読書感想文優秀作品 4名の感想文をアップします!
「TSUTAYAの謎」鈴木 基之
蔦屋家電や武雄市図書館のニュースを聞いた時、様々な疑問が浮かんだ。なぜ衰退業界に参入するのか。それで新たな収益の柱にならないのではないか。そもそも失敗に終わるのではないか、などだ。しかし、本書を読むことで、多少なりともその意図を知ることが出来たと思う。
まず、なぜ衰退業界に参入するのかという疑問だ。家電や本屋は店の数も飽和しているし、ECの脅威にさらされている。ましてや図書館は既得権益が絡んでいるし、現に現在メディアの袋だたきにあっている。ではなぜ進出するのか。前提としてCEOの増田さんはこれからの時代提案力が問われると考えていた。モノが余っている現代では、ただモノ単体で売るだけでは売れず、その先にある生活を提案しないと買ってもらえないということだ。例えばappleは製品を売っているのではなく、製品をある生活を売っている。IKEAは北欧の家具を売っているのではなく北欧の生活を売っている。だからこそ、提案力によるイノベーションが起こせると考え、これらの業界に進出したのだ。もともとTSUTAYA自体もCD、DVD、書籍の複合する生活に関する情報発信基地という位置付けで創業したそうだ。
そう考えるとこの業態に進出した理由もわかってくる。現代に提案力が求められるというのは今まで読んだ小川ゼミの課題図書でも数多く述べられていたように思う。しかし本当にそれで成功するのだろうか。個人的には失敗に終わるのではないかと考えている。
なぜなら、独自性と模倣困難性が足りないのではないかと思うからだ。確かに生活の提案というコンセプトは素晴らしい、しかし唯一のお店にはなれていない。生活の提案というが、そこまで斬新な提案が出来ているように思えない。またappleやIKEAのように独自の製品を持っていないため、ショールーミングされやすい。加えて、成功したとしても、増田さんがモデルとしているファッション業界でセレクトショップが乱立しているように、他社に真似され、競争が激しくなるのではないかと思う。
もう一つ疑問に思うことがある。成功しても、それで本当にTSUTAYAの代わりになるのだろうか。TSUTAYAは現在1400店舗以上もある巨大チェーンである。ネット動画配信サービスにより間違いなくTSUTAYAがこれ以上成長することはないはずだ。となると当然新しい収益の柱を探さないといけない。それが蔦屋書店であり、蔦屋家電であり、図書館なのだろう。しかしこれらの業態は提案力を売りにするがゆえに、チェーン展開出来ない。増田さん自身も地域性を活かした個店を展開していくとおっしゃっていた。そうなると数はそんなに多く出せないし、規模の経済も享受しにくい。
ではなぜそうするのか、本書を読んだうえで理由を考えてみた。もしかしたら企画会社への原点回帰を狙っているのではないだろうか。本書を通じてCCCは企画会社ということを繰り返し述べていた。しかし現在TSUTAYAからはそのイメージは薄れているし、その理念を浸透させるには企業規模が大きくなりすぎた。そこであえて企画で勝負するということを重視し、規模よりも、社会に与えるインパクトを大切にしたいのかもしれない。
また、本書をよんでCCCという会社についても興味がわいた。さらにCCCの会社ホームページを見てみるとさらに興味深い。まず、企業理念やブランドステートメントがわかりやすいし。また、10個の行動規範というものがあるのだが、本書で社長が大切にしていると言っていることと同じで、一貫性があるなと思った。
批判などもしたが、本書を読んで現在の市場で求められていることや、CCCという会社のユニークさを知れたのはよかった。蔦屋家電や図書館が今後どうなっていくのか、注目していきたい。
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「TSUTAYAの謎を読んで」小須田 沙依
私は本屋が好きである。人との待ち合わせに早くついてしまった時や、暇でちょっと時間を潰したい時に、特に用事がなくてもふらっと本屋に入ることがよくある。必要な本がある時はネットで買ってしまうことが多いし、本を買うために本屋にいくことは改めて考えるとあまりないかもしれない。私にとって本屋は本を買うための場所というよりは何となく時間を過ごす場所である。
