わたしの記事論文以外に、シカゴ特派員が書いたトピックス「瀬戸際の米マクドナルド=マイナスイメージ定着、顧客離れ止まらず=」も掲載されています。その一部を紹介します。なお、昨日は実父の命日でした。
トピックス:瀬戸際の米マクドナルド
=マイナスイメージ定着、顧客離れ止まらず=
米ファストフード大手マクドナルドは、足元の米国でも瀬戸際に追い込まれている。景気回復で消費者の所得が増え、「少しぐらい高くても良い物を」と健康・高品質志向が強まる中、「品質よりコスト優先」「カロリーが高く不健康」といったマイナスイメージが定着し、顧客離れに歯止めが掛からないためだ。今年3月に就任したイースターブルック社長兼最高経営責任者(CEO)は、商品の見直しなど経営立て直しを急ぐものの、反転の兆しはまだ見えない。
◇朝食メニューを終日化
「午前10時半以降も朝食メニューが食べられます」。マクドナルドは10月6日、エッグマックマフィンやホットケーキ、ビスケット、ハッシュドポテトなどの「朝マック」を一日中販売する大規模なメニュー改革を実施した。これまでは10時半までしか扱っていなかった人気商品を、昼食や夕食時にも提供することで、来店客の増加につなげるのが狙いだ。
以前から顧客の要望が強かったものの、業務が複雑になり、店舗の負担が増すといった理由から見送られてきた。しかし、今春から一部の店舗で試行し、加盟店主による検討会議を設けて議論を重ねた結果、実行可能との結論に達した。「オールデー・ブレックファスト」と名付けたこの改革について、米国法人トップは米紙のインタビューで「2009年以来の戦略転換だ。業績改善のきっかけになるだろう」と強い期待を示す。
ただ、米国では高病原性鳥インフルエンザの影響で卵価格が高騰しており、大需要家のマクドナルドがエッグマックマフィンなどの販売を増やせば卵の使用がそれだけ増える。「卵価格の一段の上昇を招く」(米メディア)といった思わぬ批判にも直面し、出鼻をくじかれている。店舗内の業務が複雑になって顧客を待たせる時間が増え、サービスがかえって低下する懸念も指摘されており、期待する成果を得られるかは不透明だ。
◇米国は7四半期連続で減収
同社の2015年4~6月期(15年第2四半期)決算によると、全世界の既存店売上高は0.7%減となり、5四半期連続で前年割れとなった。日本の不振が響き、アジア太平洋などが4.5%減と最も落ち込んだものの、米国も2.0%減と足を引っ張った。米国が減収となるのは7四半期連続だ。
米国での不振は、チキンバーガーのチックフィレイ、メキシコ料理のチポトレ・メキシカン・グリルなど、食材へのこだわりをアピールする新興勢力に顧客を奪われているのが大きい。米調査会社テクノミックのチャプマン・シニアディレクターは「消費者は高くても良い物を求めるようになった。新規参入に加え、既存勢力も巻き返しをかけ、業界内の競争が激しくなっている」と解説する。
米調査会社ACSIが今年初めに実施した米ファストフード業界の顧客満足度調査では、マクドナルドは100点満点で67点にとどまり、6年連続で最下位に沈んだ。
「オールデー・ブレックファスト」と書かれた大きなポスターをガラスに貼ってアピール(10月13日シカゴ市内で撮影)
米イリノイ州、シカゴ郊外のデスプレーンズに1955年に開店したマクドナルド1号店。写真は1950年代に撮影されたもの(AFP=時事)
これに対し、今年から対象に加わったチックフィレイが86点でいきなり首位となり、同じく初登場のチポトレが83点で2位に入った。サブウェイやウェンディーズ、バーガーキングといった既存勢力も評価を下げ、業界内で地殻変動が起きていることが浮き彫りになった。
◇品質改善をアピール
ACSIは業界を取り巻く環境について「経済回復で可処分所得が増えたことで、少し価格が高くても、消費者はより高品質な食材を求めるようになった」と分析。マクドナルドについては「健康的な食品や高品質コーヒーの提供などメニュー改善に努めているものの、高級感を売りにしたチェーンに依然として顧客を奪われている」と指摘した。
マクドナルドも手をこまねいているわけではなく、昨年以降、品質改善に向けて矢継ぎ早に対策を打ち出している。消費者の間で安全性への不安が根強い遺伝子組み換え作物について、ポテトやリンゴでは使わないことを昨年に相次いで表明。今年3月には、成長促進のため抗生物質を投与された鶏肉について、健康被害が生じる恐れがあるとして使用をやめることも明らかにした。
さらに、9月には、ケージで飼育されたニワトリの卵を使わないことも発表した。こうした卵は品質が悪いとして敬遠する消費者が増え、ニワトリを狭いケージ内に閉じ込めることが市民団体などから批判されているからだ。マクドナルドは「顧客はますます食品にこだわるようになった。動物福祉も重要だ」とアピールする。ただ、これらは同社独自の取り組みではなく、ライバルに追随したに過ぎず、出遅れ感は否めない。
◇従業員は賃金に不満
マクドナルドは内部からも揺さぶられている。店舗従業員は「賃金が低すぎる」と訴え、5月の株主総会の前日にシカゴ近郊の本社前でデモを行うことが毎年の恒例行事になっている。今年は約2000人が参加し、「マクドナルドは目を覚ませ」などと叫びながら周辺を練り歩いた。米国では最低賃金の時給15ドルへの引き上げを目指す「ファイト・フォー15」と呼ばれる取り組みが広がっており、象徴的な存在として同社が最大のターゲットにされている。
マクドナルドが米国で展開する約1万4000店のうち、直営店は約1500店に過ぎず、残りは独立経営のフランチャイズ店だ。直営店では今年4月に賃上げを実施したものの、フランチャイズ店については「各店舗の経営判断の問題で、本社に決める権限はない」と訴え、理解を求めている。これに対し、従業員らは「本社にも責任がある」との主張を崩さず、議論は平行線をたどったままだ。
マクドナルドは、英国やドイツ、オーストラリアでは販売が好調で、昨年の期限切れ肉問題で落ち込んだ中国も改善傾向にあるとして、第3四半期の全世界の既存店売上高は6四半期ぶりの増収を見込む。ただ、米国については「増収に転じるのは2016年以降。抜本改革には数年の期間を要する」(米投資情報会社モーニングスターのホトビー・アナリスト)との厳しい見方も出ている。
(シカゴ支局・菅正治)