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【書評】 中野香織(2020)『「イノベーターで」読む アパレル全史』日本実業出版社(★★★★★)
 衣料品(アパレル)チェーンのビジネスには詳しいほうだと思うが、ファッションやモードの歴史については素人同然である。「全史」というタイトルに惹かれて読んでみた。『日本経済新聞』の書評欄で見つけた本だった。コロナで時間ができたので読んでみたら、実に中身がおもしろかった。マーケティング研究者や若いビジネスマンに読んでほしいと思った。

 

 本書の特徴は、ファッションビジネスに新しい地平を切り拓いたイノベーター(変革者)たちを、彼らの仕事と個人的な生活を通して、多面的に記述しようとしている点である。スタートは19世紀以降なので、アパレルの現代史と言っていいだろう。一人一人の記述は短い(3〜4頁)が、コンパクトゆえに人物像がすっきりと頭に入ってくる。

 さすがにモードの世界の話なので、登場人物の3人にひとりは女性(シャネル、スキャパリ、川久保玲など)である。いわゆるLGBTのカテゴリーに属する人物も、この世界では例外的な存在ではないことが確認できる。性的な嗜好を隠すことなくごく自然に振る舞う姿勢に、デザイナーたちの時代に対する挑戦的な姿勢がよくあらわれている。

 「アパレル」という言葉の語源を、中野教授の記述ではじめて知った(「はじめに」の部分)。Apparel(アパレル)の語感には、「外観」や「装備」というニュアンスが含まれている。アパレルは単なる衣服や布の意味だけではなく、衣服を纏うことを通して、他人に自己を表出する”姿勢”を意味している。だから、人が身に着ける衣服や靴やカバン、宝飾品もすべてが「装備」(アパレル)になる。

 

 本書が非常に読みやすいのは、全体の構成が上手に仕上がっているからだろう。19世紀の「オートクチュールのはじまり」(チャールズ・フレディリック・ワース〜クリスチャン・ディオール)の第1章を軽く仕上げて、20世紀の3つの時代区分(1970年代から1990年代)の大物デザイナーとブランド(イヴ・サンローラン〜ラルフ・ローレン)を少しく詳細に記述してくれている(第2章)。それぞれのブランドは知っていても、ブランドを創造した人物の思想や生活は、わたしのような一般人には初めて知ることばかりだった(第2章〜第3章)。

 日本人のデザイナー(森英恵〜山本耀司)が、70年代から80年代に欧州ファッション業界に与えた衝撃は知ってはいたが、当時は貧乏学生でファッションとは無縁だった。院生のころに、欧州を中心に活躍している日本のデザイナーたち、例えば、三宅一生や高田賢三などはまぶしく輝いて見えていた。しかし、彼らの何が新しかったのかは、本書を読んではじめて知ることになった(第4章)。

 

 後半部分(第5章〜第7章)では、時代の変化と個人の才能のちがいによって、デザイナーたちが機能分化していく姿が記述されている。第5章で取り上げられているデザイナー(クリエーティブ・ディレクター)たちは、ビジネスが規模拡大するにつれて経営者に転身していった人物たちである(ベルナール・アルノ―など)。あるいは、ザラの創業者であるオルテガやユニクロの柳井正は、はじめからグローバルな成功を目指してアパレル事業に取り組んだ才人たちである。出自は、必ずしもファッションデザイナーではない。

 ファストファッションがグローバルビジネスの中心に躍り出ると、逆に小さなニッチ市場でブランドが成り立つ条件が生まれる。ただし、わたしの知識は5章までで終わりである。6章と7章で登場する人物の半分は、よくわからない初耳のデザイナーたちだった。ただし、名前が思い浮かぶ程度の知識はあって、ブランドの特徴や各人のファッションに対する主張はよく伝わってきた。知らない人物も、中野教授の記述が的確で生き方には共感を覚えることができた。 

 

 最後に、表紙の裏に、本書についてつぎのような宣伝文句が書かれていた。実に納得の文章だったので、そのまま引用しておくことにする。

 こんな人にピッタリの本、、、、

 

 アパレル業界をめざす人 → 教養・常識が身につく!

 ビジネスに活かしたい人 → イノベーションのヒントが探せる!

 ファッション好きの人 → 話のネタにも!

 

 もう一行、ここに加えるとしたら、

 

 歴史に興味がある人 → 社会の変化を衣服を通して知ることができる

| Kosuke Ogawa | 16:36 | - | - | pookmark |

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