魚屋さんの本を読んだ。読み終えてから、あとがき(おわりに)に目を通したら、友人の石川純一さんの名前を見つけた。現在、ダイヤモンド・リテイルメディアの社長さんである。本書は、石川さんが社長に就任する前に、編集者として手がけた最後の書籍だった。
昨夜、ご本人にlineでメールしたら、「先生に、ご本を差し上げてなかったでしたっけ?」ととぼけられてしまった。石川さんらしい(笑)。
わたしは、長岡市寺泊にある「角上魚類」のことは知らない。もちろん社名と評判は知っていたから、この本を発注したのだが、新潟の企業だとは。この本を読もうとしたわけは、量販店がふつうの時代に、スタンドアロンの路面店で魚屋の事業が成り立っている理由を知りたかったからだ。
実際の店を子細に観察したわけではない。最終的に、現場観察のあとに書評を書くつもりでいた。そうしなかったのは、単に石川さんの名前をみてしまったからだった。そういえば、著者の名前は以前に、『チェーンストア・エイジ』で見たように記憶している。15年間、栁下社長に密着して「食い込んで」(石川さん)書いた本らしい。
「原稿ができてたんですよ」とは石川さんからの説明だった。企画書を提出するのではなく、完成原稿を持ち込んでの出版だったらしい。社長が出版にこだわったとは思えないから、著者の想いが出版を実現させたんだろう。それだけ、気合が入っていることは読めばわかる。かなりの力作である。
本書は、創業者で社長の栁下浩三さんを取材してまとめた、二年間の成果である。読みやすくて、事業が成功した秘訣もよくわかった。品ぞろえが豊富な専門店で、商品はすべて店内加工。値引きをせずに、ロス率がほぼゼロ(0.05%)。このモデルは、徳永奈美さんの「10種類の100円パン」(アクアベイカリー)に瓜二つのビジネスモデルだ。
新潟発祥の企業だが、いまは広域に展開していて、関東圏に22店舗。店を急速に増やさない点や、店長や店員さんをモチベートする動機付けも、わが院生社長の「100種類の100円パン」によく似ている(「日経MJのヒット塾」に2016年に掲載)。
角上魚類というのも、変わった社名だ。覚えてします。社長の勢いと才覚、そしてこわもてだが憎めないキャラクターで動いている会社なのだろう。大規模なチェーンストアが失ってしまった商品のシズル感(鮮度)とバラエティを提供している点でも共通点は多い。
高回転率ではあるが、鮮魚の職人さんを雇っているので、労働分配率は高い(52.6%)。おいしいものを安く提供するために、粗利率は低く設定されている。それなのに、営業利益率(6.3%)がそこそこの水準にあるのは、販売管理費の低さ(26%)に秘密がある。設備費が5.5%で、家賃が2.7%である。
近々、店舗を見てみたいと思っている。そういえば、5年ほど前に、大学院の授業でお世話になった「魚耕」さんはどうしているのだろうか。「魚力」さんとの経営効率の比較は出ていたが、「魚耕」さんは対象ブランドの圏外に置かれていた。