『チェーンストアエイジ』2015年2月1日号

 『チェーンストアエイジ』2015年2月1日号 特別企画製造小売業時代の売れる商品の作り方「製造小売化を進める小売業は、メーカーの商品開発プロセスに学べ!」を掲載する。
                    
近年、製造小売化を進めるチェーンストアが増えている。小売業自らが商品開発に乗り出すためには、企画・開発のノウハウを獲得し、商品開発の仕組みづくりを自前で構築しなければならない。そこで学ぶべきは、メーカーの商品開発手法や実際の開発事例である。


特別企画製造小売業時代の売れる商品の作り方
「製造小売化を進める小売業は、メーカーの商品開発プロセスに学べ!」 小川孔輔                   
『チェーンストアエイジ』2015年2月1日号
近年、製造小売化を進めるチェーンストアが増えている。小売業自らが商品開発に乗り出すためには、企画・開発のノウハウを獲得し、商品開発の仕組みづくりを自前で構築しなければならない。そこで学ぶべきは、メーカーの商品開発手法や実際の開発事例である。

第1節 小売業SPA化時代における商品開発の必要性
 近年、一部の食品スーパーが製造小売(SPA)化に舵を切っている。従来からあるナショナルブランド(NB)商品中心の品揃えだけでは、他社と売場や商品が同質化してしまうからである。また、収益性を高めるためには、仕入れ率が高いプライベートブランド(PB)商品を自ら企画・開発することが課題になってきたからでもある。
ただし、小売業自らが商品開発に乗り出すためには、従来から得意としてきた仕入れ機能とは異なる、「企画・開発のノウハウ」を獲得し、「商品開発の仕組みづくり」を自前で構築しなければならなくなる。そのためには、メーカーの商品開発の手法や実際の商品開発の事例に学ばなければならない。
ところが、その場合に参考になるのは、大手メーカーの開発手法やリサーチのプロセスではない。むしろ事業規模から言えば、中規模でローカルブランド(LB)を製造している、2番手、3番手の地方メーカーが取り組んでいる開発手法や事例が参考になる。小売業のバイヤーであれば、直感的に筆者の主張を理解していただけると思うが、それには論理的な根拠もある。
本稿では、そうした視点から、次の第2節において、大手メーカーで実施されている典型的な商品開発のプロセスを概観する。参考にするのは、拙著『マネジメントテキスト マーケティング入門』(2009年/日本経済新聞出版社)である。そのオリジナルの枠組みは、アーバン、ハウザー、ドラキアによる『プロダクト・マネジメント』(山中、林、中島、小川訳:1989年/プレジデント社)で展開されているものである。同書の枠組みはビジネススクールでも採用されている製品開発手法である。
続いて第3節では、教科書的な枠組みを土台に、地方の中規模メーカーがLBの開発で採用している商品開発のポイントを、開発ステップごとに見直してみることにする。その際に参考とするのは、水下智則氏の「プレミアムローカルブランドの導入方法と小売業のメリット」という論考である。

第2節 典型的な商品開発のプロセス
 メーカーが実施している商品開発の標準的なプロセスは、図表1のように進行すると言われている。これは、「教科書的なケース」と呼ばれているもので、ここでは便宜上、メーカー(開発者)の立場を、小売業(バイヤー、マーチャンダイザ―)の立場に読みかえて説明していくことにする。

<STEP①>:市場機会の発見
 まず、新しい商品を開発するには、「どのカテゴリーの商品に着手するべきか」を考えることになる。そのためには、①「開発アイデアと商品コンセプト」を探してきて、②「顧客ターゲット」を決めなければならない。さらなる考慮事項としては、③「着手すべきタイミング」と、④「市場選択の基準」を明確にすることである。

<STEP②>:製品デザイン
 商品のアイデアとターゲットがほぼ決まったら、消費者ニーズを探るためにリサーチを実施する。調査方法は、定性的な調査方法(グループインタビューや行動観察など)と定量的な方法(アンケート調査、市場トレンド予測など)に分かれる。これに技術的な情報を加味して、実際に製品をデザインしてみる。通常は、プロトタイプ(モデル製品)を試作してみることになる。
なお、製品デザインの段階で、どのようなタイプの情報を収集すべきかについてヒントになるのが、アイリスオーヤマ(宮城県/大山健太郎社長)が採用しているような情報収集の方法である。同社では、「商品開発会議」と呼ばれる企画会議に提出するアイデアを生み出すために、開発の際に頼るべきアイデアの情報源を6つに分類している(図表2)。

