【書評】 黒岩健一郎・牧口松二編著(2012)『なぜ、あの会社は顧客満足が高いのか:オーナーシップによる価値の創造』同友館(★★★★)

 武蔵大学の黒岩健一郎さんから昨年の夏に献本していただいた本である。分析対象企業が、わたしの友人が経営している会社がたくさん登場している。とても気になっていたので、ゼミの春合宿でテキストに指定した。CSが高いサービス業の特性を事例分析した本である。



 一般的に、複数の著者が著述に関与している本は、全体の枠組みが不統一になるものだが、本書は共通の枠組み(オーナーシップ)で括られているので、そうした不統一感がない。読後感がすっきりしている。
 研究方法としては、「比較事例研究」のアプローチを採用している。特定のサービス業種から、タイプの異なる複数の「優良企業」を選抜して、顧客満足が高い理由を解説していく手法である。たとえば、ザ・リッツ・カールトンとスーパーホテル(第2章)、スターバックスとドトールコーヒー(第3章)が対比される。
 キーワードは、「オーナーシップ」という概念である。会社の経営者だけでなく、従業員の「当事者意識」を表わした概念である。顧客接点にいる社員が、当事者意識を持って経営に参加することで、サービスに対する顧客満足が高まる仕組みを事例で説明している。

 10数年前に、ヘスケットら、ハーバード大学のサービス研究グループが「サービス・プロフィット・チェーン(SPC)」の概念を提唱した。すなわち、CS(顧客満足)が高いとES(従業員満足)も高くなり、結果として利益が高くなる。SPCの公理をバージョンアップしたのが、2010年に黒岩さんたちが翻訳した『OQ(オーナーシップ指数)』(同友館)である。
 本書の位置づけは、わが国の優秀サービスの事例を用いて、「日本版オーナーシップ・モデル」を提示していることである。これ(日本版)が、オリジナルのモデル(OQ)とどのような関係にあるのかが示されると、さらに説得的だったような気がする。

 興味深いのは、5つの比較対照事例(カフェ、アパレル、回転すし、生命保険、ホテル)から、ふたつのタイプの「オーナーシップ・モデル」を抽出したことである。すなわち、「カスタマイズ型」と「ユニバーサル型」という典型である。このふたつは、提供すべき顧客価値が異なるので、どちらも高いCSを提供するのだが、そのときに必要とされるオーナーシップの形も異なるというわけである。
 いまひとつ分析を踏み込むとしたら、つぎの二点にチャレンジしてもらえば、もっと本書が深みのある書き物になったと考える。

1 現実的には4つのパターンが存在?
 カスタマイズ型とユニバーサル型の変種(バリエーション)として、中間形態があるのではないか?もう一つの軸は、顧客ターゲットとサービスの提供方式の違い 

2 ダイナミックな分析(変異モデル)
 両方の典型は、競争環境が変わることで時間とともに変化していく。その調整のメカニズムを示すことで、新たな適応モデルが提示できる。サービス業ではそうして挑戦が役に立つ。