街が狭いことはいいことだ! 賑やかさを演出する方法

 昨日の大学院の演習で、「温泉街の活性化」について大学院生(瀬良昌宏さん)から報告があった。瀬良さんの生まれ故郷でもある「湯原温泉」(岡山県真庭市)に、賑わい取り戻すにはどうしたらよいか?がプロジェクト・テーマである。その場で、おもしろい議論があったので紹介する。



 瀬良さんは、地元で旅館組合長をしている幼馴染に、自分の研究テーマを話して「温泉街再生プロジェクト」への協力を呼び掛けている。そして、先週から今週にかけて地元で旅館を経営している知り合いの数人に、長電話をしたらしい。そこで、ひとつのことがわかった。
 幼馴染の組合長さんは、「湯原温泉」のベンチマーク(好敵手?)として、九州大分県の「黒川温泉」と「由布院温泉」を挙げていたらしい。よくあることなのだが、世間から高く評価されている競争相手に対する微妙な批判(妬み)の表明だった。黒川温泉は露天風呂めぐりや町並みや看板などを「黒」で統一したなどで有名だが、「湯量そのものはそれほど豊富なわけでないぞ」と言いたかったらしい。

 瀬良さんが組合長さんのコメントを紹介したところで、一緒に演習を担当している講師の大久保あかねさん(常葉大学教授)が、黒川温泉の成功について解説をしてくれた。大久保さんは、サービスマーケティング、とくに観光業などが専門である。
 彼女に説明によると、黒川温泉が成功したもうひとつの要因は、街そのものがコンパクトにできていたからだったらしい。宿泊客が黒川温泉で複数の露天風呂を巡り歩けるのは、町が小さくて道幅も狭いからである。道路の拡幅工事ができなかった(しなかった)ことが観光にはプラスに作用したという。
 道路(通路)が狭いことは、必ずしもマイナスではない。宿泊客が短時間で町を気楽に散策できるだけでなく、「賑わいを演出する」という副次効果があるのだった。
 その別の解釈を、同じく演習を担当している平石教授が、京都の町(祇園祭が開催中!)が「賑わって見える理由」を、街の小ささと路地裏などの道幅の狭さで説明してくれた。街並みの保存などを考えると、やたらと拡幅工事をすべきではないのだ。

 そういえば、わたしたちが、これまで10年間共同で主宰してきた幕張の「IFEX(花と緑の国際展示会)」で同じような体験をしている。共同主催者のリードジャパンは、この点に関してはかなりスマートな会社である。
 実は、幕張メッセ会場の通路は、「出来るだけ狭く」設計しているのだ。通路幅が広い方が歩行者は歩きやすい。だが、狭い方が混雑していて、会場にたくさん人がいるように見える。つまりは、会場を狭く作ることで、展示会が賑わっているように見えるからだ。
 観光地も展示会場も同じである。人間工学的には、ゆったりと作ったほうがよさそうなものだが、人間心理はその逆である。コンパクトに作った方が、いい場合もあるのだ。