私はいま、家具やインテリア雑貨を取り扱う店でアルバイトをしている。店のバックヤードには社訓である「お客様に意味のある生活の提案を」という言葉が貼ってある。この社訓と、増田さんの提案する「生活提案型TSUTAYA」に私は似通ったものを感じた。
バイト先の店に「これが欲しい」と心に決めて買い物に来るお客様は少ない。店内は家具や雑貨が生活シーンごとにディスプレイして展示してあり、欲しいものがなくとも展示を見ているだけでついつい長居してしまうような雰囲気である。例えば、キッチンボードの上に食器やカラトリーを、テーブルの上にはコーヒーカップ、ソファにブランケットを合わせて展示している。バイト先のネットショップはあるが、店に訪れた時のワクワク感は店舗でなければ得られないものだと思う、代官山蔦屋が代表するような「生活提案型TSUTAYA」は、ジャンルを超えた本が並び「雑誌」のような店である。本と雑貨という違いはあるものの、お客様に何となく過ごす時間に心地良さを提供するという点は同じであると感じた。
また、本書を読み、ずっと疑問だった社訓の「意味のある生活」とはいったい何なのか理解することができた。増田さんが企画を提案するときに軸にする「コンセプト」が社訓にある「意味」なのではないだろうか。コンセプトを決めて店作りをしていくことで差別化を図り、さらにお客様にまた来たいと思ってもらえると増田さんは述べている。しかし、コンセプトを決めることのメリットはそれだけではないと私は思う。
バイト先の大まかな家具の配置は店長や社員が決めている。しかし小さな雑貨類は、「適当にディスプレイしといて」とアルバイトに任されることがある。店内はカップル向けのコーナー、1人暮らしの女性向けのコーナー、男性の書斎をイメージしたコーナーに分かれており、インテリアの知識やセンスに自信がない私でも、さっとディスプレイの場所を思い浮かべることができる。コンセプトがすぐにわかることは社員の共通認識に繋がり仕事の質を向上させることができるのだ。
話は変わるが、本書の内容は前回の読書感想文の課題図書である「きものの森」と似ていると感じた。手間はかかる、しかしその時間を愛おしいと思えるような文化的な面を残しつつ現代社会に合わせたきものを提案するやまとの精神は、TSUTAYAが目指す「文化」を「便利に利用できる」、つまり「カルチャーインフラ」と同じである。
既に「きものの森」を読んでいたからかもしれないが、私はTSUTAYAが目指す「文化の提案」にさほど驚くことはできなかった。むしろ、ものが溢れる現代社会で生き残るための当たり前の流れであると感じた。実際、フィールドワークでお世話になっているヤオコーも経営理念に「生活提案型のスーパー」を掲げているし、現在成功している企業は既にこの戦略に乗り出していると感じる。今はまだ少ないが、きっと多くの企業がこの流れに気づき、文化を押し出した経営をしてくるのではないだろうか。
もし文化の提案で溢れる世の中になったら次はきっと、文化の提案の仕方に差別化が求められる時代になるだろう。今後TSUTAYAがさらに成長していくためには新たな文化の提案の仕方に取り組まなくてはならないだろう。私が就職し、働くころにはこの差別化に奮闘することになるかもしれない。増田さんの次の時代に向けた企画力に期待するとともに、自身も新たな文化の提案の仕方を企画できるような仕事をしていきたいと感じた。
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「TSUTAYAの謎」橋本 美早紀
実は以前まで、Tカードを持っていなかった。理由は、TSUTAYAは品数が豊富な上に立地も便利な場所にあるのだが、他社のレンタルショップと比べ料金が高く、また、Tカードの還元率が悪いためである。一年ごとに有料でカードを更新しなければならない点も面倒臭く、Tカードに特に魅力を感じないことが理由だった。
しかし、最近ではコンビニに行っても、ファミリーレストランに行っても、「Tカードお持ちですか?」の文言を良く耳にするようになった。以前まではTカード=TSUTAYAという印象だったが、年々利用できる提携先の店舗数が増加している。身近なお店でもTポイントを貯められるように変化している。それらをきっかけとして、Tカードユーザーの一員となり、今では大元のCCCが展開する事業の一ファンとまでになった。
