夏に掲載されていた原稿をブログに収録するのを忘れていた。四か月遅れてアップする。いまDIY協会から依頼されている原稿(2018年新春号)が、本日締め切りになっている。佐竹伯父の告別式が終わってから、「タップ&レンタルの時代」というテーマで書く予定になっている。
「HCとECのシナジーを考える:アマゾンがホールフーズを買収したことの意味」
『DIY協会会報』(2017年7月号)
文・小川孔輔(法政大学経営大学院)
アマゾンが、ホールフーズを買収すると発表した(6月16日未明)。EC最大手のアマゾンが、本格的に食品小売業に参入することになるが、実店舗を持つことの意味はやや不明である。買収の経営的なシナジーには疑問符がついている。各誌の論評も、実店舗小売業を買収する意図を図りかねている。
例えば、もっと早くニュースリリースを出している『ブルームバーグ(Bloomberg)』によると、「ウェドブッシュ・セキュリティーズのアナリスト、マイケル・パクター氏は、アマゾンにとって今回の買収は食品の配送網取得といった意味合いが強いと分析。アマゾンはここ何年も食品配送事業への参入を試みてきたが、他の分野ほど成功していない」
(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-06-16/ORN6SK6JIJUP01)
など。自社の配送網を確保するのに、自然食品系のホールフーズを必要とするとは思えない。たぶんこの説明はまちがっているだろう。
同じ小売業とはいっても、アマゾンは伸び盛りのIT企業である。ビッグデータやAIを駆使したハイテク経営に優位性を持っている。実店舗(コンビニエンスストア)での商品販売を「自動化する技術」(Amazon GO!)などを開発して、世間をあっと言わせた。他方では、アマゾンは巨大な物流会社という側面も併せ持っている。一方のホールフーズは、自然食品スーパーマーケットの草分け的な存在で、ワイルドオーツなどの自然食品系チェーンを統合しながら成長をしてきた。ただし、売上高一兆円を超えた2010年ごろから、成長性と収益性に陰りが見えてきている。近年になって、とくに得意とするナチュラル&オーガニック市場は、コストコやクローガー、ウォルマートのような伝統的な小売業に急速に浸食されつつある。
真実は、米国流の株主資本家(アクティビスト)の論理がホールフーズにプレッシャーをかけた。その出口として、売却先がアマゾンに落ち着いたというのが正しい答えのようだ。とはいえ、多額の資金を投じて買収を決断したアマゾンの立場からいえば、「ホールフーズの顧客とその購買データ」がもっとも資産的には価値があるように思う。米国の最富裕層の買い物データ(しかも、顧客シェアが高い食料品とデリカ、サプリメントなどを含む)が、ECマーケティングに利用可能になるからである。また、富裕層をターゲットしている実店舗は、将来性があると言われる自然食材料のテスト市場としても利用価値が高い。もともと、アマゾンはデータ活用企業である。食品の販売実験場を握ることで、テストマーケティングを試みてくるのではないだろうか。
この買収劇がHC産業に与える意味を考えてみよう。米国のHC市場を見てみると、アマゾンのようなEC企業が、大手二社(ホームデポとロウズ)に関心を示すとは思えない。買収対象としては時価総額が大きすぎる。しかし、ターゲットを絞って品揃えをしている中堅のHC企業などは買収の標的になりうるだろう。たとえば、新規に上場したばかりのFloor&Décorのような新興企業は、テストマーケティングの実験場としても価値が高い。床材などに特化しているので、アマゾンにとっては物流上のシナジーがあると思われる。
日本への波及はあるだろうか?食品小売市場と比較して、いまだEC化率が低いHC業界では、アマゾンや楽天のようなEC大手による国内HCの買収はないだろうと予測できる。しかし、その逆はありそうな予感がする。先日、カインズと大都の業務提携が発表された。