長ったらしい表題だが、文科省の研究助成プロジェクトが採択されたということである。今年から3年間、約1980万円の研究補助金をいただけることになった。日本企業のアジア進出がテーマである。共同研究者は、これまでも科研費プロジェクトでチームを組んできた8人である。
このメンバーに、昨年度まで同志社大学ビジネススクールにいて、今年から西安交通大学の客員教授に就任した林廣茂氏が加わる。中国など、海外の共同研究者も数人を予定している。林人脈である。
日本企業がアジア市場に進出するにあたって、国内のビジネスモデルをどのように変容させて現地に適応しているのか。その実態を理論化するために、マーケティングの側面から実証研究をしてみようと考えている。
法政大学(小川、岡本、並木、竹内、酒井)を中心に、一橋大学(古川、松井)、学習院大学(上田)、筑波大学(西尾)の教授陣からなるチーム編成である。これまでも科研費研究で一緒だった専門家を、プロジェクトメンバーに加えている。
実質的には、小川、林(西安交通大学)、青木(リサーチアシスタント)が中心となって、全体の研究を進めることになるだろう。
さっそく来週の4月18日に、京都で林さんと打ち合わせする。そして、5月のキックオフに備える。今年度から3年間は、アジアでの調査旅行が多くなるだろう。
文部科学省に提出した「企画提案書(短縮版)」を、以下に添付する。採択された公式の計画書は、文部科学省のウエブページに、いずれアップされることになるのだろう。
よくわからないのは、採択されたプロジェクト(基盤研究B)で支払われるお金の使い方である。間接経費といって、大学に「召し上げられる」経費が全体の20~30%ほどをもある。そのうちの20%は、メリット助成金(科研費連動金)として再度、わたしたちに還流してくる。なんとも複雑な会計制度である。
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研究の目的
2010年代に入って、日本企業のアジア進出はさらに加速している。アジアの全域がいまや、日本企業にとって、生産組立拠点だけでなく、最終消費地としての性格を強めている。アジア展開への関心は、大企業だけのものではない。中小企業がグローバル戦略を考える上で、あるいは、地方都市とアジア市場の結びつきという観点からも、アジアへの市場展開の意義は重要性を増してきている。
今回の研究では、「日本企業のアジア市場での事業展開とマーケティング実践の理論化」をテーマに、企業の「実践の実態」のリサーチに主眼を置く。そして、日本企業のマーケティングの実態を踏まえて、現地日本企業のマーケティング戦略の立案過程とオペレーションの類型化を試みる。そのうえで、マーケティングの技術移転に関する理論化を目指す。
アジア諸国における日本企業のマーケティング活動について、各国での実務的な活動の実態を把握することは、体系的な枠組みを構築する基礎になる。そして、実践上の問題意識や理論的なパラダイムを共有することで、単に学界内だけではなく、現地市場で長年にわたって試行錯誤を重ねてきた経営者やマーケティング実務家をはじめ、ビジネスの現場に対して有益なフィードバックを提供する。
研究実施計画
<全期間>
(1)理論構築面での研究課題
アジア諸国における日本企業のマーケティング実践を理論的に整理する際には、われわれは、ふたつの理論モデルに依拠することができる。ひとつは、小川・林(1998)による、国際経営論の概念を応用したマーケティング技術移転モデルである。われわれは実態調査により、このモデルの有効性を検証する。もうひとつは、ホフステッド(1980)らが提起している「消費文化類型モデル」である。消費のパターンの相違を「文化的な前提」の違いにより説明するものである。消費文化類型モデルをアジアでのマーケティング実践の分析へ応用することを、研究課題の一つとする。理論構築には、英文と中国語の広範囲な基礎文献調査が必要になる。共同研究メンバーは、それぞれの分野別に、専門的かつ多角的な観点から(マーケティング戦略、市場調査、消費者行動論、広告コミュニケーション論、環境マーケティング論、ブランド論、流通チャネル論など)、既存理論との関連性を研究する。
<平成24年度の計画>
(2)実態調査の課題
アジアの国々に進出している日本企業と、日本の製品・サービスを受け入れている現地企業の経営実態を知ることが初年度(平成24年度)の作業課題になる。実態調査は、3つの視点から分析される。①国別の研究課題、②製品カテゴリー別の研究課題、③マーケティング機能別の研究課題である。初年度(平成24年度)は、とくに①「国別の研究課題」を中心に、プロジェクト参加者が、国別に事例を報告する場を設ける。同時に、海外の事例を日本人のアジア現地担当者と研究協力者によるセミナーを開催する。そのために、ヒアリング(現地担当者)と、海外数カ国での現地調査を実施する。
①国別の研究課題
例えば、中国、韓国、台湾、タイ、シンガポールなどの国別に調査を実施して分析する。トヨタ自動車、資生堂、サントリー、ファーストリテイリングなどをはじめとする日本企業をアジア横断的に調査する。
初年度の研究実施目標は、次の5つになる。
1、アジア諸国での事例整理(文献調査:リサーチアシスタントと大学院生)
2、アジア進出企業の本社担当者ヒアリング(研究チーム分担)
3、各国別の現地日本企業への訪問インタビュー(メンバー各自が分担)
4、日本人研究者によるミーティング(2回ないしは3回)
5、海外協力研究者とのセミナー(初年度は、研究拠点の法政大学)
<平成25年度・26年度の計画>
平成25年度には、インターネット調査と観察法、現地調査によって、消費者調査を実施する。現地のマーケティング実践を、ブランドマネジメントと広告コミュニケーション、販売促進活動の「標準化・現地化」の観点から調査し、ブランド移転や市場競争戦略、店舗でのマーケティング活動の実態を分析する。実証面での研究課題としては、平成25年度は、②「製品カテゴリー別の課題」:例えば、自動車、電子機器、化粧品、食品、流通、サービスなどの比較研究を行う。
平成26年度には、③「マーケティング機能別の課題」:例えば、製品戦略、広告コミュニケーション計画、流通チャネル政策、価格設定、消費者調査法、セグメンテーション施策など、機能別の国別比較研究を重要テーマとして設定する。
平成25・26年度は、学会と一般企業向けの公開セミナーを開催することを予定している。各国事例については、専門誌(マーケティング・ジャーナルなど)や海外ジャーナル投稿も視野に入れる。
平成25~26年度の計画は、したがって、以下の11項目になる。
1、海外の事例報告(25年度、26年度)
2、進出企業の現地担当者へのヒアリング(3年間継続)
3、各製品分野別・マーケティング機能別の比較研究(平成25、26 年度)
4、IT、流通の関連研究(3年間継続)
5、消費者調査と海外における企業の環境対応(平成25、26年度)
6、広告/販促関連素材の分析(平成25年度)
7、日本の大衆文化(アニメなど)のアジアへの移転(3年間継続)
8、国内公開セミナーの開催(平成26年度)
9、国際セミナーの開催(平成25年度)
10、学会誌への論文投稿(平成25、26年度)
11、海外事例の商業誌への発表(平成25、26年度)