読書感想文優秀者4名を掲載する。
「中内功 理想に燃えた流通革命の先導者」を読んで 中洞 葵
本書を読み終えてまず抱いたのは、ダイエー成功のカギは、中内氏自身の行動力と一貫性でないかという考えだった。彼は時代や社会の流れに合わせて商法を変え、ダイエーの発展を支え続けた。創業当初は少々荒い商法もあったようだけれど、客の話に耳をそばだたせ、競合よりも安く売るため歩き回る。(この泥臭い行動力は前回の課題図書である日テレに似ていると感じた)。そしてその行動の背景には決してブレない軸があった。それが自由とデモクラシーの精神である。渡米を期に、大量生産方式によるアメリカの豊かさと顧客志向の概念を身につけることになる。
しかしそれだけではなく、序章で筆者も述べているように、中内氏はその豊かさの裏に、自由とデモクラシーの精神を垣間見たのである。彼が創業時から抱えていたこの思想が自分の目の前で形となって現れている、このことが大きく彼を突き動かしたのではないかと私は思う。そしてこの精神を軸にし、他にはないサービスの提供を行うことで流通革命を起こした。その思想は資本提携が終了したいまも、ローソンを始めとする企業に受け継がれている。
もうひとつ触れたいのが、ファウンダーという役職に就き、大学を設立したことについてである。彼の目指す大学像は、個性主義と学びの自由を尊重するものであった。彼はこれまでの学問ありきのカリキュラムではなく、「目的のある学び」と「社会との連動のある学び」を追い求めた。将来の自分から逆算して学び、また世の中に意味のあることを学ぶために、インターンシップや企業との共同企画など、今の私たち学生にとってとても身近な教育の形、制度が彼から始まっていた。流通だけではなく、ここでも革命を起こすのか!と、彼の行動力と強さを目の当たりにした気がした。
そして彼の考えに触れたいま、自分がなぜ学んでいるのか、それを私はこれまでどのくらい意識してきただろうと、今一度考えなおすことにしようと思う。
また、彼は企業家志望の一年生を対象とした、中内ゼミを開講した。しかしその理念は、「次代の革命家を育てる」のではなく、「地域における共生」に焦点を当てるものであった。そこには中内氏の、一人ひとりの個性を強調し互いに認め合うことで「森」を作ってほしいという思いがある。ダイエーを支えた自由とデモクラシーの精神が、ここでも一貫して守られていることに私は驚いた。
今現在、ダイエーはダイエースペースクリエイト株式会社にて人材サービスを行っている。これもまた中内氏の教育への思いが続いている証と言えるはずだ。
自由とデモクラシーの精神を受け継ぎながらダイエーを発展させ、さらに教育にも力を注ぎこんできた中内氏。
彼がいまの教育体制、流通のあり方を残してくれていると言っても過言ではない。
私たちの生活は、中内を含む多くの革命家たちによって築きあげられたものなのであると改めて痛感した。
最後に、毎回授業前に読み上げるクレドにも、実は中内氏の大事にしていた考えや理念に通じるものがあると感じ、本書を読むことが、あの七カ条に込められた意味を再度考え直すきっかけであると強く感じた(特に5・6・7条に関して)。クレドを全員で確認するあの時間を意識し考えることも、目的意識をもつことに通じるのだと思う。
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『中内功 理想に燃えた流通革命の先導者』を読んで 川口寛貴
本書は「よい品をどんどん安く」という理念のもと、一軒のドラッグストアから始まった中内功さんの挑戦や、中内さんの人柄について三部構成でまとめられている。第一部の「祥伝」では、ただの伝記ではなく、デモクラシーや自由という時代の思想の中で、中内さんの活動の一貫性を捉えようとし、ダイエーの戦略や組織的な展開に注目されている。そして実業界だけでなく政治や教育の分野での活躍にも光が当てられている。第二部の「論考」では、ダイエーにとって、そして日本の流通業界にとっても、重要なターニングポイントとなった中内さんの一つの別れと一つの出会いが取り上げられている。第三部の「人間像に迫る」では、中内さんの人となりが表れたエッセイ等が再収録されており、ここでも中内さんの思想の一端に触れることができる。
