【新刊紹介】神山泉・フードビス編集部(2020)『外食はやっぱり楽しい:先人たち13人の言葉』FB出版

 外食産業の巨人たち13人のインタビュー記事。読んでいる途中で気が付いたのだが、各氏の登場が年齢順になっている!めずらしい編集方針。トップバッターが、がんこフードサービス創業者の小嶋淳司会長で昭和10年(1935年)。しんがりが、ワタミ会長の渡邊美樹氏で昭和34年(1959年)の生まれだった。

 

 インタビュー相手は、わたしが人となりを知っている経営者の方が多い。代表的な4人をあげると、大河原毅さん(KFC元社長)、正垣泰彦さん(サイゼリヤ会長)、小林佳雄さん(物語コーポレーション取締役特別顧問)、渡邊美樹さん(ワタミ会長)。

 驚くべきことに、渡邊さんを例外として、12人は全員がわたし(昭和26年生まれ)より年齢が上であった。本書に登場する外食の雄たちは、すでに巧なり名を遂げた偉人たちだということである。換言すると、全員が>60歳の「お年寄り」である。ここに、日本の外食産業の問題が潜んでいると、わたしは感じとってしまった。

 1970年代に、マクドナルドやデニーズの米国からの事業移転で、日本の外食産業の勃興期がはじまった。しかし、半世紀を過ぎたところで、日本の外食産業では、近年は目覚ましいイノベーションが起こっていない。若い担い手が活躍できるような、大きな市場機会に恵まれていないのかもしれない。

 そこを問題視していないのが、本書の欠点になっている。新しい息吹を感じさせる経営者が登場していないことが問題だと思うが、40代~50代の経営者がまったくいないわけではない。何人かは取り上げて欲しかった。たとえば、トランジット・ジェネラルの中村社長とか。

  

 インタビュアーで編集者の神山泉主幹(フードビズ)が書いた「まえがき」で、本書の特徴が述べられている。いわく、外食の産業化を推進した3つのキーワード(成長推進要因)は、「チェーン(展開)」「価格破壊(コストパフォーマンス)」「郊外ロードサイド(立地)」である。

 13人の経営者は、少なくとも3つのうち二つを取りいれて、自身のビジネスを構築してきた。1970年代に誕生したビジネスモデルを、1980年代のバブル期に伸ばしていった。バブル崩壊後(1990年~)は、郊外出店で成功パターンを生み出した。ところが、2000年以降の進展は、どの会社も業績があまりに芳しくない。唯一の例外が、物語コーポレーションである。

 小林佳雄氏の外食ビジネスが、他社とちがているのは、(単一業態の)レギュラーチェーン展開、価格破壊、郊外出店の枠組みから少し外れているからである。他社にない特徴をひとつだけ挙げるとすると、「業態進化(業態改善力)」が基本にある。そのために、人材育成と情報システムの構築に多額の投資をしている。

 

 本書の随所で、チェーンストア経営の指南役だった渥美俊一先生(日本リテイリングセンター)の影響力の大きさを再認識することになった。おもしろかったのは、功罪の功の部分だけでなく、罪の部分を指摘する経営者がたくさんいたことである。

 コストパフォーマンス(価格破壊)に関していえば、吉野家の経営破綻(1980年)の原因は、渥美先生の「トレードオフ理論」だったと述懐している(阿部修仁、吉野家HDGS会長、P.236)。品質を多少落としても、圧倒的に価格が安ければ消費者は支持してくれる(渥美先生)。トレードオフ理論通りにやって成功をつかんだのが、サイゼリヤの正垣会長だった。正解はない。ケースバイケースなのだろう。

 「日本で成功するものは、すべて米国にある」(渥美先生)。過度な米国モデル崇拝も、渥美先生の罪の部分かもしれない。日本流にアレンジすることで成功したことを、日本マクドナルド創業者の藤田田氏の下で現場指揮をとって岩下善夫(てんや創業者)が証明している。 

 そういえば、渥美先生の青山での葬儀に参列することがあった。正垣さん(サイゼリヤ会長)や新井田傳さん(幸楽苑、創業者)が隣の席に座っていた。お二人は、渥美先生の言うとおりにチェーン化を進めた代表選手である。

 

 本書は、1970年~2010年の40年間で、日本の外食産業を形作った経営者たちの遺言なのかもしれない。外食産業はいまだに低い労働生産性に苦しんでいる。そして、フランチャイズ経営にも問題を感じている経営者のなんと多いことか。