「ナチュラルローソン、有機探訪記」: 有機食品のMDと表示に関して、ナチュラルローソンが日本でもっとも優れた管理がなされている

 小川研究室では、有機農産物の表示について、調査を継続している。昨日は、アシスタントの青木恭子とふたりで、ナチュラルローソン市ヶ谷店まで足を運んだ。有機農産物加工品の品ぞろえと表示(認証マーク)をチェックしてきた。市ヶ谷店はかなり狭いので、青木は単独で三番町店まで行き、さらに追加で調査してきてくれた。



 以下は、ナチュラルローソンの有機食品、品ぞろえと表示に関する「青木レポート」(2015年5月8日夕刻)である。市ヶ谷店は、わたしが見たところ、ほぼパーフェクトの品ぞろえと表示だった。
 ただし、その後に三番町店を訪問した青木によると、ケチャップなどの調味料の棚に、大手加工食品メーカー(K社)にみられるような「有機もどき」が3点ほどあったらしい。
 「有機認証度が、少しだけ下がってしまいました」(青木さんからのメール)。

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ナチュラルローソンの「有機」「オーガニック」商品 店頭観察報告
 2015年5月9日 By 青木恭子(リサーチアシスタント)

 小川研究室では、2014年秋から、「オーガニック」「有機」と表示してあるが有機認証マークのない加工食品、化粧品、パーソナルケア用品等について、小売店頭調査を実施している(「どこまでオーガニック」調査、東京都内)。調査の過程で、「ナチュラルローソン」では「オーガニック製品のプレゼンスが高く、しかもきちんと認証マークが付いている」という印象を受けた。そこで、実態確認のため、2015年5月9日、店頭観察に出かけた。対象店舗は、千代田区内の市ヶ谷駅店(地下鉄駅改札近く)、三番町店(内堀通り沿い、オフィスビルの一角)である。

 ●化粧品、パーソナルケア
 化粧品やパーソナルケアでは、食品における有機JASに当たるような、政府が管理し違反に罰則が伴うような認証規格はないため、主に海外の有機認証表示を確認していった。
 両店とも、入口入ってすぐのコーナーに、化粧品が配置されている。まず、ドイツのロゴナのオーガニック・ヘアケア製品が並べられているのが目を引く。パッケージ正面に、欧州の主要有機認証の一つNATRUE(ネイトゥルー)とBIOのロゴが並んでいる(ロゴナは、NATRUEの設立メンバー)。三番町店は店舗が広く、製品と同じグリーンで統一された「毎日の生活に確かなオーガニックを!Logona Basic 」というプレート(メーカー提供)が棚に取り付けられ、「オーガニック」が前面に出されている。
 その横には、Dr.ブロナーマジックの「オーガニックリップバーム」が吊られている。パッケージ前面に、「このロゴは、米国農務省(USDA)がオーガニック認定した証です。この製品は、100%天然成分で、その内98%がオーガニックです」と明確な説明があり、USDAの有機ロゴが付いている。
 また、たかくら新産業の「メイド オブ オーガニクス」も、歯磨き粉など複数アイテムが置かれていた。このブランドは、豪州の有機認証AOCのロゴ付で、有機成分の含有量を%表示(「96.5%有機」など)している。オーガニック度の低い洗浄液2点(72.3%、69.1%)以外は、AOCの有機ロゴ付だった。化粧品・パーソナルケア関連では、これらとオーガニックコットン2点を合わせ、計4点のみ、有機認証マークがなかった。もどきというより、恐らく、認証上、何らかの理由があるのだろう。
普通のドラッグストアでは、「オーガニック」とうたっていても有機認証マークのあるコスメやシャンプー等は皆無に近いが、ナチュラルローソンでは逆だった。

 ●飲料
 茶葉・コーヒー関連では、「オーガニック」という文字がある商品は5点あり、すべて認証付だった(ユニカフェのコーヒー、ルイボスティーなど)。飲料コーナー横のかごに入ったバナナ(メキシコ産)も、有機JAS認証品(エコサート)である。
容器入り飲料でも、有機をうたっている製品には、すべて認証マークがついていた。タニタ食堂の「黒烏龍茶」など「有機」3点は、有機JASの他に、USDA Organic と、ドイツのBCS OKO GAANTIEの認証マークがあった(原材料は中国産)。オーガニックハーブティー(無果汁だが天然香料、イタリア産有機ハーブ使用)やTAKANASHIの有機にんじんジュースも、ともに有機JASロゴがあった。

 ●菓子
 菓子コーナーでは、「チョコレート・オルガニコ」シリーズが目を引いた。スペイン産の70%カカオの有機チョコレート(ハンドメード)で、20gで346円と際立って高い。シャープで大胆な色使いの、四角い小さなお洒落なパッケージで、フレーバーごとにカラーが異なる。目の少し下、自然に視界に入りやすい位置に、ずらりと並べられていた。「サル・デ・イビサ」という塩味のチョコを買ってみたが、濃厚で個性が強い大人の味だった。1~2片(7gくらい)でも、満足するのではないか。

 ●調味料
 調味料コーナーでは、つゆ、料理酒、酢など11点「有機」と書かれた商品があり、認証マークがないのは、そのうち4点だった(一番町店)。うち3点はケチャップとソースで、同じ企業の製品である。食品スーパーの店頭を回ればわかるが、ケチャップとソースの棚は、優良誤認を誘うような紛らわしい「認証なし有機もどき」商品と、有機認証品とが入り乱れて戦う、「有機」表示の主戦場である。「ナチュラルローソン」においても、調味料関連は、最も有機認証品率が少ない分野であった。

