【インタビュー記録】「幸福なバトンタッチ」:ハニーズ、江尻英介社長(@東京事務所)

江尻英介社長のインタビュー(1月30日)のメモを公開することにしたい。お忙しい江尻会長と社長のお二人に、わたしがまとめた記録をチェックしていただいた。本来ならば、商業誌に対談形式で発表したいところではある。ハニーズの場合は、上場アパレル企業で事業承継が上手になされている稀なケースかもしれない。その事実を知ってほしいと思い、メモの公開に踏み切った。

 

 実は、インタビューメモを公表することは、いままではほとんどなかったことである。例外は、ローソン本に関連した店頭観察記録と従業員への質問リストである。それでも、ほとんどは簡単なメモ程度であった。以下のインタビュー記録のように、ブログ記事として経営者の肉声を公表するのは、きわめて例外的である。

 わたしのメモは事前にチェックしていただいている。江尻義久会長と英介社長に、心より感謝したい。ハニーズはとても良い会社だと思う。それは、元大学院生の稲垣博保君(ミャンマー工場勤務)が、わたし宛のメールに書いてくれた通りである。

 本日、ミャンマーの稲垣君から届いたメールは、会社愛に溢れた手紙だった。

 

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 小川先生

 

 ご返信が遅くなり申し訳ありません。

 

 メール拝受しております。ブログも拝読いたしました。

 丁度、ブログがアップされた日(2/3)は、私の40歳の誕生日でしたが、

 先週から熱が出てしまい昨日まで寝込んでおりました…

 

 性格が真逆の会長と社長ですが、内部から見ていても非常にスムーズに事業継承されているかと思います。

 社業も順調なため、社内も良い雰囲気で新しいことに取り組めております。

 (とはいえ、会長も最前線で常に目を光らせております。)

 

 今後ともよろしくお願いいたします。

 

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HONEYS GARMENT INDUSTRY LIMITED

HIROYASU INAGAKI

(省略)

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「幸福なバトンタッチ:会社が苦しかったときの事業承継、そしてハニーズの今」

インタビュー:(株)ハニーズ、江尻英介社長

日時:2024年1月30日(午前11時~)

 場所:ハニーズ東京事務所(原宿)、2F会議室

                          

作成者:小川孔輔(法政大学名誉教授)

 

 前日(1月29日)の午前中に急遽、簡単なインタビュー項目を江尻社長にメールしておいた。返信が来て、「明日、楽しみにお待ちしています」とのこと。場所は、副都心線北参道駅から徒歩5分のところにある東京事務所。JR原宿駅からも近い場所である。

 前回にお会いしたのは、8~9年ほど前で同じ場所だったと記憶している。ミャンマー工場に海外営業担当マネージャーとして赴任する稲垣君(法政大学の経営大学院ゼミ生)と一緒だった。

 さて、今回の英介社長とのインタビューは、午前11時少し前から2階会議室で始まった。「今日はどのくらいお時間がいただけます?」とのわたしの問いに、「1時間くらいならば」とのお返事だった。正午まで目いっぱいに質問の時間をいただくことになった。

以下は、事前に送付しておいた項目に、会話の途中で加わった追加質問がプラスされている。そこでは、好調なECの動向などが紹介されている。

 原宿にある東京事務所の外観と1階の商品展示ルームの様子が、小川の個人インスタグラム(https://www.instagram.com/p/C2vbHMiSNP1/?hl=en&img_index=1)で紹介されている。インタビューの様子と、事務所の雰囲気で伝わってくる(参考まで)。

 

 

Q0 江尻義久会長(お父様)の今、社長就任時の状況

 

 創業者の江尻義久会長は、3年前にご子息の英介さんと社長交代した。いまは、週3回出勤(月水木)で、商品会議には必ず出席しているとのこと。経営全般や財務などは、英介社長を信頼して完全に任せてくれている。今年で78歳になるが、昨年の春に、ご自身がライターさんに話した内容を著書として出版している(江尻義久『最旬のファッション、最速の決断、最高の満足』ダイヤモンド社)。

