【書評】 堤未果(2014)『沈みゆく大国 アメリカ』集英社新書(★★★★)

続編『沈みゆく大国 アメリカ~逃げ切れ日本~』が5月に発刊されている。とりあえず昨日は、正編を読んだ。事実を知って本当に残念だったのは、オバマさんの医療改革が不幸な結末に終わっていること。医療難民になった米国民の姿が本当だとすると、日本も確かに危ない気がする。



 国民皆保険制度の日本に生まれたことを、わたしたちは感謝しなければならないだろう。
 さきほど、行きつけの歯医者さんから「歯科本人外来」の医療費と保険給付金のお知らせが届いた(法政大学健保組合経由)。健保負担が8015円、本人負担が3435円。合計が11450円である。歯科診療はそれでも本人負担が大きい診療科である。通常の内科などの外来診療では、本陣の負担が3割にはならない。
 おそらく、米国ではこれが法外な金額になるか、掛金がロケットのような額になるのだろう。カリフォルニアに住む友人が、日本に戻ってくるたびに、「日本はいい、日本はいいわね」を繰りかえす。それは、原発や火山の噴火や地震の不安があったとしても、安全な医療が保障されている社会の良さを評価してのことだろう。

 米国式の市場主義を、日本の医療市場に持ち込めば、堤氏が描いているような悲劇が間違いなく起こるだろう。それを阻止する道は、ただ一本だ。グローバル標準(米国基準)を信奉することをやめること。世界中の金持ちに都合がよい「グローバル標準」というまやかしに騙されずに、「日本のことは日本が決める」と明確に主張することだろう。
 ふたたび日本の政治を変えなければならない。聡明な官僚は多くはないけれど、日本の未来を憂えている人間は存在している。彼らと共闘して、農業や医療の分野に、間違った国際標準という「トロイの木馬」を導き入れさせないことだ。そのための時間は少ない。

 堤さんのライティングスタイルに、ひとことだけ。ルポルタージュ風の記述は面白いのだが、もっと詳細なデータを示して読者を納得させることが必要だ。米国の医師たちの困窮や保険会社の収益源を、もうすこし具体的なデータで補足してほしい。米国の制度に関して使用されたデータは、すべてマクロ統計である。
 データによる説得には、修正を施した二次データが必要に思う。たぶん、彼女の主張はほぼ正しいだろうから。ちょっと不満が残ったのはその点だけである。日本版は、どうなっているのだろうか?