<STEP③>:製品テスト
 この段階では、生み出された商品とアイデアが実際に市場に受け入れられるかどうかをテストしてみる。「市場テスト」(顧客ニーズの受容性)の手法として、3つのタイプがある。
第1のタイプは、①「消費者使用テスト」と呼ばれるものである。開発者の周辺で、ターゲットとなる顧客に実際に使用してもらうことである。
第2のタイプは、①よりは費用はかかるが、よりフォーマルなものである。②「事前テストマーケット」と呼ばれるもので、前述のSTEP②で試作した「プロトタイプ製品」を、100~200人程度の顧客に、実際に近い購買状況(模擬店舗)でショッピングをしてもらう方法である。この場合は、価格水準や広告コンセプトを操作することもできる。
第3のタイプは、地域を限定して商品を販売してみることである。一般的には、③「テストマーケティング」と呼ばれている。小売業の場合は、テスト商品を販売できる実店舗を持っているので、自社で開発した商品は、地域や店舗のタイプを限定して、容易に販売してみることができるという強みがある。実際、食品スーパーのヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)は、新しいカテゴリーの開発商品(たとえば、弁当や生菓子)などを、大規模店舗の旗艦店(川越南古谷店、ユニモちはら台店、ワカバウォーク店など)でテスト販売している。
 
<ステップ④⑤>市場導入とライフサイクル・マネジメント
 限定的に販売してみて売れ行きがよいことがわかったら、全地域・全店に導入するのが、メーカーの「市場導入」(全国展開)に該当する。小売業のPB商品は、テストから市場導入までのサイクルが短いことがメリットである。また、自社のPOSデータと店頭プロモーション情報や販売関連データが、迅速にリアルタイムで入手できることが強みである。
ただし、それが強みであると同時に、大手メーカーの取組みとは違って、スケールメリットが出しにくいことが課題でもある。次節では、規模の経済性と情報の取得という観点から、小売業がPB商品を開発するに当たって留意すべき事項について考えてみる。

第3節 PB商品開発で失敗しないために
 第1節で述べたように、小売業のPB開発においては、中規模ローカルメーカーの「商品開発における強み」を考えてみることが参考になる(水下の視点)。なお、ここでは、商品カテゴリーを食品分野に限定する。衣料品や住居関連商品は、食品と比べてそもそもの開発のリードタイムが長くなるためである(最低でも、半年から1年)。そして、商品開発プロセスの前提条件、とくに技術や製造に関するコスト構造と情報やノウハウが大きく異なっている。
 PB商品の開発において、LBメーカーが食品小売業と組んでメリットを出しやすいのには2つの理由がある。商品開発の各ステップで、①「小回りが利くこと」と②「スケールメリットが出しにくいこと」の“デメリット”があるからである。
①小回りが利くことは、詳しく説明の必要もないだろう。中小規模のメーカーならば、組織の階層がシンプルである。開発担当者が経営トップであることも多いので、決断が速い。たとえ、大きな投資であっても社長ならば即決できる。
②「規模の経済が出にくいこと」がメリットになるのは、次のような事情から説明ができる。食品小売業の場合、多くのSKUを扱っている。たとえ、100店舗以上で商品を販売していても、1アイテムあたりの販売金額が億単位になることは、よほどのヒット商品以外は例外的である。対照的に、大手メーカーのヒット商品は、単品の年商が数十億円~百億円の大台に到達することもある。そもそも自社企画PBは、多くの場合は、スケールメリットが出しにくいのである。だから、最初から規模を追わない心構えと仕組みが必要である。

留意事項①地方の優良メーカーの強みを活用する
 ここで、中規模メーカーの強み整理してみよう。
中規模メーカーの強みは、図表①に示した商品開発プロセスのSTEP②の中にある。つまり、商品デザイン段階のことである。STEP③では、商品コンセプトに沿って、使用する原材料や配合割合の決定、風味の調整、賞味期限の設定等を行うことになる。
 その場合は、中規模で優良な食品メーカーは、4つの点で大手メーカーに対して優位性を持っている。すなわち、①モノづくりに対する経営者の情熱や探究心があること、②独自製法の保有・技術蓄積があること、③地域の新鮮な素材を活かした商品情報と開発技術を保持していること、④食品添加物や合成保存料不使用といった安全・健康への配慮などに強みがあることである。
この4つの点が、大手食品メーカーとの差別化にもつながっている。ということは、商品設計に関しては、ローカルな嗜好を配慮しなければならない食品分野で、PB商品をつくる小売業の側(たとえば、グロサリーや惣菜部門、日配部門など)としては、地方の中規模メーカーと積極的に開発面で取り組むメリットが大きいのである。

