7月14日の個人ブログで、「人工と自然、野菜の栽培はどちらに向かうのか?」というテーマを取り上げた。野菜と花きは、可食性の違いだけで姉妹の植物である。農家を承継した花の生産者は、ご両親が野菜やコメを生産している場合が多い。
いまさらのテーマで書いたきっかけは、『日経ビジネス』(7月5日号)の誌面で、2人の友人の写真を見かけたからだった。インタビューされていたのは、法政大学の平石郁生講師(経営大学院の同僚)と、有機農産物宅配会社「坂ノ途中」を経営している小野邦彦社長(本社:京都市)である。平石さんは、スーパーに野菜の栽培ユニットを設置して、葉物野菜などを販売している会社「インファーム(日本法人)」の代表者である。人工的な環境(植物工場)で野菜を栽培して、データで緻密に生産管理をしている。
それに対して、小野さんは新規就農者が作った有機野菜を宅配でネット販売している。扱っている野菜の特徴は、不揃いなことである。収穫時期も一定していない。収穫のタイミングも自然に任せている。小野さんのビジネスは、近代的な生産マネジメントや品質管理を無視している。しかし、マーケティング的には、品質が一定せずに“ブレること”を売りにしている。規格外品の野菜の味や色の変化を、消費者に楽しんでもらうことを訴求している。
平石さんがドイツから持ち込んだビジネスは、それとは対照的である。彼はドイツの農業ベンチャー(Infarm)の急成長ぶりを見て、日本で法人を設立した。事業コンセプトは、「Urban Indoor Farm」(都市型室内農場)である。サミットストアや紀ノ国屋など、都内のスーパーに野菜の生育が見られる「栽培ユニット」を設置する。コンビニのリーチインクーラーのような什器の中で栽培された野菜を、鮮度感のある根つきの状態で販売する。
消費地(店内)で栽培するので、物流費はほとんどかからない。水や液肥は循環式なので、通常農法に比べてコスト節約ができる。農薬も使用していない。野菜の生育はデータ分析され、収穫された野菜はほぼ均質にできあがる。販売のタイミングもスケジュール管理されている。
両社は全く逆のタイプの会社である。その中間に、大量生産の慣行栽培の野菜がある。キャベツやレタスの高原野菜などが代表的である。高原から出荷される野菜の品質は、天候と土壌と降水量に影響される。しかし、野菜は均質で低コストで単品大量生産になる。
さて、未来の花の栽培は、3つの事例のどこに落ちるのだろうか?花の美しさのブレや変化を楽しんでもらうのか(坂ノ途中方式)。低コスト・大量生産で均質な花の栽培が継続するのか(高原野菜方式)。それとも、人工的な環境下で植物を分散して作るのか(都市型室内農場)。
野菜も花も、ほんの50年前までは、ローカル生産・ローカル消費の作物だった。それがいつしか、国内で輸送園芸が発達して、いまやグローバルな調達が当たり前になっている。しかし、世界は省資源・環境負荷低減(SDGs)の方向に向かっている。熱帯高地で大量生産され品質が安定した規格品を輸入することがいつまでも許されるものだろうか?その解決方法として、花の場合でも、両極端にある坂ノ途中の地産地消方式(先祖返り)や、インファームの室内栽培が選択されることがあるかもしれない。未来の花の栽培は、二つの方式(自然か人工か)のどちらに向かうのだろうか?