本書で印象的だった内容は、第二部「論考」の「Ⅰ 二つの『流通革命』ーー中内功と中内力」である。ダイエーを共に創業し、二人三脚で歩んできた中内兄弟の間で対立が生じ、弟の中内力さんがダイエーを退社することになった経緯について説明されている。
この二人が直面したダイエーの方針上の対立点は是非の判断が難しいものであり、もう一つの「流通革命への道」がありえたことが明らかにされている。中内兄弟の対立点を整理すると、問題は三点あった。①チェーンの規模のエコノミーと個店利益の積み上げ、②垂直統合と商人純化、③連邦経営主義と統一経営主義の三点である。中内功さんの立場は、①チェーン全体で利益を出すこと、②垂直統合、③統一経営主義であり、力さんの立場は、それとは真逆の①個店ごとの利益重視、②商人純化、③連邦経営主義であった。理論的には中内力さんの主張は決して間違ってなく、「彼がダイエーの主導権を握っていれば、ダイエーはイトーヨーカ堂とイオンを足したような会社になっていたかもしれない。」と著者は述べている。もしそうなっていたら、今ほどSPAが企業に取り入れられることも、その結果SPAが経営学部の授業で取り上げられることもなかったかもしれない。それだけ中内兄弟の対立は日本の流通業界にとっても大きな分岐点になったのだろう。
このように、一つの結果次第で組織や業界の未来が大きく変わっていたということはよくある話だろう。今回、私は小川ゼミナール40期の「もしもあの時」という「歴史のイフ」を考えてみた。考えたイフは「もし40期のゼミ長が斎藤ではなく大庭だった場合」である。正確ではないが、昨年の夏合宿で行われた投票で、決選投票前の二人の票差は僅差であったと記憶している。大庭がゼミ長になっていた可能性も十分ありえたと考えられる。そこで、大庭に「もし大庭がゼミ長だったら、誰を副ゼミ長に選んでいたか。」という質問をしてみた。返ってきた答えは、「川口か竹内を選ぶ。」であった。選ぶ理由は、「仕事をきちんとやってくれそう。」とのことである。
ただし、私は二人のどちらがゼミ長であっても、組織の運営の仕方にあまり差は出ないと思う。ゼミ長として必要な要素として、先生と良い関係性を築けるかということと、ゼミ生への説得力を持てるようにゼミの課題をきちんとクオリティにこだわってやることなどがあげられるが、二人とも同じくらい良くやっていると思うからである。
もう一つ「もしもあの時」を付け加えると、斎藤は小川ゼミに入っていない可能性も十分あったと思う。ゼミへの応募が始まった当初、彼は他のゼミを志望していた。そのゼミは、正直学生にとってタメにならないという評判のゼミだった。その時、私が「フィールドワークができる小川ゼミに入りたい。」というのを伝えたので、それは斎藤が第一志望を小川ゼミに変えたきっかけの一つになっていると思う。これは私のファインプレーとさせていただきたい。
このように身近な組織においても「もしもあの時」の結果次第で、組織の未来が大きく変わることが実感できる。それがダイエーほど大きな組織となると、及ぼす影響は業界全体にまで波及するのであろう。
間もなく春学期が終わり、夏休みに入る。そして9月にはゼミ合宿があり、そこで次のゼミ長が決まる。次のゼミ長が誰になるのか、リーダーが変わって小川ゼミという組織がどう変わっていくのか非常に楽しみである。
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『中内 功 ~理想に燃えた流通革命の先導者~』を読んで 斉藤舜人
