「店舗小売業受難の時代:タップ&レンタルが突破口に」『DIY協会会報』(2018年新春号)

 少し前、今年1月に標記のような論考を書いた。半年に一度、依頼されて書いているDIY協会の会員向けのシリーズ原稿である。知り合いの田中亮介さんに、法政大学(JFMAセミナー)で講演していただいた。彼はGreenSnapという「植物愛好家のSNS」を運営している若手起業家である。

 

 わたしは、あまり熱心とは言えないが、GreenSnapのユーザーである。植物が好きな人にはたまらない、楽しい交流サイトの一バージョンである。

 この会社は、友人たちも含めて、同僚や仕事仲間をニックネームで呼んでいる。「アンジェラ(アキ?)」の異名をもつ田中亮介さんの事業パートナーは、代表取締役の西田貴一さん。話してみるとわかるが、彼らはなかなかの名コンビである。

 同社(GreenSnap)からは、この3月に、SNSから投稿写真を編集した書籍が発売された。これは、シリーズの第二弾になる。第一弾は、田中さんご本人から手渡していただいた。眺めて見るだけでも楽しい。植物の写真集である。

 

 田中さんからのメールには、「ユーザーのアイデアを、レシピ化し、書籍としてまとめたものになります」とあった。
 >> ニュースリリースはコチラ <<
 https://greensnap.jp/news/release/press0042
 \amazonで予約受付中/
 https://www.amazon.co.jp/gp/product/4074288672/

 是非ご予約をお願い申し上げます。

 

 わたしの書いたオリジナル原稿は、こちらになる。

 DIY協会から実際に刊行された原稿は、中身がすこしだけ違っているかもしれない。ここでは、わたしが12月の初旬に、協会の提出した原稿(V2)をアップしておく。

 

 
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「店舗小売業受難の時代:タップ&レンタルが突破口に」『DIY協会会報』2018年新年号
 文・小川孔輔(法政大学大学院) V2:20171206

 

 店舗小売業にとって、若者相手の商売が相当に難しくなってきている。ホームセンターだけではなく、衣料品専門店や食品スーパーでも同じことが起こっている。若者の利用者が中心だったコンビニでさえ、「近くて便利」だけでは消費者の財布を開かせることは容易ではない。困難に拍車をかけているのが、若い人たちの間での情報入手先がスマホに傾斜していることである。
 かつてネット黎明期に、消費者の購買行動は「クリック&モルタル」(マウスで検索、ネットストアで購入)と象徴的に呼ばれたが、いまや商品の選択にあたっては「タップ&レンタル」(スマホで検索、ネットでシェア)の時代である。筆者の学部ゼミは、20歳前後で男女比率がほぼ半々である。彼らにたずねると、中古の衣料品を買うことに対して約8割は抵抗感がない。メルカリなどのECサイトを頻繁にチェックすることが習慣化しているからである。自身が中古品の販売者になるなど、日常的に気軽に商品の売買に参加している。

 

 彼らはブックオフの世代である。フリマなどで中古慣れをしているので、転売にも抵抗感がない。中古品の値段はメーカー希望価格の10分の一程度である。しばしば掘り出し物に出会う楽しみもある。彼らの値ごろ感が、中途半端なブランド神話を破壊してしまったといえる。アパレルブランド凋落の背後にあるのが、こうしたショッピング行動とブランドに対する価値観の変化である、
いま起こっている事態を整理してみよう。変化の根底ある要因は、

 ①「購買=所有」が前提にならないこと。つまり衣料品や耐久財などについては、モノは買わずにレンタルするか、シェアサービスを利用する。それに加えて、

 ②C2Cマーケットの登場でブランドの心理的価値が変わってしまったことである。マーケティングの教科書で示してきた旧タイプの消費者行動は、いまや死んだも同然である。

 

 ミレニアム世代の特徴は、情報収集と実購買(レンタル/シェア)のタイミングが逆転していることである。われわれ世代は、購買に至るまでのプロセスは、「AIDMAモデル」でほぼきれいに説明できた。店舗や広告などで新商品を発見して(Awareness)、興味(Interest)を抱いてほしくなる(Desire)。そして、記憶に強烈に残っている商品(Memory)を店頭で探し出して購買する(Action)。
 情報収集ツールであり購買の道具でもあるスマートファンの登場は、店舗での商品との出会いの意味を根本的に変えてしまった。偶然であれ意図的であれ、情報収集が先にあって商品との出会いは検索の後に来る。ということは、店舗小売業にとっては、消費者の行動・記憶動線か検索プロセスのどこかに楔(くさび)を打ち込むことが必要になる。その場合の消費者対策は二通りになる。

 

 ひとつのやり方は、店舗小売業が主体になって、消費者の「検索動線」に罠(トラップ)を仕掛けることである。たとえば、ホームセンターであれば、園芸や日曜大工などホビーの領域で集客をするために、共通の趣味を持った人が集まるコミュニティサイトを運営するかことである。場合によっては、そうしたサイトとの提携を考慮するもありえるだろう(図表、GreenSnapのサービス)。

 二番目は、DIY(日曜大工)や家庭園芸(園芸用品)や料理(家庭用品)などの分野では店頭を体験型に変えてしまうことである。その際には、売り場をスマホと情報的に連動することが必須になる。つまり、趣味のための道具の使い方や材料の適切な使用方法を教育する指南書のような形で、リアルタイムでネットに接続できるように準備することが必須である。そのときのお手本として参考になるのが、クックパッドや動画料理サイトのDELISH KITCHEN (図表中の*)などである。

 図表は、12月2日に発表された「Google Play」 の人気コンテンツである。「ベスト オブ 2017」(アプリ部門を抜粋)では TOP5 が紹介されている。いまホームセンターで活躍している30代~40代のバイヤーにとって、これから消費の主役に躍り出るミレニアム世代にどう商品を売り込むかは頭痛の種といえよう。しかし、スマホ時代の新しいMDにチャレンジしてみる価値はあるように思う。

図表 Google Play 「ベスト オブ 2017」日本版

 

<アプリ部門> 各カテゴリーで「トップ5」にノミネートされたサービス
・エンターテイメント部門
 AWA、 バーチャル高校野球、AbemaTV、C CHANNEL、minto
・ソーシャル部門
HiNative、Strava GPS、*GreenSnap、ディズニー マイリトルドール、みんチャレ
・デイリーヘルパー部門
トクバイ、クラシル、*DELISH KITCHEN、IQON [ アイコン ]、LIFULL HOMES
・イノベーティブ部門
全国タクシー、*メルカリ、Ascape VR、Wantedly People、Google 翻訳

 

注:*マークは、文中で引用されているスマホアプリのサービス