反日の不都合な真実

 韓国から帰国したばかりの林麻矢さんから、旦那さんの林廣茂氏(同志社大学元教授)のフェイスブックの記事を送っていただいた。ご夫婦は所用で、反日デモ真っただ中のソウルに2日間滞在していた。林さんの印象記である。「あー、そういうことだったのね」と納得できる点が多々あった。

    
 オリジナルのFB記事をうまく再現できないので、麻矢夫人からいただいたテキストをそのまま張り付けることにする。
    
 <林さんのFB記事>
 2019年7月22日 
 20日午後に目撃したソウル市世宗大通りでのデモ隊。「韓米同盟強化、文政権の反日にだまされるな」。反日デモならぬ、反文政権デモに出くわした(写真参照)。
 韓国が反日一色だという日本のマスコミの一方的報道に注意。しかし日本が反韓一色だと韓国で報道されていないことにも注目。マスコミは、申し訳ないが、反日・反韓を強調しすぎる。
 韓国人は「日本との関係の本質をこれまで知らなかった、知らされていなかった。今やっと日本がなぜ怒っているのかを日韓国交正常化以来の歴史的経緯とともに理解しよう」としている。今回の輸出規制の意外な+効果だと思う。
 
 韓国人はこれまで、日韓の経済が密接不可分で、その「おかげで韓国はここまで発展してきた」ことを韓国政府やマスコミの「日本隠し」のせいでまったく知らされていなかった。そのため今それを知って、とても衝撃を受けている。今回の輸出規制の本当の効果はこれかもしれない。
 日本商品不買運動は「天つば」だと、有力紙『朝鮮日報』『中央日報』も国民にしっかりと伝え始めた。アサヒビールやユニクロの売り上げが下がっているし、日本への旅行者は激減しているが、本当の日本商品不買はサムスンの電子機器や現代の自動車を買わないことではないか。そうなれば韓国人の豊かな生活がなくなってしまう。ブランドはサムスン・現代だが、中身は日本製、製造機械も日本製。そのサムスン・現代が売れて、韓国人の豊かさと同時に日本企業に貢献している。
 不買運動そのものが自家撞着だ。やっとこんなまともな議論が韓国で今進行中。
  
 <小川のコメント>
 日本製品の輸出規制を受けてはじめて、韓国民が自国の経済の成り立ち(日本の製造技術や素材への依存)を知ることになった。そのことを韓国人がほとんど知らなかったという歴史的事実にまずはびっくりした。日本人のほとんどはそのこと(韓国人が日韓の経済システムの依存性を知らないという事実)を知らないだろう。わたしもまさかと思っていた。
 しかし、わが経験を振り返ってみると、林さんが指摘しているように、そんなこともあったと得度することがある。たとえば、20年ほど前、現代自動車やサムスンがいまのようなグローバル企業に成長する前は、日本に「密使」を送り込んできていた。日本語が話せるコンサルタント会社から、小川研究室は何度か訪問を受けた。
 というのは、わたしがトヨタ自動車の市場調査や商品開発のアドバイザーをしていることを、韓国人のコンサルタントが知っていたからだった。花王や電通などとの共同プロジェクトも動かしていたから、わたし程度の実務知識でも彼らにとっては多少は役に立つと考えたのだろう。執拗にコンタクトをとってきた。
 
 20年前の韓国は、日本の技術を直接的・間接的に転写して借用していた。韓国の産業を近代化して発展させたのは、日本からの学びである。その姿は、70年前に日本が欧米から商品や生産技術をコピーしてきた形をほうふつとさせた。それはそれでよいのだが、20年を経過しても、結局は精密部品や製造設備を日本に依存していることが露見したわけである。
 ずいぶんと遅れて、韓国民は自国の経済の成り立ちについて真実を知ることになった。その調整の過程に、韓国民がいるということである。だから、「学習局面にいる韓国人を、日本のマスコミは、そんなに目くじらをたてて煽る必要はない」と林さんは主張している。
 わたしはマーケティング移転研究で、日本のビール会社の技術やブランディングが、韓国で「国産HITEビール」の発売につながったというケーススタディを発表したことがある(『当世ブランド物語』誠文堂新光社、1999年)。化粧品分野でも、いまやアジア有数の化粧品会社になった「アモレパシフィック」が、資生堂の技術とブランドづくりに学でいる。その移転プロセスに、林教授自身がコンサルタントとして関与している。
   
 日本人は意外に素直でオープンな国民だから、戦後の学習過程で当初から理解し共有していた。米国に多くを依存していたことは周知の事実である。韓国人はそれができていなかった。戦前戦中の日本との関係性から、戦後でも日本に経済的に依存していたことを認めたくなかったのだろう。
 その強烈な依存関係性は、日本憎しの韓国民から見れば、不都合な真実である。しかし、国民の共通認識としてその真実を共有する入口に、ようやく韓国民は立っている。そう考えると、日本人は彼の国に対してもう少し寛容になってもよいのかもしれない。真実がようやく白日のもとに晒され始めているのだと思えば、従軍慰安婦問題も徴用工問題も、いずれ解決することになるだろう。
 林さんのFBの記事は、無知な私にその真実を知らせてくれた。本当に驚きであった。