私は本書を読んで、中内功氏の流通革命を引き起こした自由闊達な「デモクラシーの精神」のもと、当時の社会的批判をものともせずに、小売店の王座に座ったダイエーを率いた中内氏のリーダーシップに非常に圧倒された。また、成功者として知られるなか、戦争に派兵されるなどの波乱万丈な人生を送っていたなどの一面を知り、本書を読みながら学ぶことが多々あった。
そもそも、ダイエーという総合スーパーマーケットが、当時の小売業界を席巻していたことを私は知らなかった。今ではイオンやイトーヨーカ堂がマーケットシェア上位に君臨しており、ダイエーは時代に淘汰されていったイメージがあった。しかし当時、中内氏が引き起こした流通革命というイノベーションが現在にも多大なる影響を与え、その礎を築いた点は称賛に値することである。そこで、本書の中で特に印象的であった流通革命において鍵となるポイント、また、中内氏の称えるべき点を私なりに述べていく。
まず、流通革命において最も重要だった点だが、「デモクラシーの精神」に基づく「フォー・ザ・カスタマー」の姿勢であると私は感じた。小さな薬局から始まった中内氏の商人人生で、周囲の批判に一度も屈することなく、常に最優先事項とされてきた考えだろう。この考えが確立されたのは、中内氏がアメリカに視察に行った際、ケネディ大統領の言葉を聞いてからと述べられていた。しかし、中内氏が商人としての人生を歩み始めたその一歩目から常に「フォー・ザ・カスタマー」を実践していたように私は思えた。中内氏の物心がついた当時、国内では世界恐慌に伴う昭和恐慌が起こっていたという。このような景気状況での生活、そして、規律と統制による雁字搦めの軍人生活、この二つの経験があったからこそ、自由な思想や社会を追い求める「デモクラシーの精神」を大切にし、「常に消費者のために」という考えを持ち続けられたのだろう。
実際、ダイエーを創業してから「よい品をどんどん安く」を徹底し、チェーン化を推し進めていった点や、インフレ経済下での「物価値上がり阻止宣言」を行ったことなどは、中内氏らしさで溢れていると私は感じた。また、周囲から数多くの批判がありながらも「フォー・ザ・カスタマー」のもと、流通だけではなく、当時の管理主義であった日本の消費社会そのものを変えようと変革を起こし、立ち向かい続けた中内氏はひとりの人間として尊敬に値するだろう。
次に、中内功氏と中内力氏の対立の中で、「垂直統合論vs商人純化論」について私事だが非常に考えさせられたため、是非述べていきたいと思う。
私は先日就職活動を終え、食品の卸の企業に就職を決めたばかりだ。その企業の最終面接にて、「小売りと卸の流通一本化についてどう思うか。」と問われたのだ。私はその問に対し、「企業の側面から見ると、コスト削減や効率化が図れるが、エンドユーザーは消費者であるため一本化することによる限界があり、消費者にとって正しいとは一概には言えないのではないか。」と答えたのである。これは商人純化論であり、中内功氏が推進した垂直統合論ではない。現に、財閥系卸は小売りとの一本化を推進し、垂直統合論に近い現状が生まれている。少し話がすれてしまったが、結論、エンドユーザーは消費者であり、消費者が決める事であるため、どちらが正しいとは言えないだろう。たしかに、功氏が成功を納めたのは垂直統合論であったが、就職先が非財閥食品卸であるだけに、個人としては商人純化論を肯定したいと本書を読みながら考えさせられた。
最後に、中内氏が自身の考えを後世に残すべく、大学を設立した点について述べたい。
中内氏は自身の臨教審での経験から、①「個性主義」、②学び手の立場に立った「学びの自由」、③「社会と連動した教育」、④「生涯教育」を継承しようとした。ここで私は中内氏に一言述べたい。「大学こそ違うが、その思いは小川孔輔ゼミナールで継承されている。」と。
まず「個性主義」だが、小川ゼミは七カ条のクレドにて「個性と協調性の大切さ」を唱えており、ゼミ生が個性を出し、自由に学ぶ風土が根付いている。また、フィールドワーク活動により、机上の空論ではなく、社会と連動した実践的なマーケティングを学べている。この経験は、学生にとって非常に有益な経験であると私は思っている。普段は当たり前のようにゼミに参加していたが、本書を読み、非常に大事なことを学べていると改めて実感した。
