マラソンを走るとき、いつもレース前にバンテリンを塗布している。今朝は、「バンテリン ゲルLT(35G)」(興和製薬)のストックが切れたので、補充しようと思った。乗換駅でドラッグストアFに寄った。「バンテリンはありますか?」と男子店員さんにたずねると、おどろきの答えが返ってきた。
わたしが棚を見て商品名をあげるなり、「バンテリンは効きませんよ!」との彼は答えた。
「えっ?」とわたしは息をのみ込んだ。そんな説明をしてくれた店員さんに遭遇したことがない。直接的な反応だった。つぎに来るのは、たぶん「筋肉の痛みに(バンテリンより)もっと効く塗り薬があります。それは、当社PBの(あるいは、もっと安価な会社の)商品で、、」。
一瞬、わたしは不機嫌になりそうだった。すぐに気を取り直して、「バンテリンをください!」とカウンター越しの店員さんに、アドバイスを無視して頼んだ。彼は、とくに反応することもなく、黙ってわたしの手にバンテリンを渡してくれた。
バンテリンには、「ゲルタイプ」と「クリームミーゲルタイプ」がある。「そちら(ゲル)を」と、わたしは欲しい方のゲルタイプを指差した。価格は税込みで1300円ほどである。その場は、何事もなく一件落着したように見えた。
午後になって、研究室でネットからF社が扱っているインドメタシン入り「局部浸透剤(消炎剤)」のブランドとその値段を検索してみた。ドラッグチェーンFのHPサイトにアクセスして、「インドメタシン」を検索すると、何点かインドメタシン局部浸透薬のリストが出てきた。たくさんの会社の商品を扱っているわけではないようだ。
1【第2類医薬品】小林製薬 アンメルシン1%ヨコヨコ (80mL)
販売価格(税込)1,522円(税込)
2【第2類医薬品】【特売セール】 興和新薬 バンテリンコーワ液W (90g)
販売価格(税込)1,970円(税込)
3【第2類医薬品】興和新薬 バンテリンコーワゲルLT (35g)
販売価格(税込)1,231円(税込)
4【第2類医薬品】ハピコム ディアトロンL (80mL)
【送料無料】 販売価格(税込)717円(税込)
店員さんが売り込みたかったのは、たぶん4番目のものだったのであろう(717円!)。わたしは推奨トークを聴きたくなかったので、無視してしまったが。たしかに、薬効的には、100グラム中のインドメタシンの量は変わらない。商品の値段だけを見ると、「アンメルシン」や「バンテリン」より、「ハピコム」のほうが圧倒的にお買い得なのだ。それはわかる。
しかし、わたしは基本的に、「スイッチ推奨行為」はきらいなのだ。製品を選ぶとき、大手のドラッグストアチェーンでは、しばしばPBのジェネリックを勧められる。NBと同じ効能を持つ安価なPBを奨めてくるのはいやなのだ。
ドラッグストアMなどにも、以前はそうした店員がいた。だが、いまでは消えてしまった。チェーンFでは、まだいたのだった。顧客の立場から、一般にはこの行為はおすすめではない。わたしはブランドで選んでいるのであって、効果・効能は二の次なのだ。
サロンパスやバンテリンなど、消炎剤や塗布剤などは、心理的な商品でもある。ブランドと「知覚効能」(効いた気がする)がより大切なのだ。非合理的な消費者なのだ。
もっとも、世の中には、わたしのように考えない「腰痛持ち」もいる。元同僚の今橋教授(ワイカト大学、ニュージーランド)だ。かれは、いつも100円当たりのインドメタシンの量でブランドを選んでいた。今橋君ならば、きっと、ドラッグFの店員さんの説明に耳を傾けたに違いない。
経済学者らしく、(価格・重量)の単位当たりインドメタシンの量が、「傷んだ筋肉の消炎効果を決める」と、いまでも信じているだろうから。