昨日、こんなことがありました。わたしたちのチーム「わさびカンパニー設立プロジェクト」が取り組んでいる「糸魚川のわさび」に関連したことです。岐阜大学の山根京子先生(わさびの研究者)に、あることを思いついて、LINEからメールしました。そのメールを、プロジェクトのチームメンバーと情報共有しています。
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こんにちは。山根先生。小川です。質問です。長くなります。
昨日、SKフロンティアさん(糸魚川の温室わさび生産者)から頂いたメールに、「新潟の業者さんが姫川水系に、わさびの温室を建てるための土地を探した」という連絡がありました。このところ、複数の業者さんや農業者がわさびの栽培に興味を示すようになっています。
ところで、姫川水系(*)を調べたところ、水源が安曇野の近くで、元々は青木湖が姫川の源流だったようです。さらに、人間がほとんど入り込んでいないからなのか、国土交通省の調べでは、姫川は日本一水が綺麗な川であることが知られています。
(*)姫川水系:長野県白馬村にある一級河川・姫川の源流が、姫川源流自然探勝園。過去には水質ランキング日本一にも輝く一級河川・姫川。国道近くに一級河川の源流、中央分水嶺(日本海と太平洋の分水嶺)が位置する貴重な場所で、源流部は姫川源流湧水として環境省の名水百選にも選定されています。ドウカク山から湧き出す水が姫川の源流となっています。
また、糸魚川が中央構造線(フォッサマグナの西端)の最北口であることはよく知られています。それに対して、構造線の南端は、伊豆半島に向かって延びています。山根先生の専門分野かと思いますが、地質学研究者の論文を読むと、「南の海からの植物群がフォッサマグマ=深い地溝に流れ込んだ」と言われています。
そこで、質問です。糸魚川(新潟県)、安曇野(長野県)、中伊豆(静岡県)と、この3地点は、今や本わさびの主産地を形成しています。糸魚川は、今までは雪のために産地になり得なかったのですが、近年は状況が変わりつつあります。
ポイントは、ミネラル分豊富な水と土壌、そしてこの地域の植物層ではないかと素人ながら考えました。
「フォッサマグナ仮説」(糸魚川静岡構造線上にわさびの大産地が並ぶ)は、先生のフィールドワーカーとしての知見と一致していますか?糸魚川や富山がわさびの産地になる可能性は、遠い昔に日本列島が大陸から切り離された2000万年前に遡る地殻変動に関係があるのではないでしょうか?
長々と失礼しました。小川より
追伸、
なお、フォッサマグナの形成は、大陸から日本列島が切り離された約2000万年前です。わさびが日本の固有種であることは、山根先生の研究から明らかになっています(山根京子『わさびの日本史』文一総合出版、2020年:P.6-9)。つまり、その後にわさびが種として誕生したとすると、糸魚川静岡構造線の植物学的な特性と地質学的な基礎との関係が綺麗に説明できるように思いました。
フォッサマグナができて、大陸から日本列島が切り離された後で、本わさびの原種が日本で生まれた(山根:日本わさびは約100万年前に誕生した「日本海要素植物」、P.9)。そして、深い谷間の隆起とミネラル分豊富な土壌がワサビを育んだ。ストーリーとサイエンスの根拠が万全です。
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この手紙を昨日、花や植物、食ビジネスを専門にしている人たちにも送信したところ、仮説のおもしろさを評価してくれる人が多数だった。
山根先生は、DNA解析をもとに日本わさびの起源について、学会発表などをしている。遺伝子の分析は終わっているが、植物の生育条件(水や温度)や栽培条件(土壌要素)については、現在も研究を継続している段階らしかった。わが仮説などは、「データで示さないと、海外のメディアはきびしい」とのコメントを返信していただいた。
それにしても、本わさびの起源を巡る旅は、わくわくするほどの興奮を与えてくれる。米国やイギリス、オーストラリア(タスマニア)、ポーランド、スペインでわさびは栽培されている。しかし、先日、スペインからの来訪者が嘆いていたように、糸魚川のSKさんの温室のようには、海外産のわさびが大きく育たないのは、わたしが指摘した栽培条件(土壌成分とミネラル分のインプット)の不足によるものではないかと想像している。
このストーリーは、わさびが海底からやってきた「海洋性植物由来」であることなどが示唆的である。わさびの強烈な抗菌力(腐らない)やミネラル分が豊富なきれいな水を好むことなど、栽培環境を考える上で、わたしたちの想像力を掻き立てる要素満載である。