9月に翻訳出版をしたブラットバーグ著「顧客資産のマネジメント」について、学部のゼミ生に読書感想文を課した。2ヶ月に一回、恒例の課題図書に指定した成果である。
24人のゼミ生の約半数は、自分のアルバイト先を素材にしてレポートを提出してきた。彼・彼女なりに自分の仕事を、「顧客獲得」「顧客維持」「追加販売(関連販売)」のバランスという観点から見直すことができたようだ。中から、おもしろい事例をいくつか紹介したい。
<事例1>House of Rose のポイントカードの分析(村木さん)
ハウスオブロゼでは、特定化粧品シリーズの中で、”7種類以上”の商品を購買をしてくれた人に「特別優待券」を贈るらしい。その理由を村木友子さんは、以下のように分析している。トータルの購入金額ではなく、購入カテゴリーの広さ(アイテム数)に対して優遇しているわけは、
(1)金額とアイテム数の相関が高い(点数をたくさん買う人は購入金額も高い)
(2)たくさんの商品カテゴリーから購入しているひとは、メーカーに対する信頼が高い(全体としてメーカーを好きになってくれている:企業の主張に賛同してくれている)
(3)幅広い商品群を購入している人は深い商品評価情報を持っているので、こうした人たちを分析することは、企業が進むべき方向性をチェックする助けになる
(4)新商品の効率的な宣伝に使える。つまり、いろいろな商品を試すときのテスターになってもらえる(そのために優待券を優先的に配布する)
(5)ロイヤルカスタマーは、友人・知人に商品を「推奨」してくれる
教訓:「顧客との関係性は、量ではなく質で測定すべきである」(名言)
<事例2>ピザハットの顧客データベース管理(相馬さん)
相馬さんのアルバイト先(ピザハットの某ブランチ)が、KFC傘下の店舗で最優秀賞をもらった。その理由を、相馬絵里さんは自店の例をあげて述べている。顧客満足と維持活動のたまものである。
(1)電話を取ると(番号と連動して)、PC画面に住所・購入履歴がすべて表示される(データベース活用)、
(2)購入履歴によって購買傾向がわかるので、それをベースに顧客を対応する、
(3)コメント欄には顧客ごとに細かなプロフィールが入っている(例:ペッパーソースはふりかけない、ベジタリアンである、グリーンチリソースは多めにする、など)
彼女のレポートでおどろいたのは、実は、ピザハットで日本が世界でもっともデータベース活用が進んでいること。そういえば、日本のピザ宅配チェーンの地図情報利用もすばらしい。何の説明もなく、電話番号だけで配達してくれるから。
<事例3>アート引っ越しセンターのリピート顧客獲得(松田君)
引っ越し業界では、昔と違って「リピート顧客」が大幅に増えていることを指摘。新規顧客の獲得よりは、リピート顧客(初回顧客)のサービスへの満足度が長期的な事業の成功を決めていることを述べている。背景にあるのは、引っ越しは価格ではなく、実はサービスの室で選ぶという消費者の態度の変化。松田君の経験では、アート引っ越しセンターの良さは、見えないけれど細かなサービスにある。たとえば、引っ越し先の家に到着した作業員は、靴下と制服を着替てから仕事に取りかかるなど。時代は、サービスの質を重視する方向に変わっている。