フリージアのお裾分け

 このブログは、『JFMAニュース』(2014年4月20日号)の再掲載である。ただし、JFMAから発表されているものは、多少編集がなされている。この文章のほうがオリジナルである。フリージアは、わたしがもっとも好きな花のひとつだ。とくにピンクとイエローが好きだが、好きな理由はその香りである。



「フリージアのお裾分け」『JFMAニュース』2014年4月号
JFMA会長 小川孔輔

 「石川県からお花が入った段ボールが届いていますよ」。
 一階の事務室から研究室に電話が入った。わたしの研究室は、経営大学院の同じ建物の6階の東南角部屋にある。エレベーターから一番遠い。もっとも奥まった位置にある。
 いつもならば、秘書の福尾(美貴子)が電話を受けて、一階まで荷物を取りに行ってくれるところなのだが、あいにく体調を崩して今日は休んでいる。自分で一階まで下りていって、台車で持って上がってくるしかない。締め切りが過ぎてしまった原稿を執筆中なので重い腰を上げた。やれやれ。

 事務室のカウンターで、横置きの段ボールを受け取った。表面に貼ってあるヤマト運輸の出荷ラベルを見ると、石川県農林総合研究センターの村濱稔さんからの荷物だった。
 村濱さんは、農学博士でフリージアや葉ボタンの著名な育種家だ。1月の欧州ツアーでは、一週間ばかりご一緒させていただいた。3月には、JFMAのアフタヌーンセミナーに登壇していただいている。いまや親しいお仲間さんである。
 1月の旅行では、フランスの展示会「メゾンエオブジェ」を見学したり、パリの町では花屋さんを12軒も一緒に巡ったりした。いつも一緒に視察旅行をする、デザイナーや花屋さんとは全然違ったところを見ている。その行動を見ているだけでとてもおもしろかった。ちがう仕事をもっているひとがひとりでもツアーに参加すると、異種混合の効果が出る。旅の楽しみがまた俄然増すものだ。

 さて、1Fの事務室に届いていた段ボール箱を開けると、フリージアのいい匂いが部屋中に飛び散った。
 わたしは球根切り花が好きだ。この季節は、わが家の庭でもチューリップ、ムスカリ、スイセン、フリージアが咲いている。春を告げる花には、球根切り花が多いのだ。とくにフリージアは、花と茎の形が楚々としている。花そのものがあまり強く自己主張しないので好感が持てる。
 事務室中に、すてきな甘い香りが広がった。新種の花が混じっているのだろう。見たことがない色彩の花が開いている。全部で200本近くに入っているだろうか。一人で楽しむにはもったいない。
 事務室には女性が5人いる。ここは、当然のことながら、お裾分けだろう。わたしからの申し出は、「どうぞ、好きなだけ持ち帰ってください。よろしいですよ」。

 バレンタインの時も、この5人にはお花を配っている。年齢も様々なのだが、小川先生が「花配り名人」であることはいまやよく知られている。だから、フリージアの箱を開けた瞬間、事務室の女性たちが、フリージアの花束に向かった熱い視線を感じた。ひとりに20本ずつ、フリージアを持って帰ってもらった。わたしは、研究室に50本ほど。
 考えてみると、旬の花は案外と安いものだ。今回は、花をいただいたのだが、こんな風に花市場で200本を「箱買いして」、お裾分けするビジネスはないだろうか?
 たとえば、わが義姉(妻の姉)などは、しばしば「コストコ」で飲料やパンをまとめ買いして、わが家に贈ってくる。ありがたくいただくのだが、この買い方は、お花でもあってもおかしくないよね。そう思ってしまった。
 そういえば、JFMAの金岡信康常務理事(バラ園植物場社長)が、「コストコ」にお花を納品していた。まだあのビジネスは続いているのだろうか?ならば、箱売りをいていたのかどうか?たずねてみたい気もする。