【ローソン本】取材メモ#7:冷凍おにぎりの製造現場(グルメデリカ@群馬)から

 ローソン本の取材が山場を迎えている。8月31日に、関東圏の店舗に米飯類を供給している「グルメデリカ群馬工場」を視察した。弁当・おにぎり・寿司を供給している主力工場は、群馬県伊勢崎市にある。群馬工場までは、東北新幹線を高崎駅で降りて両毛線に乗り継ぐ。伊勢崎駅からはタクシーを利用したが、工場まではずいぶん遠かった。

 

 工場を訪問することになった伏線は、8月22日午後に、大崎のローソン本社ビルで「冷凍おにぎり導入」の説明会があったことである。今回は、冷凍おにぎりが実際に作られている工場を取材することになった。22日の説明会では、「物流の効率化」を前面に押し出していた。しかし、わたしの理解は、今回の冷凍おにぎりの取り組みの本質は、日本人の食生活に対する提案(即食性のある冷凍食品の提供と日常使用)が主たるテーマだと感じた。

 SDGsを標榜する企業として、昨秋から新業態の「グリーンローソン」での実験がはじまっている。北大塚の実験店では、店舗運営の効率化とフードロスの削減に挑戦している。システム面では、リモート接客のためにアバターを採用したり、弁当・総菜売り場の棚にドアを設置して、店舗の省エネに取り組んでいる。冷凍おにぎりは、グリーンローソンで最初に手掛けていた「冷凍弁当」のおにぎり版である。

 冷凍弁当の導入では、店舗購入後にすぐには食べられない(購入者の行動)という「即食性の壁」を打ち破ることがむずかしかった。この結果の代案として出たのが、冷凍おにぎりである。冷凍おにぎりを取り扱うことで、常温のおにぎりからスイッチが起こるかもしれない。そうなれば、フードロスが大幅に削減でき、物流面で導入が決まっている「米飯類の一日2便」にも対応できる。

 そのための有力な道具が、冷凍おにぎりだった。群馬工場の取材は、その確認のためと、現場で実際に起こっている課題を抽出することだった。今回は、説明会のプレゼンターだった涌井副本部長の部下の方も、工場の視察と取材に同行していただいた。

 

 わたしから事前に、製造部門の担当者に送ってもらっていた質問項目は、以下の4点だった。

1 工場の基礎的な情報
 製造商品、事業規模、資本関係、工夫していること、製造面での特徴など
2 ベンダー側として、ローソンのチャレンジをどう見ているか?
 冷凍おにぎり・弁当、フードロス、SDGs対応など
3 冷凍おにぎりの評価
 現状の課題、ポジティブな評価点、その他の商品ラインの展開(パン、弁当、スイーツなど)
4 その他

 

 たくさんの方が、群馬工場を案内してくださった。主として、弁当・おにぎりの製造ラインの説明と、わたしの質問に対して答えてくださったのは、グルメデリカ群馬工場長と、本社の取締役(新規事業担当)だった。以下は、わたしの取材メモである。(工場内では衛生管理のため、簡易なメモしかとれなかった。記憶をたどってのメモによる。)

1 製造工場(群馬工場)の基礎情報

 広報部からいただいた事前資料は、2019年時点のものだった。現地を訪問してみると、直近で株式会社グルメデリカ(本社)は、資本構成と組織形態が変わっていた。本題ではないので詳細は省くが、群馬工場は所沢本社の傘下にある工場のひとつで、組織再編後は、北関東圏と首都圏東部の店舗に、弁当・おにぎり・寿司類を供給している最大のベンダーである。
  ベンダーは、物流効率や製造面での省力化・パートタイマーの確保に苦労しているようだ。しかし、冷凍おにぎりをはじめとするコンビニ商品の冷凍化の狙いは、労働力不足を解消するためだけではない。新しい市場創出の切り札になるとも考えている。新たな市場の開拓にチャレンジするため、ローソンのベンダーは体力強化のために組織再編を行っている。

 

2 ベンダー側からの冷凍おにぎりへの評価
 「ローソンの取り組みについて、ベンダー側の評価」とインタビューの質問項目には書いてあった。工場長と取締役が強調したことが印象的だった。「冷凍おにぎりのプロジェクトに挑戦しているのは、ローソン本社だけではない」という反応だった。
 ローソン本部からのリクエストに応えて、グルメデリカが冷凍おにぎりを作っているというスタンスではない。つまりは、「ベンダーとしてローソンと一緒に冷凍おにぎりプロジェクトに参画している」という心構えだった。
 経営の刷新とコスト削減に取り組んでいるのは、両者(ローソン本社とグルメデリカ・群馬工場)が運命共同体なのだという立場だった。これには、わたしもちょっと驚いた。グルメデリカとしても、言われたまま、唯々諾々とプロジェクトに取り組んでいるのではなかった。だから、わたしたちの訪問についても、所沢本社から新規事業担当の取締役が同行してくださっていたのだった。

