安岡正篤(1945)『政体と日本天皇制』外務省(国立公文書館所蔵)

 天皇誕生日(12月23日)に、不思議な資料をネットでダウンロードして読んだ。終戦の年(昭和20年)に、外務省で50部だけ極秘に印刷された「天皇制」に関する意見書である。「平成」の年号命名者と言われる安岡正篤氏の文書である。国立公文書館所蔵の資料をネット検索して入手した。



 本文が20ページほどの手書きの文書である。安岡氏自身が万年筆で書いたものと思われる。表紙を開くと、仰々しく「天皇制研究第一号(部外秘)」と表題がついている。

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 天皇制護持の積極的合理的根拠に付 各方面専門家の協力を得て徹底的研究を進め居る所 本稿は金鶏学院々長安岡正篤氏より提出せられる意見なり

 昭和二十年十二月 
 外務省調査局第一課長

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 となっている。(「27ページ」から始まっているから、その前に文章があったものと思われる。)

 この文書そのものがおもしろい。吉田茂や佐藤栄作など、その後の日本政界を牛耳ることになる「ドンたち」のご意見番だったのが安岡氏である。敗戦後に、日本の政治をどのようにしたいと考えていたのかがわかる。現代文(漢字や表現が一部、旧漢字使用)にして、全文を複写して再掲したいと思う。
 全体は、二つの部分からなる。前半は、歴史的な哲学者(プラトー、アリストテレス、マキュアベリ)の思想を引き合いに出して、君主制(君主政治)と民衆制(民主政治)の優劣を比較している(「貴族政治」も比較にされるが、ほとんど議論の俎上には乗らない)。
 その他の政治哲学者(モンテスキューやトーマス・アキナス、ホッブスなど)も登場するが、結論は、君主制と民衆制のどちらが普遍的に優れているのかに答えはない。両者の優位が比較できないというのがオチである。(笑)

 というわけで、後半の「日本の政体」(つまり「日本天皇制」)についての議論が始まる。日本では天皇制が1000年以上も続いてきた。だから、天皇制の存続には根拠があるというのが、天皇制擁護の根拠である。
 実に単純な議論ではあるのだが、言われてみれば、武士軍団【鎌倉幕府や徳川幕府】が政権を握った時代にも、天皇は存続していた。そのなぜに答えているわけではないが、なんとなく説得力がある文章なのだ。
 この結果、この文章を根拠に、GHQが天皇制を存続させたのだろうと推測できる。