<恵存>(けい・そん)は、(けい・ぞん)とも読むらしい。大辞林によると、「お手元に保存していただければ幸い」の意味。自分の著書などを贈るときに、相手の名のわきや下に書き添える語として用いられる。わたしは、文字づらが美しいのと、他の方があまり使わないので、この言葉を添えている。
「この文字(恵存)はどのような意味ですか?」と、いつもサインをした相手にたずねられる。たまに、その意味を書いておくのもいいかのなと思い、ここで記録に残しておく。
そばに置いてある本(存)が、あなたに幸せ(恵み)をもたらすことを願いつつ、進呈します。というくらいの意味で書いている。ふつうは横書きで二文字とする。二文字単語であるから、贈呈先の相手の名前(3~5文字)やわたしの名前(4文字)の邪魔にならない。微妙な感覚なのだが、三段で「恵存」と「相手の名前」と「著者名」、そして、その日の日付を並べてみたとき、絵図(デザイン)も悪くない。
表意文字としての漢字は、たいてい隠れた意味を持っている。「恵」には、心(したごごろ)がついている。「存」は、家の中’(囲い)に子供(子)が安全に守られている様子を表している。
そこまで深く考えて、この漢字を自著のサインに使用しているわけではない。だが、結果として、書き手の筆を注視している、献本の相手にはそのような意味を伝えていることになる。漢字とは、おもしろい性質を持っている。
他方で、表音文字としての「恵存」は、訓読みでは、「めぐみて、あれ」となる。そして、漢字を後ろから逆に読んでいけば、恵存は、「そんけい」とも読めてしまう。発音の響きは、ふたつの意味を伝達することになる。連想する後は、もちろん「尊敬」という漢字である。
具体的に、サインの実際を見てみよう。そのことが実感できるはずだ。わたしが最後に献本した相手は、誰だっただろうか?
書籍の扉頁か、裏表紙に、、、
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恵 存
佐藤 元 様
いつも著書をご購入いただき、ありがとうございます!
小川 孔輔
2015年2月28日
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