 ●まとめ
 「ナチュラルローソン」は、東京都心を中心に、116店(2015年3月現在)展開している。現状では都心に限られ、製品も海外産または輸入有機原料のものが主とはいえ、今後、「身近に」(わざわざ混雑する繁華街の専門店まで出かけなくていい)、「確実に」(もどき的な変な有機はほとんどなく、セレクトされた認証品が、売場で分かりやすく示されている)、オーガニック製品を手に入れることのできる、ユニークなチャネルになっていく可能性がある。
 さらに、オーガニックに限らないが、松山油脂(基礎化粧品)、フルッタアサイジュース等々、カテゴリーごとに、特定ブランドが複数ライン並べて打ち出されており、「ナチュラルローソンとして、このブランドを押す」という意思が感じられる。中でも有機は、カテゴリーを横断して重点が置かれており、企業としてコミットメントの姿勢がある。PBは少なく、売場全体にメリハリがきいている。楽しい品揃えで、滞留時間が伸びそうである。
 価格設定は、コンビニとしてはかなり高い。いくら有機でも、果たしてこの値付けで売れるのか?大丈夫だろうか?客が、コンビニで、お弁当と一緒に有機や自然化粧品を買うだろうか?と訝らないわけでもない。しかし、思い起こしてみれば、私自身、青山店で、お菓子と一緒にmatsuyamaの保湿クリーム(1,700円)を買ったことがあった。「ナチュラルローソン」に置いてある有機やナチュラル系の製品は、特別にとんがったものというより、どちらかというと、既に他のナチュラル系のチャネル、物によってはスーパーやドラッグストアにもあり、ある程度実績のあるブランドが多い。コンビニで手に入るなら、買う人も出てくるかもしれない。
 一定のポリシーとセンスで選択された食と健康に関わる多様な品々が、生活圏内で、買物のストレスなく手に入る。そういう環境系のセレクトショップ的コンビニとして、「ナチュラルローソン」は、ユニークな試みである。

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 以下は、青木さんの個人的な印象記である。一緒にセブン‐イレブンやナチュラルローソンの店を見て歩きながら、二人で話し合った。それでも、こうして報告書の形でまとめてもらうと、なかなか含蓄があるレポートになっている。

 ●個人的感想(=「有機」調査報告外付記)
 個人的には、コンビニは、どこもおでんの湯気などが入り混じった、生暖かいこもった特有の匂いがするうえ、生鮮野菜等が放つフレッシュな香りや感覚的刺激に欠けるため、食物を買う気が萎えてしまう。食品は工業製品で、有機農業者の久松達央氏の表現を借りれば「エロく」ない。そのため、可能な限り利用を避けてきた。
 比較のため、近くのセブン-イレブン(市ヶ谷靖国通り店)に入ってみたが、有機の商品は、1点も見つけることができなかった。セブン-イレブンは、効率と利便性の支配する厳しい世界で、遊びがない。「有機」がイメージとして象徴する、多様性やスローな世界観とは両立しにくいように思う。
 狭い店内の数センチ単位の棚で目立ち、POSではじき出されないよう、メーカーは短いサイクルで目先の新商品開発競争を余儀なくされたうえ、PBに協力して流通に生殺与奪の主導権を握られていくのが、コンビニの世界である。熾烈な競争の背後にはデータがあるが、中長期的に自分(たち)が何を考え、どこに向かおうとしているのか、その思想は読めない。
 たとえばアップル製品の背後には、個人のビジョンと美学とコミットメントがあり、製品はビジョンに沿ってデザインされ、買う人たちは、そこに共感し、自己同一化して購入している(らしい)。コンビニは、生活に最も近い存在ではありながら、長期的なビジョンとデザイン思考を持って、生活に関わっていこうというような方向性を感じられるコンビニは、今までなかったのではないか。
 「ナチュラルローソン」では、POSのコンビニの世界では棚から駆逐されそうな、どう見てもすぐには売れそうにないが、ポリシーのある品々が、売場の各所で堂々と打ち出されている。ローソン全体の中ではパイロット的位置づけと思われ、収益性(事業としての持続可能性)についてはわからないが、価値ある実験だと思う。ナチュラル系のメーカーの立場からも、上下ではなく、横の関係で組めたり、ブランドのメッセージをうまく消費者に届けてもらえるようなチェーン店の存在は、大切なのではないか。
 一市民としては、コンビニに限らないが、メーカーが、大手流通企業に対して従の立場に置かれていくのを見るのは、心地よいこととではない。PBは、結局コストパフォーマンスで買ってしまうが、あまり楽しくない。要するに、背後に力関係が支配していて、関係が対等でないのは、おもしろくない。そういうチェーン店で、フェアトレードの認証商品が置いてあっても、精神が形骸化しているようで、積極的には買いたくない。
 時代がどういう方向へ向かって動いているのか、企業が、同じ時代に生きる人々とどういう関わりを持とうとしているのか。企業活動の背後に、そうした問いかけがあるかどうか。また、そういう問いかけを日々重ねている個人の存在を、企業が認め、裁量を与えているかどうか。そうした姿勢の全ては、店頭のいたる所で、自ずと表現される。スタッフの受け答えや身のこなしの中にも、自然と反映されていく。顧客もまた、そうした問いかけの痕跡を、日々、店頭で感じ取っているのではないだろうか。
 そういう意味でも、最近の「ナチュラルローソン」は、コンビニというものについての既製観念を超える、新しいコンビニ体験だった。この実験の精神が、流通のメインの部分にも浸透していくことを願っている。

(法政大学経営大学院小川孔輔研究室・青木恭子)