以上が、本書を読んで私が感じたことである。今現在では低迷に悩むダイエーだが、正直に言ってしまうと、中内氏が去った影響は想像を遥かに上回るものだったはずである。非常に強力なリーダーシップ、そして変革者としての精神を持ち、それを実現できる人間は到底現れるものではない。中内氏がいたからこそ、現在の消費生活があることを私達は忘れてはならないと同時に、彼の精神を継承し、今後の消費生活の発展を担う人間を育成することこそ彼が後世に残した願いである。それに応えるべく自由に学び、今後の暮らしをより豊かにすることこそ、私達の使命なのではないだろうか。
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『中内功 理想に燃えた流通革命の先導者』 栗原一
本書を読み、未だない新たな仕組みを一から創造することの困難さと偉大さを感じた。未だないものを創造することは既存の思想に抗うことを意味し、強靭な精神力と行動力が必要である。本書を読んでいて、生涯をかけて流通革命に挑み、理想を掲げて実践し続けた中内功氏に対する敬意や共感の嵐であった。ダイエーはとても身近な総合スーパーであるが、一時代を築いただけでなく、日本の小売・流通の在り方において多大な影響を与えたことが分かった。
私が特に教訓としたいと感じたことは、どの時代(少なくとも戦後の世の中)においても消費者の求める価値に則した仕組みが生き残るということだ。中内氏が戦時中に感じた食い物の恨みはまさしく消費者が潜在的に感じていたものだ。牛肉・バナナ・リンゴの安売りから始まった「良い品をどんどん安く」は消費者が求める最大の価値であった。そこからチェーンストアの創出など、消費者の買い物の自由を創りだしたのはダイエーである。
ダイエーの「変化」についても印象に残った。私は中学生の頃、よく地元のダイエーの中にあるゲームセンターに行っていたが、ゲームセンターや衣料品、家具のフロアにおいては「あまり賑わっていないな」と思っていた。それなのになぜ幅広い分野を取り扱っているのか、それならば食料品だけのほうが効率がいいのではないかと思っていた。
しかし、生活提案路線に舵を切った結果なのだと理解した。とことん安売りして規模を拡大する戦略から消費者の生活に寄り添った売り場づくりへの変化である。結果的にダイエーの転換要因となったわけだが、中内氏の掲げる「フォー・ザ・カスタマー」に則った変化である。組織には絶えざる革命が必要であり、変化しなくてはいけない。時代が求める価値の変化に適応することが必要だ。その点で、長きにわたり存続、成長し続ける企業には高いレベルで時代を先取りしながら柔軟に適応していく強さがあるのだと思った。
「ライフラインとしての流通」という言葉も印象に残った。効率化により利益を上げるためだけの流通ではなく、戦争や震災の経験から語られる今後の流通の役割に共感した。
平和主義者であり壮絶な戦争経験をした彼ならではの言葉である。また、手に取って初めて商品に価値が生まれるため流通業は価値創造業だと説いていることにも共感している。
様々な功績の中でも私が価値を置きたいのは、デモクラシーの思想のもと「本当に良いと思うこと」を愚直に実践していく彼のスタンスである。消費者本位の小売やダイエーの成長に向けて試行錯誤しながら邁進した。その中で、人からの助けを得ながらも、人との対立は避けられなかった。中内力氏とはそもそものダイエー成長戦略の考え方が異なっていたし、松下幸之助氏との価格をめぐる駆け引きからは両者の苦労が伺える。それら一つ一つのエピソードから、既存の考え方にとらわれずに消費者にとって、ダイエーにとって良いことに努め抜いたことが分かる。またその中内イズムを教育の分野でのちの世の中に残したことも大きい。流通科学大学や中内ゼミという形に残るものだけでなく、彼の思想と情熱が受け継がれている。