 

3 冷凍おにぎりに対する評価(製造面)
 現状の課題について、最初に現場を見せていただいた。実験店舗(東京11店、福島10店)での販売についての問題(後述)を除くと、冷凍おにぎりの最大の課題は、急速冷凍にかかる時間と物量をさばくための工場のキャパシティだった。

 工場長が、わたしたちを最初に連れていってくれたのは、急速冷凍装置のエリアだった。製造ラインで成型が終わったおにぎりは、包装が終わった状態で冷凍装置がある場所に運ばれてくる。本格導入前の3か月間は、実験販売のための助走期間である。そのため、専用ラインを設けることはしていない。
  実験店舗が21店あるので、予想以上に売れている現状では、売れ行きに対して供給量が不足している。ボトルネックは、冷凍装置のキャパシティである。供給不足への対応は、急速冷凍のスピードを上げるか、冷凍食品の会社が採用しているように、そのための専用ラインを設けるしかない。後者のアプローチを採用するとなると、成型~凍結~包装~梱包の一貫製造ラインを工場内に作ることになる。

 

4 冷凍おにぎりに対する評価(販売面)
 冷凍おにぎりに対するポジティブな評価としては、フードロス削減と物流の効率が高まることが挙げられる。しかし、販売面でのチャレンジは、冷凍おにぎりを即時に食べる習慣が、現状ではごくふつうに存在しないことである。消費者が冷凍状態で購入したおにぎりを解凍して食べることを習慣化しなければならない。

 これには、二つの考え方があるようだった。ニチレイやニッスイ、味の素などの冷凍食品メーカーが採用しているアプローチである。家庭の冷蔵庫で冷凍保存するため、コンビニでも冷凍おにぎりを販売する。しかし、このアプローチには限界がある。スーパーでの販売のほうが価格的に有利になる。供給面でも、スーパーでは大量に店頭で保存できる。
 コンビニで冷凍おにぎりを購入する動機は、スーパーでの販売とは異なるはずである。消費者は購入してすぐに食べるから、コンビニを利用するのである。福島県や北海道のコンビニでは、常温のおにぎりを購入すると、店員さんから「おにぎり温めますか?」と聞かれるそうだ。

 これからは、レジカウンターで、「おにぎり解凍しますか?」が「おにぎり温めますか?」の意味に変わることになる。そのように動機付けるためには、「店頭調理の概念」(解凍処理は調理に当たらず)を変える必要がある。現状では、「店員さんが冷凍おにぎりを解凍することは、調理行為に当たる」らしい。思わぬところに「壁」があった。

 

5 その他(商品ラインの拡張)
 米飯カテゴリー以外で、その他の商品ラインへ、冷凍食品の取り扱いを拡大する可能性について質問してみた。調理パンやスイーツなどが候補にすでに挙がっている。理屈の上では可能なのだそうだ。冷凍食品をコンビニで取り扱うことが日常的になれば、コンビニの社会的な役割が変わることもありうるだろう。

 米飯・おにぎりの工場で感じた課題を最後に述べてみたい。4年前に、ローソンのベンダーでもある「日本クッカリー」の伊丹工場を視察した。おにぎりや弁当の製造ラインを見学させてもらった。当時と比べると、今回の製造ラインは緩やかに自動化が進んでいた。しかし、弁当やおにぎりの製造ラインの自動化は、想像していたより緩やかなものだった。
 例えば、弁当の製造ライン(ご飯の投入~封入まで)は、手作業がそれほど減っていなかった。弁当のひとつのラインには、14人のパート作業員がいた。それが、いまは10人にまで減っている。そうなのだが、たとえば、グルメデリカの群馬工場でも、 ブラジル人を始めとして多くの外国人従業員が働いている。
 人手不足は深刻で、近隣から作業員を集めることが困難になってきている。製造ラインのさらなる自動化やロボットの投入は、喫緊の課題でもある。冷凍おにぎりのラインを視察に来て、そこでもっとも印象的な実態は、コスト面を含めて人手不足がここまで深刻だということを知ったことだった。