日経MJの2015年2月15日号に掲載された記事を掲載する。今回は「日高屋」の経営戦略についてである。
法政大学経営大学院教授 小川孔輔
もうけ追わず社員に厚く
ラーメン店「日高屋」を展開するハイデイ日高は前期まで12期連続増益を見込む。売上高営業利益率が12%を超える(2014年3~11月期)高収益の秘密は逆張りの経営にある。賃料が高い駅前の一等地に出店。場所も駅ビルの1階を狙う。一方で、年間30店舗程度に新店の数は抑え、首都圏から外に出ようとしない。その独特な経営哲学と成長戦略を紹介する。
無理なスピード経営でサービス品質を低下させ、顧客の信頼を失う企業が増えている。代表例が日本マクドナルドだ。健全に運営されているサービス組織は、緩やかな成長と慎重な出店戦略を組み合わせている。
神田正会長(74)が創業したのは1973年。上場後1度だけ減益に見舞われたが、ライバルの外食が急成長をする中で一貫して緩やかな成長を志向した。出店エリアも首都圏に限定。新店は年30店舗程度(全360店舗)にとどめている。
第1の理由が、店舗を急拡大すると店長の育成が追いつかなくなるからである。出店を急ぎ過ぎると、立地の選択で「外れ物件」をつかむ確率も高くなる。外食では、閉店コストが意外に大きい。「出店候補地はマクドナルド撤退後の居抜き物件を優先しています」と、神田会長から伺った。「マクドナルドがあった場所なら、市場調査が済んでいるから」なのだそうだ。
拡大路線を自制する2番目の理由は、短期的にもうかりすぎることが経営に「マイナスの影響」を与えるからである。日高屋は短期間の利益の増加分は従業員の賞与として配分する。人材育成や待遇面の改善に資金を投じることで、長期的にサービスの生産性や品質が上昇していくが期待できる副次的効果もある。
出店地の選択に関しても、日高屋は逆張りの経営をしている。大手外食チェーン、特に居酒屋チェーン店では、出店コストと賃料を低く抑えるため、やや奥まった場所やビルの上層階に店を出す傾向がある。しかし、日高屋はあえて賃料が高い駅前の一等地に出す。しかも通行客が多い1階のフロアを狙う。その逆張りの論理は以下のようなものである。
日高屋の店舗は、「多毛作経営」(1日13~15回転)である。神田会長自らが街角に立って市場調査をするときは、朝、昼、午後3時、夕方、夜9時、深夜の時間帯別に客層の違いを見るという。駅前の一等地なら、学生向けのランチタイム、サラリーマンのちょい飲み需要、深夜のタクシー運転手の空腹を満たすラーメン需要まで、異なるメニューで多様な客層を取り込める。24時間営業だから、高い賃料は容易にカバーできる。
1号店をJR大宮駅近くの繁華街に開き、その後、JR京浜東北線沿いに1店舗ずつ店を増やしていった。点から線への展開である。通常のドミナント戦略では、沿線を制覇した時点でエリア展開は終わる。ところが、日高屋の逆張り方式にはその先があった。東口に店を構えている駅で、西口にも出店を始めたのである。乗降客数が多い駅では北口や南口にも出店。新宿のようなターミナル駅には7店も出店している。つまりは、線から面に店舗を展開する方式を編み出したのである。
稠密(ちゅうみつ)なドミナント出店が成立するのはメニュー構成が時間帯別に編成されているからである。来店客の生活動線上に店があるので近い店舗同士でも顧客を奪い合うことがない。稠密に多くの店を出しているように見えて、共食いはしないのである。
<キーワードプラス>
ドミナント戦略:
小売業やサービス業で、一定地域に多くの店舗を出す戦略。店舗ブランドの認知度が高まると、店舗数のシェア以上に顧客ロイヤルティーが高まり、エリア内での売上高シェアがアップする。出店密度が高まると、ロジスティックや店舗管理面でも有利になる。