ブランドが老いるとき: アバクロンビー&フィッチから伝説の経営者マイク・ジェフリー氏が離れる

 「ビジネスウイーク」が1月26日号で、アバクロの特集を組んでいた。中興の祖マイク・ジェフリーがA&Fを離れることが決まったからだ。伝説の経営者といえど、ジェフリー氏も70歳の老人だ。裸の若者文化をけん引していくのには無理がある。特集号のタイトルはそのものずばり、The Aging of Abercrombie&Fitch(老いていくブランドA&F)。



 ふたりのジャーナリスト(Susan Berfield、Lindsey Rupp)による署名記事のタイトルは、”Holding on to Relevance: Behind the decline of Abercrombie & Fitch and the fall of its mastermind, Michael  Jeffries.”である。
 米国人の雑誌記者たち(ライター)は、ずいぶんと思い切ったタイトルをつけるものだ。日本のジャーナリズムならば、訴訟沙汰で引いてしまいそうなリード文である。あまり上手ではないが、メインタイトルとサブタイトルを直訳すると、「延命はできるのか?天才経営者の失墜とアバクロ帝国の凋落」とでも訳すのだろうか。

 アバクロンビー&フィッチは、日本のビジネスでも不調が伝えられている。米国でもつぎつぎと不採算店を閉じている。もしかすると日本からの撤退も時間の問題なのかもしれない。あまりいい話は聞こえてこない。一世を風靡したブランド(A&F)ではあるが、明らかに米国人の若者に飽きられている。
 A&Fは、米国最大のアパレル・コングロマリット「リミテッド」が買収したブランドである。実は100年以上の歴史を持つブランドで、ヘミングウエーなどの文豪も愛したブランドである。だからなのか、狩猟やフィッシングとの連想をもち、貴族的な感覚のアウトドア・ブランドのイメージが強い。

 ところが、その後、1992年にマイク・ジェフリーがCEOに就任してからは、オリジナルの高貴なブランドイメージを完全に断ち切ってしまう。オーセンティックな遺伝子は残したものの、イタリアのベネトンのように若者がターゲットで、なんとなく「スキャンダラスな」外皮が貼られるようになる。だが、初期のころのブランドイメージは、いまのようなものとは違っていた。
 リミテッドは、1996年にA&Fを株式公開する。当時の店舗数は125店。売上高は335億円(1ドル=100円換算)、最終利益は25億円だった。意外なのだが、このころのA&Fは、店員のドレスコードにきびしいブランドだった。男性店員の髭や刺青はご法度、女性店員はカラーネイルやジュエリーを身にまとうことがNGだった。そして、マイク・ジェフリーの成功は、大学のキャンパスを歩きまわって、イケメン男子を漁って(リクルーティングして)くるところから始まった。

 2000年代のはじめに、米国のショッピングモールにあったアバクロの店を見て驚いた経験がある。そこは、米国南部ニューオーリンズの店だったと思う。アパレル小売業としてありえない販売方法だった。若い店員が照明が暗いフロアで、セクシーに顧客に対応していた。
 Good-Looking(顔も体も美しい)が、これで商品は売れるのだろうか? わたしは、陳列されている商品にはほとんど興味が持てなかった。だが、アバクロは、2000年を過ぎるころまでは、破竹の勢いで快進撃を続けていた。

 ところが、2007年には一時期、少しの時期だけ復活を見せたが、リーマンショック以降(2009年から)は、ビジネスの低迷が止まらなくなった。2014年も昨年対比で、3つのブランドで総売上(40億ドル)は-14%である。
 そして、老いた伝説の経営者が、経営不振の責任をとって会社からいなくなる。実際は追い立てられて席がなくなる。よくある話だ。老いたブランドのほうは、どのようになるのだろうか?
 マイクがいなくなって、店舗でスプレイされるコロンの量(匂い)が25%削減された。派手なロゴもやや地味めに変わったそうだ。まだ確認していないが、これほど高額で若いブランドとしてポジショニングされてきたブランドが、伝説の経営者を失って老いていくときに、どうにかなりそうな処方箋はあるのだろうか?