 英介社長の就任時は、前年(2020年5月期)の業績がボトムだった。就任の年が、売上高453億円、経常利益40億円。2018年に中国から完全に撤退して、厳しい経営環境下での社長就任だった。

 就任の少し前(2019年)に、当時専務だった英介さんに、わたしから短いメールを送らせていただいた。「2019年にJCSI(顧客満足度指数)で衣料品業界トップになりましたね。この先2~3年で業績が急回復しますよ!」。英介さん(以下ではファーストネームでお呼びする)は、昨年12月に送ったメール(インタビュー依頼)で、いまでも鮮明に覚えておられた。その後、昨年(2023年)のJCSI調査まで、ハニーズは5年連続CS(顧客満足度)1位を継続している。

 ということで、「本日のインタビューをお願いした次第です」と述べて、インタビューがはじまった。ちなみに、社長就任3年後(2023年5月期)の会社業績は、売上高549億円、経常利益80億円で、過去最高益となっている。その背景と要因を知ることがインタビューの目的だった。

 

 

<Q1>「日経新聞」でも紹介されていましたが、元大学院ゼミ生の稲垣君も担当しているミャンマーの工場の様子を教えてください。差支えがなければ、利益貢献がどのくらいなのか。

 

 2023年12月から第3工場が稼働開始している。秋には現地の従業員が、4300人から5600人に増える予定。これにより自社工場を含むミャンマー全体での生産量は50%になる見込み(以前は約45%)。委託先の協力工場と自社工場では、利益率(原価率)で数%の差が出る。利益率向上の一要因とのこと。

 自社工場での生産比率が高まったことが、①供給の安定性、②品質の向上、③低価格の提供に貢献している。ただし、縫製用の生地は中国から調達しているので、為替変動(円安、ドル決済)が課題ではある。

 (小川からの質問)「元安なのだから、ドル為替と帳消しになるのでは?」

 (英介さんからの答え)「自社工場の工賃、協力工場の仕入価格はドル決済であり、また2023年11月までは為替予約があったが、これからは予約が無くなるので、この先は厳しくなりそうだ」

 

 

Q2 JCSIの調査で、この数年間で「CS一位」が継続しています。調査結果で明らかになっていることは、①リーズナブルな価格、②適切な立地、③プロモーション(ECも含む)などが要因だと思っていますが、江尻さんの見解はいかがでしょうか?

 

 組織的な変化要因は、最後に説明する。①(上述)と②は特に説明するまでもない。

 

1「ECの貢献」

 業績のアップに関しては、ECの効果が大きい。全体の売上の中で、ECの占める分は、10.8%(店舗受取分を含む数値)。ECの売上では、自社サイトの比率が高くなる(55~60%)。この辺は、かなり詳しく説明していただいた。

 ① ECの中で、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store、店舗受け取り)の比率が高いのは、通常4000円未満の購入だとかかる配送料負担(430円)が掛からないからである。基本的に、店頭受け取りの場合は、店舗で注文した商品が試着でき、その場で注文のキャンセルも可能である。店舗決済なので、売上が店舗に帰属する(インセンティブ付与は、ECと店舗の2重計上)。そのため、デベロッパーさんに喜ばれる(売上がかさ上げされ、賃料に反映されるから)。

 ② 店舗での買い増しで、売上増に貢献できる。たとえば、5アイテムのEC受注が店舗では2アイテムの買い増しになる。キャンセル(削り分)は平均1アイテムなので、店舗受け取りでは、ざっくり+1アイテム(客単価では20%アップになる)。

 ③ 店舗受け取りは、EC全体の中で30~40%。BOPISの利用が多い店舗は、立地としては、都心のベッドタウン、例えば、ターミナル駅のある溝の口や川崎など。客単価は、BOPISで2500円~3000円、自宅直送は5500円~6000円。

 ④ 物流コスト面で言えば、店舗受け取りは明らかなメリットがある。なぜなら、物流センターから店舗に送る箱の空きスペースに、ECで受注した商品を詰めるだけで、追加の物流コストはごくわずかだからである。

 

