資生堂がトップを外部からスカウト人事で迎えたことが話題になっている。社長に指名されているのは、元日本コカコーラ社長で、現在資生堂のマーケティング顧問をしている魚谷雅彦氏である。魚谷氏は、トイレタリーメーカーの「ライオン」の出身で、海外MBAの経歴を持つ。
「東洋経済オンライン」(2013年12月26日掲載)から引用してみる。
<外部からスカウト、資生堂が異例のトップ人事>
化粧品国内最大手の資生堂が、大胆なトップ交代に踏み切る。2014年3月末に現・代表取締役会長兼執行役員社長の前田新造氏(社長在任05年6月~11年3月、13年4月~)が執行役員社長を退任。4月1日付けで、マーケティング統括顧問の魚谷雅彦氏が16代目の社長となる。魚谷氏は6月下旬開催予定の定時株主総会を経て代表取締役に就任する。前田氏は同じ株主総会で会長を退任し、相談役に退く。12月24日開催の取締役会で決定した。
この記事から見えてくることは、つぎの二点である。
まず言えることは、国内最大の化粧品メーカーである資生堂が、内部昇進人事で次世代の経営を担えるトップを選ぶことができなかったことである。正確に言えば、前田新造社長の後継社長として、”生え抜き”の末川氏が指名されている。前回のトップ交代は、不運にも2011年3月(東日本大震災の直前)のことであった。
ところが、それ以降は国内事業が停滞しただけでなく、それまで比較的順調に伸びてきていた海外市場、とくに中国ビジネスに陰りが見えてきた。急速な業績悪化(赤字転落)で前田社長が復帰することになるが、それは応急措置だったのだろう。在任期間はわずか1年。今回、次期社長に指名された魚谷雅彦氏は、現在資生堂のマーケティング顧問である。
結局、グローバルに事業を展開する企業として、「プロの経営者」を後継に据えざるをえないという事情が見え隠れしている。前田社長のような優秀な経営者が、内部で育っていなかったことが明らかになった。そのことを、創業家でもある福原義春・資生堂名誉会長はどのように感じて判断したのだろうか?気になるところではある。
第二に、魚谷氏の経歴に注目をしてみたい。魚谷氏は、元々がライオンの社員で、海外MBA経験者である。アスクルの顧問をしていることなどから、「ライオン」(トイレタリー・メーカー)つながりで、岩田彰一郎社長(ライオン→プラス→アスクル)との人脈があることがわかる。
岩田さんも魚谷さんも、ライオンからの転職組である。この系譜には、たとえば、プラネット創業者の玉生弘昌会長などもいるが、資生堂とライオンをつないでいる糸は、玉生さんのプラネット(化粧品トイレタリーの業界VAN)である。広い意味で同業者なのである。
いま名前をあげた3人(岩田~魚谷~玉生)は、たまたまライオンの出身者であるが、本質的には、マーケティング(+情報ネットワーク系の仕事)が専門である、魚谷さんのように、海外MBAのネットワークとのつながりも透けて見える。たとえば、直近のYahoo!とアスクルの提携話などは、「グローバル」+「転職」+「マーケター」+「ウエブマーケティング」のキーワードで説明ができてしまう。
人的なネットワークの結節点に、彼らメジャー・プレイヤーたちはいるのである。資生堂の今度の人事は、そのような観点から見えると、別に驚くべきことではないとわたしは考える。
業界の人脈絵図をみると、大手メーカーや小売業で、外部からのスカウト人事がこれからもたびたび起こることが予想できる。そして、うれしいことには、未来の社長に登用されるのは、マーケティングをキャリアとしてきた「市場志向型」の経営者である可能性が高いのである。
というのは、従来型の内部昇進人事では、総務系・財務系をキャリアにしている人材に有利に働いてきたが、外部スカウ人事となると、営業・マーケティング系の人材に優位性があるからである。そのことは、誰の目にも明らかである。たとえば、内部昇進の事例でいえば、少し前にブログでその著書(『ゲームのルールを変えろ』)を紹介した高岡浩三社長(ネスレ日本)なども、典型的な営業・企画型のトップ・マーケターである。
つまりは、専門経営者(経営トップ)として、従来から主流だった総務・財務系(戦略系)だけではなく、マーケティング・営業系の人材にもトップに昇っていく道が開けてきている。大学院でマーケティングを学んでいる院生には、そうした社会の流れを励みに感じてもらいたいのである。