その紫陽花の交雑種である「ラグランジア・ブライダルシャワー」を作出したときのアイデアも、園芸種と野生種の交配という基本アイデアからのだった。こちらも、中国地方の山の中で出会った紫陽花の野生種と園芸種の交配種である。

 ビザールプランツは、趣味家がインドアで楽しむ植物である。見た目は珍奇であるが、自然の変異から誕生したレアな植物である。新しい現象としては、希少な商品(プランツ)の情報伝達手段(プロモーションツール)がSNSであることだろう。
 小さな市場でも効果的に取引されるのは、①新しい販売経路(ネット)が誕生したことと、②新しい買い手が誕生していることである。植物の特性と形状については、③供給者(生産者)が小規模でも成り立つこと、④インドアで楽しむプランツであることだろう。
 ビザールプランツの流行は、江戸時代の園芸文化やオランダのチューリップの狂乱時代を彷彿とさせる。なぜならば、当時の江戸やアムステルダムでは、それなりの金持ちと趣味家が存在していたからである。
 さらに言えば、当時の園芸文化を底辺で支えていたのは、江戸やオランダの庶民でもあったはずである。噂の流布とそれを見る場所(種苗を交換する場としての縁日もどき、オランダではチューリップ畑)などが、きちんと常設で存在していた。
 
 300年前といまの決定的なちがいは、ネットによる情報流通と厚い中産階級が存在していることだろう。そして、育てる環境が室内であることだ。坂嵜さんと話していて、ある気づきを得た。ビザールプランツの流行は、コミックマーケット(コミケ)が大きくなってきた道筋と似ている気がする。
 一般市民の趣味家の存在と大きなイベント市場。趣味人(コミック好きで自分でも作品を書く)のためのメディア(SNS)と、取引市場(展示場としてのコミケ)が存在すること。そして、その先には、大きな上位市場(漫画雑誌、テレビ番組や映画)がある。場合によっては、プロの漫画家としてデビューできるチャンス(機会)もある。
 ビザールプランツのアウトレットも同様だろう。趣味家が育種のプロになる道(チャンス)も開かれている。その先には、マスマーケットの姿もかいま見える。

 ところで、坂嵜さんのこれまでの仕事との関連性を述べてみたい。
 わたしは、福島県昭和村でカスミ草や草花を栽培している菅家博昭さんの仕事ぶりを見ていて、「野の花産業」が世界を席巻するのではと感じている。つまり、大量に流通する種苗会社が先導する園芸種市場ではなく、小規模生産者が野原(里山)に自生している植物を探してきて、新しい商流を作ってしまう現象をみている。
 この市場はまだ成長途上だが、20年ほど前にわたしは米国のテキサスで、「野の花生産者」の存在に気付いた。切り花鮮度保証の取材で、テキサスA&M大学を取材してときである。南部のスーパーマーケット(HEB)で、野生のひまわりなどの草花類がコーナー展開されているのを見た。
 わたしがインタビューしたのは、アーノスキー夫妻という生産者だった。20世紀が終わるまでに、切り花の大量生産でコロンビアとエクアドルに敗北した彼らが始めた「全米草花協会」(正確な名前は忘れた)は、いまや生産者数が4桁に届こうとしているらしい。
 
 もしかすると、勃興しつつあるビザールプランツ市場は、そのインドア版の亜種かもしれない。
 ここまで書いて、午後の錦糸町「すみだ産業会館」での坂嵜さんとの対論の場で、趣味家のみなさんの前で、このアイデアを示してみようと思う。 

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