今年の冬に、初めて「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」を訪れ、今までの常識を良い意味で覆された。店舗の中にスタバが併設されているブック&カフェスペースで、お茶を飲みながらゆっくり本を探し、読むことができる。中にはお茶を片手に勉強している人も見受けられ、ゆっくりとした時間が流れる。その空間にいるだけでワクワクした。
一方、書店の多くが閉店している中で、なぜCCCは巨大書店を展開しているのだろうかという疑問もあった。そんな中で、「蔦屋家電」が二子玉川にオープンしたと聞き、さらに私の頭は「?」となった。
しかし、本書を通して増田さんのぶれない姿勢を感じ、私の疑問はすっきり解決することができた。今回は、その疑問が解決した過程を考察とともに記していきたい。
「蔦屋家電」がオープンし、「蔦屋?家電?なぜ?」と「?」ばかりだった私は、実際に「蔦屋家電」を訪れてみた。そこで感じられたのは、「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」とはまた違ったワクワク感であり、今まで感じたことのない新しい感覚だった。増田さんは「蔦屋家電」を「家電を含めたトータルな生活提案」と語っているが、本当にその通りだなと感じた。今まで常識的だった家電量販店とは大きく違う。ただ商品が陳列されていて、目が疲れてしまうような空間ではなく、すっきりしていて商品の特徴も見極めやすい。また、アイテム別のコーナーにはコンシェルジュが必ず存在し、商品選びの手助けもしてくれる。家電だけではなく、家具やボタニカルショップ、カフェ、ビューティーサロンなども併設されていて、正に「ライフスタイルを買う家電店」であった。便利で欲しいものが簡単に手に入るネット通販が、リアル店舗を圧倒してきている中、CCCが作る空間は、確実にネットでは味わうことのできない体験をもたらしてくれる。増田さんは本書で、「ネット通販とリアル店舗の双方の運営がこれからの企業に求められること」と言っている。増田さんがなぜ、5300万人ものビックデータを所持していながら、リアル店舗を構えたのか、その理由は、「生活者が求めること」を追求してきたからだと感じた。
先日、授業で「顧客は、製品とサービスを通して感じることのできる『経験』を求めている」ということを学んだ。その例として上がっていたのが、スターバックスやディズニーである。混んでいても足を運びたくなるその理由は、「そこでしか味わえない感覚」があるからだ。効率を求めるにはネットを使えばいい。しかし、その一方で、人々は家でも仕事場でも味わうことのできない経験を提供してくれる第三の新しい空間を求めているのである。CCCが運営する「蔦屋家電」も、心地の良い空間作りの工夫をたくさん散りばめ、第三の空間を顧客に提供していた。
また、本書で増田さんは、「効率を求めて、均質なチェーンオペレーションを組んだお店では居心地は実現できない」と言っている。効率を求めるのではなく、手間や愛情が込められているお店には時間をかけてでも行きたくなる。わざわざ行きたくなるようなお店作りが、現代のリアル店舗に求められていることなのだと改めて考えさせられた。
本書を読み終えて、増田さんの真のぶれない考えと、柔軟な物の見方にとても胸が熱くなった。64歳にはとても見えない若い野望を抱きながら、「生活者が求めていること」を追及し続けている。例え最初は周りの賛同を得られなくても、自分の信じる道を貫いているその姿に、素直に「かっこいい」と感じた。来春から三越伊勢丹HDとの提携も決定していて、ライフスタイルを重視した商業施設などの新規事業の企画・開発も検討しているそうだ。これからCCCがどんな企画を生み出していくのか、今からとても楽しみである。
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「TSUTAYAの謎を読んで」橋本 奈波
本書は、TSUTAYAと蔦屋書店の運営で有名なカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、どのような考えで、どのような理想を掲げ、事業展開を図ってきたのか、そして図っていくのかについての内容となっていました。