留意事項②開発人材の獲得と育成
 LBメーカーの弱みに着目することが小売業のPB開発の課題を克服するポイントになる。大手メーカーでは、STEP①の「製品コンセプトの策定」(アイデア創出と市場機会の発見)を最も重要と考えている。ここに、人材と資金を投じているので、大手メーカーの強みにもなっている。
水下(2012)によると、「大手が消費者調査や市場のトレンドを探るために物財を投入するのに対して、中小食品メーカーでは、マーケットイン型のコンセプト策定ができていない。その理由は、『①知識不足、②人材不足、③資金不足』という3つの制約が存在するためである」。
 食品小売業のPB開発でも、水下が中堅メーカーに対して指摘しているような弱み、つまり「不足状態」が存在している。③の「資金不足」は大手チェーンであれば、あまり問題はない。それでも、大手メーカーのように商品開発面でスケールメリットが出しにくいので、多額の資金を投じなくともパフォーマンスを高めるための工夫が必要である。そのための解決法が、「他組織との提携」である。その一例が、留意事項①で述べたような中小のLBメーカーと提携関係を構築することである。
 ①の「知識不足」(情報不足)に関しては、2つの解決方法がある。1つは、重点的に開発する特定分野に関して、開発の専門家をスカウトしてくることである。たとえば、アイリスオーヤマが家電分野に乗り出すために、パナソニック(大阪府/津賀一宏社長)やシャープ(大阪府/高橋興三社長)の元社員(技術開発担当)をスカウトしてきた事例が知られている。ホームセンターのカインズ(埼玉県/土屋裕雅社長)も、技術スキルが高い社員を商品開発のためにリクルートしてきている。小売業がSPA化した結果であるともいえる。
なお、欧米のチェーンストアでは、こうした人材(職位)を「テクニシャン」と呼んでいる。一大転職市場を形成しているのだが、最近では、テクニシャンを内部育成する動きが見られる。日本の小売業でも、POSデータや会員カードのパネルデータを戦略的に活用するために、リサーチ会社やコンセルティング企業から中堅社員を採用する傾向が見られる。

留意事項③従来からある開発のプロセス改善
 最後に、社内で「開発のプロセス」を改良することの提案をしてみたい。

提案①若手社員の登用
 小売業のバイヤーやマーチャンダイザーが、PB商品に関する情報収集を行うためのステップとして簡易な方法を考えることである。一般的に、バイヤーたちの多くは日常業務に追われていて、①商品発掘に費やす時間がない(時間不足)。そして、②アイデアを掘り起こすノウハウやルートがない(知識不足)という2つの問題を抱えている。それを解決するための例として、フットワークの軽い若手社員を中心に、プロジェクトチームを組織するという方法が考えられる。彼らに対して専門教育を行いながら、ノウハウの蓄積とルート開拓を行っていくのである。これは、社員教育とモチベーションアップという側面もある。

提案②商品リニューアルの工夫
 小売のPB商品は、とりあえずは開発ができるが、リニューアルを頻繁に行うことが難しい。その理由は、先に述べた3つの制約(知識不足、人材不足、資金不足)のためである。市場トレンドや顧客ニーズといった最新情報が更新できないために、せっかくのPB商品がすぐに陳腐化してしまい、結局は情報収集面で大手のメーカーに依存してしまうことになる。
この課題を克服するには、2つの取り組みが必要である。1つは、大切な情報の外部ソースを確保して、情報収集システムを構築することである。もう1つは、リニューアルに必要な「内部警報システム」を設計することである。現状では、あまりにも「古びたPB商品」が、売場に放置されているのを目にする。
また、商品改廃のための客観的な基準が必要である。さらに言えば、店舗をリニューアルする基準があるように、PB商品に対しても、「改廃のタイミングを示唆する」客観的な「基準値」を設定すべきである。これは、商品開発のステップでは、STEP⑤の「ライフサイクル・マネジメント」に対応している。小売業のPBでは、これがおざなりにされている傾向が強いのである。

提案③販売促進の企画
 小売業者にとっては、「プレミアムLB商品」が開発できれば、差別化の重要な手段になる。また、店舗ブランドの独自性を高めることができる。ところが、その場合の課題としては、商品開発と連動したプロモーション企画が綿密に練られていないことが挙げられる。せっかく、「この店でしか買えない魅力的な商品(プレミアムPB)」があるのに、PBであるがゆえに、大規模な広告宣伝ができないことが多いのである。
そのために、一般のNB商品に比べて知名度が低いままに終わってしまう。したがって、PBでは、インストアプロモーションに力を注ぐ必要が出てくる。PB商品は結局、とくにプレミアムPBであれば、商品の知名度を上げるプロモーションをセットで企画しなければ、売場に埋もれてしまいかねないのである。
 
 以上、3つの提案をして本稿を終えることにする。