2 JCSI調査でCSナンバーワンになった後の変化とその後の努力。

 ① 2018年から2019年にかけて、ミャンマーの工場のオペレーションが安定してきた。自社工場で生産していることのメリット(コストパフォーマンスの向上)と、店舗運営に関しては新たにテコ入れを始めている。

 ② 2021年ごろ、OM(オペレーション・マネージャー)が商品評価に参画。

  全国19エリアで地域部門長が集まり、「売り場リフレッシュ」(プロジェクト)を開始。

 *「売り場リフレッシュ」とは、業績不振店のてこ入れ策。地域担当のSVを集めて、

  丸一日をかけて、売り場の商品やレイアウトなどを入れ替えてしまう作業。

 *業績不振店の定義:絶対的な基準ではなくて、同じショッピングモールに入店している

  競合チェーン店(アダストリア、パレモ、ストライプ)などと比較で決める。

 ③ 既存店の業績が、全体として底上げされるようになった?(小川)。

  CSの継続的な改善の一つの大きな要因なのだろう(小川)

 

 

Q3 次世代を担う社長として、新しい将来構想(案)などはお持ちですか?

 

・2021年8月に父親と社長交代したので、専務時代にやれなかったことに着手。

 組織運営のスタイル:「トップダウン」(父)から「ボトムアップ」(自分)へ

 ~ 父親の時代は、社員が指示待ちになってしまっていた。

 社員が自発的に発言したり、新しい提案をする雰囲気があまりなかった。

・社員への権限移譲を進める

 具体的には、中期経営計画(2022年)を策定するため、プロジェクトチームを発足。

 4つのXチームを編成(各チーム、7~8人;女子比率50%;20代~40代中心)

 「東京」「大阪」「いわき」を結んで、リモート会議で推進(公募制でメンバーを募集)

 

 ① CXチーム(カスタマーエクスペリエンス、顧客理解)

 ② EXチーム(エンプロイ・エクスペリエンス、従業員の意識変革)

 ③ DXチーム(デジタル・トランスフォーメーション、デジタル化)

 ④ S Xチーム(サステナブル・トランスフォーメーション、環境対応)

 ⑤ 新業態の開発チーム

 

・前段として、部長クラス15名で新規中期経営計画の策定

・ここから、新業態/ブランド(グラシアルッソ)が誕生

  ターゲットは、大人の女性(従来は、ティーンズ・主婦)

 出店場所は、駅ビル/ファッションビル(従来は、郊外のショッピングモール)

 

 

<総括> 

・英介社長就任からの数年の動きを見ると、親子間での事業承継がうまくいっていること。そのことは、江尻会長の書籍にも詳しく述べられている。

・バトンを渡した会長の功績としては、

 ① 早期に祖業の帽子屋から、若い女性向けのファッション小売業に舵を切ったこと。地方の郊外モールの成長発展を予見していたこと。

 ② 流行の先端を行く原宿に事務所を構えて、ファッションフォロワー向けに商品を開発したこと。ファッション衣料品でリスクの小さなビジネスモデルを発見したこと。

 ③ SPA(製造小売業)の仕組みと物流ネットワークを構築できたこと。中国市場からの撤退のスピードが迅速で、生産拠点をチャイナ+ワンとして、ミャンマーを選んだこと。

・バトンを受けた英介社長の経営方針としては、

 ① 社員のモチベーション向上を考慮しながら、父親のトップダウンの経営スタイルから、社員の自主性と経営への参画を取り入れた、ボトムアップ型の社風に変えていく決断をしたこと。

 ② ECへの注力と、父親が敷いてくれた「リーズナブルな価格」で「高品質なファッション衣料品の提供」という道を確実に踏襲していること。

 ③ 若手社員のプロジェクトから生まれた新ブランドに注力する。これは、従来からハニーズが提供してきた商品と価値の提供を超えていく可能性がある。

 ④ 中国市場からは完全に撤退したが、いつの日にか、海外市場に再挑戦することを諦めてはいない。社員の夢と希望を海外に求めるのは、若い経営者の使命でもある。

 

 以上、社長インタビューからの感想でした。