最近はスカパーの契約をしていた事を思い出し、すっかりTSUTAYAへ赴く足が遠のいてしまいました。ですが、以前の私は週1で通うほどのTSUTAYAヘビーユーザーで、今でも、TSUTAYAの店員さんが書く可愛いポップや蔦屋書店の雰囲気にとても好感を持っています。
本書を読んで初めて、TSUTAYAが家電事業を始めることを知り、驚きましたが、読み進めるうちに21世紀に合う素敵な事業内容だなと確信しました。
まず、本や音楽といったもの(本書ではソフトと呼ばれています)を使って生活を提案するという考え方がわたしにとっては、新しいものでした。しかし考えてみると、いつの間にか本や音楽、映画が当たり前のように自分のライフスタイルの中に組み込まれており、選ぶ音楽や本は、無意識のうちにその時の自分の気分や心を反映したものだったことに気付きました。
今まで、エンターテイメントコンテンツは、何か物足りない現実の世界から別の世界にトリップする為のものだと思っていましたが、考えようによっては、その人の生活に寄り添うことも出来るのだと気付きました。そしてそれは、今の時代に合った娯楽の在り方なのかもしれません。この考えについては、蔦屋書店に行った感想を書いたあとにまとめたいと思います。
わたしが行ったことのある蔦屋書店は、代官山店と大阪梅田店ですが、両店舗とも本当に素敵な空間でした。特に、大阪梅田店は、ルクアイーレというファッションビルの中に入っていたのですが、蔦屋書店のフロアになった途端、ビルの雰囲気が一変したのには驚きました。ルクアイーレには、フォーエバー21といったファストファッションや、アーバンリサーチといった様々な価格帯のブランドが入っています。8階までは、商業ビルらしい、大量にモノが並び、消費を促す空間になっているのに、蔦屋書店のある階になった途端、消費とは無関係な空間になっていました。
フロアのコンセプトが、「知的好奇心や感性を刺激する空間で、洗練されたライフスタイルを提案するフロア」とあるので、当然といえば当然ですが、きちんとコンセプトが体現されているのは流石だなと思いました。行った時はまだ、本書を読んでいなかったのですが、その時に“きっとここに居る人は、本を買う為じゃなくて、この空間を求めて通っているのだろうな”、“こんな場所があるなら大阪暮らしもアリかもしれない”と感じたことに驚いています。蔦屋書店のあるライフスタイルが容易に思い浮かび、憧れる空間となっていたのです。
わたしはまだ20年しか生きていないので、過去との比較が出来る立場にはいないのですが、話を聞く限り、幸せの種類や人生における選択肢の数は、以前より多種多様になっているように思います。結婚をして家庭を支えるという生き方、キャリアを積むという生き方、子供を持たないという選択、同性婚をするという選択。どれも、今の21世紀では受け入れられてきています。
人生において、たくさんの選択肢があるということは幸せなことです。ですが、選択肢が多すぎることが苦痛に感じることもあります。何かを選択するということは、想像以上に疲れます。常に満足する選択をする事が出来れば良いですが、正しかったかどうかはすぐに分かるものではないし、無駄と分かってはいても、選ばなかった他の選択肢について考えてしまうからです。周りに自分と異なる選択をした人が居れば、自分と比較してしまうかもしれません。
でも、やはり大事なのは、幸せに見えることではなく、自分が幸せかどうかだと思います。そう考えた時に、今ある現実から逃避し、別の人生を疑似体験する為の本や映画ではなく、自分の置かれている状況と似ていて、客観的に自分の人生と向き合うことが出来たり、今ある生活を豊かにするヒントをくれるような本や映画というのが、今の時代に求められているコンテンツなのかもしれません。そして、よく映画を観たり本を読んだりして、憧れる生活に出会う事がありますが、その憧れを、憧れだけで終わらせないというのがCCCが取り組んでいることだと私は解釈しました。
『きものの森』に続いて『TSUTAYAの謎』を読んで考えることは、“どうすれば人の心を豊かにすることが出来るか”ということです。『きものの森』でこの課題に直面し、『TSUTAYAの謎』で、少しだけ答えに近づいた気がします。変化していくライフスタイルや価値観、人々の心情に敏感に反応することが求められていると感じました。